__ 表紙 呂日記 3冊目 AGI槍両手騎士 ××××× 駆け出し火マジ ××××× 未来の大黒柱  ××××× 俺 __ 2ページ 当日記のルール 1) ×(廃止)ログインした日は必ず書く。       たとえ何もおこらなくとも。       →今は毎日ログインしてるような状況だしねぇ。 2) 最低1行。 3) 最大1ページ。 4) フォーマットは特になし。 5) どんなクソ日記でも後日書き直しはゲン禁 以上。 __ 3ページ 5月20日 せっかくノートがあるのでどうせなら…と思い日記を再開する。 なんだかんだ言って日記書くと気持ち落ち着くし。 …それに、帰れなかった時には、遺書にもなるだろうし。 タイトルを「RO日記」にした理由は、なんとなく。 家で書いているリアルの日記と混ぜたくなかったし、 それにやっぱり今の俺の状態ってまともじゃないから、 ホントの「日記」ってことにするにはためらいがあるンだ。 …とかなんとかいっときながら、実のところこの状況を冗談として 笑い飛ばすことくらいしか今の俺には救いがないもの。 なんか…認めちゃったら何かが終わるような気がして、怖くて。 いじょ。 __ 4ページ 5月23日 どーも最近肩がこってきた。 なんだかんだで洗濯なんつー肉体労働の仕事してるからかな? 毎日パソコンに向かっていた頃のなんとなくけだるいような 生ぬるい肩のこりかたではなく、なんつーか、もっと直接的なこりかただ。 …どうも日本語が不自由だな。 あと、今この日記書くのに使ってるシャーペン、芯がなくなりそう。 筆箱の中にちょこっとだけ残ってた補充のヤツはあらかた折れてしまってるし。 近いうちに筆記用具を買わなきゃならないだろう。 できれば消しゴムで消せるヤツがいいんだが。 __ 5ページ 5月26日 プロンテラから行商人が束になってやってきた。 宿のおかみさんに話を聞いてみるとアルベルタで開催される 市に向かうキャラバンなんだそうな。 3日間くらいはこのフェイヨンに滞在しているのだという。 おかみさんは 「どうせならウチに泊まってくれればいいんだけどねぇ」と言っていた。 彼らはチュンリム湖でキャンプを開くんだそうだ。 …しばらくは楽に稼げるかも知れない。 PS. そうだ、あとついでに筆記用具を買っておこう。 __ 6ページ 5月30日 幸いにしてキャラバンの一人からペンを購入することが出来た。 さすがに鉛筆とかは売ってなかったが、プロンテラまで行けば きっと買えるだろうとのこと。 プロンテラ。 前にあった冒険者が言っていた。 「冒険者になりたいなら、プロンテラへ」と。 考えても結論出なかったから、考えないようにしていたんだけどな、 冒険者になること。 でも、せっかくだし、鉛筆を買う為にプロンテラ行ってみるのは 悪くないかな、と思った。 キャラバンはまた数日後にフェイヨン経由でプロンテラに行くらしいので、 それまでにどうするか考えておこう。 __ 7ページ 6月1日 マジやべぇ。 先日買ったペン、インク強すぎ。 ページの裏まで文字が染みてる。 日記書くスペースがない。 書くときには下敷きでもしこう、今度から。 __ 8ページ 6月5日 今日も大過なし。 ようやっとこっちの世界の文字とかが読めるようになってきた。 いままではゼニー硬貨しかわかんなかったから、コレは進歩だ。 ちょっと書いてみよう。 ××××× : こんにちは ×××××× : フェイヨンはいい町です ×××××××××× : 俺は肉が好きです 悪くない。 __ 9ページ 6月7日 日記、こっちの言葉で書こうと思ったけど、やめた。 6月5日のヤツ、後で読んでみたらぶっちゃけ汚くて読めない。 やっぱ俺は日本男児だから、日本語で書くことに決定。 もう少しでフェイヨンとはお別れっぽい。 おかみさんにプロンテラ行くかどうかの件で相談したら 「せっかくなんだからさ、広い世界に目を向けた方が面白いよ」 と背中を押された。 3日くらいで旅支度をしよう。 __ 10ページ 6月9日 俺、割と町の人から好かれてたのかもしれない。 