目が覚めたら、どっかの部屋にいた。
 なんか回りに人がいっぱいいるし。満員電車みてえ。
 でも満員電車と違うのは、なんかみんな看板みたいの背負ってるってことだ。
『エルオリS装備品』とか書いてある。ナニコレ?
「おーい」
 近くの奴に声をかけてみる。返事なし。ほっぺた突付いてみる。反応なし。
 つか、こいつらの格好って何よ?
 テキサスから来たみたいな奴とか、ボディコン服みたいなの着た奴とか。
 中にはスカートでM字開脚してる女の子とかいるし。
「もしもーし?」
 やっぱり反応なし。寝てるのか? でも目は開いてるんだよなぁ。
 しばし黙考。
 意を決して、そっとしゃがみこむ。
 俺に気付く様子もなく、女の子は看板出したままぼーっとしてる。
(あとちょっと……もう少しで、見え……)
 俺がさらに顔を下げようとした時、
「すいませーん、これ精錬してもらえますか?」
 いきなり話しかけられた。
「だ、誰だっ!?」
 慌てて立ち上がり、きょろきょろと周りを見渡す。
 いた。
 なんか中世の鎧みたいなの着たゴツい男が、兜っぽいもの持って立ってる。
「はい、これお願いします」
 そいつはそう言って兜とよく分からん金属の塊を差し出した。
「はあ? これ何?」
「何って、ヘルムとエルニウムですけど」
 ヘルム……は、まぁ分かる。でもエルニウムって何だ?
「まぁいいか。んでこれがどうしたの? 俺にくれるの?」
 男は怪訝そうな顔をして、
「いえ、精錬して欲しいんですけど……」
 精錬?
「ほら、いつもしてるじゃないですか。それで」
 俺がキョトンとしてると、男はチョイチョイと俺の背後にあるハンマーを指差した。
「ああ、これ」
 俺はハンマーを手に取った。うわ、重っ。
「んで、これでどうやるの?」
 男はいよいよ怪しげな視線を俺に向けてくる。
「……ヘルムにエルニウムをあてがって、そのハンマーで叩いて融合させるんです」
「はあ」
 融合? つか叩いたくらいでそんなことできるのか?
 ありえねえ。常識で考えてンなことできねー。
「……まぁいいや」
 俺は言われるままにエルニウムとかいう金属をヘルムにあてがい、ハンマーを振りかぶった。
「おりゃ!」
 気合一発。ハンマーを振り下ろす。
 カァン、と乾いた音がしたのと同時に、ハンマーが光った。
 すると奇妙なことに、エルニウムはヘルムに吸い込まれるように消えていった。
「……え?」
 俺がびっくりしてハンマーとヘルムをまじまじと見つめていると、
「ああ! ありがとうございます!」
 目の前の男はそう言ってぺこぺこと頭を下げた。
 うーん。なんだかよく分からんが超嬉しそう。
 どうやら俺はすごいことをしたらしい。
「はい、これはお礼です」
 男はそう言って、札束を俺に手渡して去っていった。
「――ふむ」
 残された俺は、ハンマーの先端をちょいちょいと指で突付いてみた。
 何も起きない。
 でも、確かにさっき、これが光ったように見えたんだよなぁ。
 それに、エルニウムとかいう金属がどっか消えちゃったし。
 融合とか言ってたっけ。
 そんなの無理だろ、とか思ってたけど、人間何でもやってみるもんだな。
「まるで手品師だな、俺」
 手品と違うのは、俺自身もタネを知らないってことだ。
 もしかしたら、このハンマーにすごい力があるのかもしれない。
「あ、そういえば、何かお礼もらったっけ」
 机の上に置いておいた札束を手に取る。
「……うわ、これどこの通貨よ?」
 日本円じゃない。ドルでもない。ユーロでもなけりゃペソでもない。
「ゼニーって、聞いたことねぇな。まぁいいか、あとで銀行に行って交換してもらえば」
 
 ――だが結局、その必要はなかった。
 あれから一月ほどが過ぎ、色々なことが分かってきた。
 どうやら、ここは日本ではないらしい。ナントカミッドガッツとかそんな名前の国で、ゼニーってのはここの通貨らしい。
 んで、俺の仕事は、持ち込まれた物と色んな金属をハンマーでぶっ叩いて融合させること。
 今日も、数え切れないくらいハンマーを振り回した。
「はー、腕がパンパンだ」
 呟いて、二の腕をマッサージする。
 単純な作業に思えたが、これが案外難しい。力加減を間違えると、融合させたい物体そのものが砕け散ってしまうのだ。
 そのたびに、依頼人から恨みがましい視線を向けられる。中には「てめぇいつかブッ殺す!」とか言ってくる奴もいるし。うぅ、胃が痛え。
 ここでは俺はホルグレンとか呼ばれてる。本名を名乗ったけど、「こやつめハハハ」で流さ
た。
 まぁ、ホルグレンって響きも嫌いじゃないし、これはこれでいいかと思ってる。
「――それに」
 俺は机の上に積み上げられた札束に視線をやった。
 最初はよく分からなかったが、どうやらこの仕事はかなり稼ぎがいいようだ。
 近頃では、ここの暮らしも悪くないと思うようになってきた。
「あのぅ、これお願いできますか?」
 ……お、次の客か。
 スク水みたいなのを着た女の子が、ヘンな形の刃物(カタールとか言うらしい)を持ってきた。
 ふむふむ、なかなか好みじゃないか。服装もエロいしな。よっしゃ、ここは一つ気合入れるか。
「行くぜ!」
 叫んで、俺はハンマーを振り上げた。

 -fin-