お別れを言いにお得意さんとか回ったら、なんかいろいろモノもらった。 頑張ってとか、いつでも帰って来いとか言ってくれる人がいた。 洗濯物を運ぶ台車を貸してくれていた人は、 またいつでも貸してやるからと言ってくれた。 テレビの旅行滞在番組とか、割と馬鹿にしてたけど、 確かに生で言われるとけっこう来るものがあるね。 いい年して少し涙腺が解放されそうになった。 まぁ、そう簡単に水門を開けるほど俺は子供じゃないケド。 みんなありがとう。 明後日には出発します。 __ 11ページ 6月14日 今、俺はプロンテラへの帰途についているキャラバンと一緒にいます。 森は明日にも抜けて、少し砂漠を横断すればすぐプロンテラだそうです。 俺はいま、夜の番をしています。 森の夜は、しーんとしていて、かなり怖いです。 時折かさかさ、となる草の音に、心臓ばっくんばっくんです。 フェイヨンを出てから、3日経ちました。 もうチュンリム湖も遠くはるかです。 さみしいとか、そんなんはあまり思わないけど。 でも、きっとまた帰ってきますので。 ま、まぁ、鉛筆買って帰るだけかも知れないしね…。 __ 12ページ 6月20日 ずっと書いてないので、経過だけ。 6月17日、プロンテラ着。 6月18日、宿屋見つけ。 6月19日、市場散策。 キャラバンは現地で解散済み。 __ 13ページ 6月21日 ひとまず落ち着きました。 まず、プロンテラについての感想からつらつらと。 とにかく人が多い。 物価が安い。 広い。 今、俺は幸運にもキャラバンにいた商人さんに安めの宿を紹介してもらって、 少なくとも一週間の滞在ができる状態になってる。 フェイヨンで仕事してた頃のお金は食費以外は ほぼ全額貯めておいたこともあり、意外にも金銭的に余裕があることが判明。 鉛筆は…見つけることは出来たのですが。 高い。すんごい高かった。それに太くて書きにくそう。 売ってる人に話を聞いてみたところ、 「みんなペン使ってるから特に需要がない、だから作られないし、だから高い」とのこと。 とりあえず、鉛筆はいらないや、もう。 __ 14ページ 6月24日 いろいろ考えてみて、決めました。 初心者修練所に行ってみようと思います。 正直、冒険者になるかどうかはわからないけど、 せっかく来たんだからやれることやっとこうと思った。 …ほら、俺がこっちに来たのだって、何か意味があるのかも知れないしさ。 それにやっぱり、ROの世界にきたんなら冒険者になりたいって希望はあるし。 もう場所の確認とか準備とか完了してるし、明日早速行ってこようと思う。 __ 15ページ 8月19日 もうすっかり夏のはずなのにプロンテラはそんなに暑くないね。 ひょっとして冷夏かな? いやいや、それはどうだろう。 そもそも日本とプロンテラじゃ、四季の移り変わりとか違うかも知れないし。 …いや、後で見返したらきっと「なに俺、2ヶ月も日記止めてたの?」 とか思うに決まってるから今のうちに言い訳しとく。 初心者修練所で日記ノート取り上げられました。 いや、入ってる間は、一切の持ち物の持ち込み禁止だったの。 実際パンツ以外はひん剥かれて持って行かれたし。 初心者修練所で生活していた2ヶ月については、また機会があれば書こう。 とりあえず今は。 俺、晴れてノービスになりました。 __ 16ページ 8月21日 ノービスにはなったが…これからどうしよう。 フェイヨンに帰ろうかな。 考えてみたら、特に目標とか設定してないのよね、俺。 服装もフェイヨンで買った服をそのまま着てるし。 変わった点といえば、ナイフを腰に差すようになったくらいか。 とりあえず、宿は明後日には引き払うから、それまでに考えよう。 __ 17ページ 8月24日 ポリン殺し。 服がべとべとになった。 ちょっとだけ怪我した。 終わった後、爽快感と罪悪感が残った。 それとべとべとの残骸が残った。 これがゼロピーだろうか。 __ 18ページ 8月25日 とりあえずはプロンテラで生活をしていくことに決定。 まだ見てないところもたくさんあるし、フェイヨンに帰るにしろ 旅費を確保しなくてはならない。 今日はゼロピーを売るのに苦労した。 実際のところ「どうかな」、と思っていたが、やっぱり普通の店じゃ 買い取ってくれるわけもなく、半日近く駆けずり回る羽目になってしまった。 今は宿を引き払って寝袋で寝ているんだが、大都市プロンテラでも 夜はちゃんと星が見える。 東京じゃ何も見えないからナァ。 星座の知識がないのが残念だが、星座が分かる人には あの星々に、地球から見るのと同じ星座を見つけることができるのだろうか。 __ 19ページ 8月29日 日々ポリンと格闘してます。 ポリン倒して、ゼロピーを集めて、売って、ご飯を用意する頃には 日が暮れているという毎日を繰り返しています。 …退屈とかは感じないんだよな。 戦ってるときは必死だし。 話は変わるケド、最近少し生活に余裕が出てきたので、 過去の日記を読み返していました。 …なんつーか。 リアルの頃とちょっと混じってるんだわ、2冊目。 今の生活ってわるくないけどさ、ちょっとだけ気持ちが揺らいだ。 __ 20ページ 9月2日 懐かしい人たちに出会った。 フェイヨンで会った、アコライトの彼氏と剣士娘さんのコンビ。 プロ街門でばったり。 昼食に誘ってもらったので、ありがたくいただくことにした。 彼らはこれからゲフェンに向かうとの事。 ゲフェンダンジョン攻略か…正直なところ、一次職ふたりでは 苦しいんではないかと思うが。 俺が心配だ、と言うと、剣士娘さんはこぶしで (あまり豊かとはいえない)自分の胸を叩いて「あたしたちなら大丈夫!」と笑った。 アコさんは「当然、現地で他の協力者を募りますけどね」とフォローし、 俺の心配をやわらげてくれた。 …彼らの安全と武運を心から祈る。 __ 21ページ 9月4日 いま、俺は切実な問題を抱えている。 この日記の、ある意味存続にかかわる重要な問題。 …時計がぶっ壊れかけてる。 なんだかんだで結構きつい環境で動いてるからナァ。 電源の補給もないし。 でも壊れられると困る、非常に困る。 日記に日付つけられなくなるじゃないか。 __ 22ページ 9月7日 今日、騎士のギルドのマジ娘さんにそっくりな人を見つけた。 まぁ、ゲーム画面じゃみんな似たり寄ったりなんだが、 何故か俺にはその人が、彼女そっくりに思えたんだ。 今考えると、雰囲気が似ていたのかな。 思わず声を掛けてしまった。 でも、話をしてみるとその人は俺の知っているマジ娘さんではなかった。 名前は同じだったけど、俺の騎士のことは知らなかったし、 リアル(つーか日本って言ったほうが適切か?)の話をしても全く分からないようだった。 話を聞いてくれた礼を言って、その場は別れた。 …そーいや、今ごろあっちじゃどうなってるんだろうな。 会社はもう俺をクビにしてるだろうか。 誰か、俺が行方不明になったことに気づいて、捜索願いでも出してるんだろうか。 両親や同僚や、ギルメンは?俺のことを心配してくれてるだろうか…。 帰りたくなってきた。帰りたい。一度でいい。 __ 23ページ 9月8日 なんか昨日の日記見るとホームシックにかかってるみたいに見えるね。 寝たらすっきりしちゃったケド。 …それはそうと。 もうそろそろホントに時計がヤバイ。 アナログだったらまだしもデジタル時計なので こっちの世界では修理は出来ないだろう。 一応こっちの暦は知ってはいるけど、 日記の途中から使う暦が変わるのって、なんか変だし。 早急にどうするか考えておかないと。 __ 24ページ 9月11日 日付の件はとりあえず決着がついた。 しばらくは携帯電話でなんとかする。 日にち経っててなんだが、やっぱりこの前のマジさんが気にかかる。 彼女、名前はギルメンさんと同じなんだよな…。 つまり、つまりだ。 この世界って、普通のプレイヤーのキャラがいるのか? いや、しかし、それなら彼女がリアルの話を知らないはずがないし。 とりあえず、彼女はプレイヤーが動かしているキャラではなく こっちの世界でふつーに生きてる「人」ってことになるのか。 でも、雰囲気とか口調とかは、確かにマジ娘さんに似ていた…ような気もする。 と言うことは、やっぱりリアルとなんらかの関わりがあるのか? それとも、偶然性格が似ていただけだろうか…。 確認する方法は…そう、他に俺が知っている人を探せばいいんだ。 いや、でもそれを確認したところでどうするんだ。 リアル知らない人に俺の事情を説明しても理解してはもらえないだろうし。 …あーくそ、こんがらがってきた。 結局これだけじゃ事態を解決する手がかりにはならないだろう。 __ 25ページ 9月15日 今日は初心者修練所で最後の面接。 ゲームと違って、アフターケアがあるのには驚いたね。 今まで、日記には書いてなかったが。 まぁ、これほどケアされてるのは、俺が特別だからなんだろ…悪い意味で。 結論から先に言うと、俺にはSPがない。(修練所の職員は「SP」という言葉は言ってないが) これは修練所始まって以来の珍事だそうだ。 「ミッドガルドの住民は、だれでも多かれ少なかれ、魂のなんちゃら(忘れた)を秘めている」 そんなことを言っていたような気がするが、とにかく俺にはそれがないそうだ。 ま、考えてみたら当然だろう…俺はこの世界の人間ではないのだから。 おかげで俺には他の冒険者にはない制約が結構あるのだ。 SPを使用する(らしい)Wisは機能しないし、商人が使う露天ツールの展開も出来ない。 そんなわけで、一時は冒険者になるのは危険だとか言われたんだが、 それでも俺はいま、なんとか冒険者として食ってるわけで、そろそろ 転職の方針を決定しなければならなかったのだ。それで今日の面接というわけ。 あまり長くもない協議の末、結局は「剣士が一番いいだろう」ということで決着がついた。 俺もそう思う。というか、それしか出来ないだろ、きっと。 …つーわけで、明日かあさってには一路イズルードへ行こうと思います。 多分今の俺なら一人でもいけると思うし。 __ 26ページ 9月18日 今、俺は一路ゲフェンへと向かっている。 同行者は、マジシャンに転職する予定のノービスの青年。 行き先が同じなので同行させてもらうことにした。 15日に決めたイズルード行きは、中止。 まだ、うわさでしかない。 あくまで、確認しに行くだけ。 きっと大丈夫。 …あの二人が死ぬはずないと、俺は信じているから。 この話が俺の耳に入ったのが、おとといの昼。 速報を廻していた商人から。 「ゲフェンダンジョンにて、凶悪な魔物の発生により多数の死者」 そのリストの、行方不明者の欄に、あの二人の名前が。 やっぱりだいじょぶでした。 次の日記には、絶対そう書けるように。 お願いだから。 __ 27ページ 9月22日 彼女は、今は落ち着いてぐっすりと眠っている。 頭が真っ白になったまま動き回ってた俺も、少し落ち着いた。 今のうちに日記を書こうと思う。彼女や、他の人に聞いた話をまとめておこうと思う。 彼女たちは、8人のパーティでゲフェンダンジョンの下層を目指したという。 騎士、ハンターが2名、プリースト、アルケミスト、マジシャン。 そして、アコさんと剣士娘さん。 彼らは順調に下層への道のりを進んだ…途中襲撃してきた魔物も、 リーダーの騎士の統制のもと、手際よく撃退して行った。 そして、地下3層…事の始まりは唐突だったそうだ。 周囲の掃討が終わって一休みしている彼らのもとに、それは来た。 哨戒に立っていたハンターが一瞬のうちに血まみれになって倒れて。 …彼女は、大量のナイトメアと、半透明の剣士の姿を見たそうだ。 …ドッペルゲンガーが出たのだ。 それから先は絶望的な遁走。 アルケミストとマジシャンはロクに応戦するひまもなく馬に蹴り殺され、 もう一人のハンターと騎士がドッペルゲンガーを押さえこんだが、劣勢。 アコさんはワープポータルを唱え、剣士娘さんが馬の群れを抑えて。 騎士が倒れ、ハンターが罠を敷きつつポータルへ飛びこみ、プリさんが切り伏せられ。 彼女が、決死の覚悟で前に出ようとした、その時。 アコさんが、彼女を力づくでポータルに投げ込んだのだと。 彼女がゲフェンに転送されて…その後聞いた話では、 彼女の後、消えるまでそのポータルから出てきた人間はいなかったそうだ。 …今日は疲れたから、ここまでで一度切る。 __ 28ページ 9月23日 彼女は、今は静かに横になっている。 体中に出来た傷や打撲は、幸いにしてさほど重症ではないとのことだが まだ体力が回復していないので、歩くのは無理だとのこと。 …なのに、彼女は起き上がりたがるのだ。 いま、俺はプロンテラ騎士団員数名を含んだ、ゲフェンダンジョン討伐隊の 帰還の様子を眺めながら、これを書いている。 まだ正式な報告はなされていないが、討伐隊は数名の犠牲者を出しつつも 無事ドッペルゲンガーを撃退。 冒険者たちの遺体や遺品のいくつかを持ち帰ったとのこと。 …そのなかに、彼は…アコさんはいるのだろうか。 最後の彼は、笑っていたそうだ。 力強く、安心させてくれるような、そんな笑みだったと。 そして普段では考えられないほど強い力で彼女を引っ張り、ワープポータルに押し込んで。 それが彼女の見た、彼の最後の姿。 …そろそろ、あちらも落ち着くだろう。 彼女に代わって、彼の所在を確認しなければなるまい。 今日はこれで筆を置く。 __ 29ページ 9月25日 討伐隊が運んできた遺体のなかに、彼の姿はなかった。 …期待をするには、状況は絶望的過ぎると思う。 それでも、こころは、期待している。大丈夫だと、祈るような気持ちでいる。 彼は無事に逃げ出せて、きっと今はどこかで体を休めていると。 また、元気な姿で俺の前に、彼女の前に現れてくれると。 …人の生き死にってやつに対しては、理屈なんて何の役にも立たない。 俺は、今日始めて実感としてそれを知った。 理不尽でも、楽観的過ぎても構いやしない、だから。 一方、剣士娘さんは気丈にもベッドから立ち上がり、すでに旅装を整え始めている。 「冒険者だもの。いつかはこんな日が来るかもって、ちゃんと二人で 話はしていたし。それがたまたまあの日で…取り残されたのがあたしだってだけ」 俺のクソの役にも立てない慰めに対し、彼女はそう言って笑って見せた。 泣きはらした真っ赤な目で。 __ 30ページ 9月27日 今日、彼女がゲフェンを出て行った。 傷はほとんど癒えて体力も回復したから、と彼女は言った。 「ずっと寝てばっかりじゃカラダなまるしね」と笑った。 俺は彼女を引きとめた。 まだ、彼の遺体は見つかっていない、ひょっとしたらまだ 無事に生きているかもしれない。 彼はワープポータルが使えるから、それで逃げられたのかも知れない、と。 しかし彼女は言った。 「アイツは、生きてるかも知れない、…死んでるかも知れない。でも、今はいない。 あたしだって、アイツを待ちたいよ。でも、あたしは冒険者。 歩いていかなきゃいけないんだ。進んでいかなきゃいけないんだ。 今ここで、アイツを待つことにしてしまえば…あたしは動けなくなる。 今日待って駄目だったら、明日。明日も駄目なら、あさって…きっと諦められなくなる。 アイツは…アイツだったら、きっとそんなあたしより、冒険者のあたしが良いって言うから」 俺はこの言葉を忘れない。 そして彼女は去っていった。 俺は、彼女と同行はしない、出来ない。 俺はまだ冒険者としても弱いし、それに、彼女が夜毎泣くまいと歯を食いしばりながら 涙を流すのを見ていられるほど、こころが強くないから。 __ 31ページ 10月1日 俺はゲフェンを去ることにした。 すでに準備は万端整っている。 後は行くだけ。 俺は、結局誰の力にもなれなかった。 来て見てそして帰って。 そりゃ、すでに終わった状況をどうにか出来ると思うほど俺も傲慢じゃない。 でも、俺には彼女を慰めることもロクに出来なかった。 中断していた、イズルードへの旅を再開しようと思う。 こんな俺でも、転職すれば…剣士になれば、きっと 今より強くなれると思うから。 そうすれば、きっと、何かが良くなる。 うまく言葉に出来ないけど、そう思うから。 …これで当冊子への日記の記入を終了する。