あらすじ。 目が覚めるとそこはラグナロクの世界だった。 山田一郎(23歳会社員)は途方にくれたが、お人好しなマジシャン、ユーリに助けられながらも、 元いた世界に帰る方法を探すため冒険者になることを決める。 仲の良い友達のイーザック、お転婆メイ、飲んだくれのゴードン、生意気な子供アルバイト。 ラグナロクの住人と触れあうことで少しずつ世界に溶け込んでいく一郎。 心も体も少しだけ成長した彼はついに冒険者になる。 ノービスの一郎が向かう先はルーンミッドガッツ王国首都プロンテラ。 そこには大きな試練が待ちかまえているのだが、そのことを彼はまだ知らない・・・・・ _________________________________________________________________________________________________________________ 小タイトル 1 プロローグ 2 目が覚めたら。          3 出会い              4 ルーンミッドガッツの世界         5 新たなる一歩           6 最初の訓練            7 修練所の夜            8 困った人             9 激闘!ファブル!         10生きるということ。        11修練所の二ヶ月目         12合同訓練             13ミョルニル山脈          14ピンチ到来!           15傷の手当て            16夢                17夕焼けに照らされて        18卒業試験             19適正検査             20冒険者              21冒険者協会            22店長               23依頼               24イーザック            25盗蟲退治             26任務完了             27憧れの人             28真昼のデート           29プライド             30ロードナイト           31優しい女の子           32捕虜               33ハイオーク            34戦士の証             35嵐を呼ぶ者            36鮮血               37憎しみに囚われて         38回想               39冬の終わり 40悲しみと共に 41マジシャン 42コモドの休暇 43チャンピオン 44希望 45小さな秘密 46君と僕と部外者と。 47その男危険につき _________________________予定_____________________________ 48もう一人の異世界人 49別れ 50長い夜 51赤い少女と黒い青年 52恋心 53やすらぎ 54賢き者 55決戦!ジュノー! 56再会 57戦乙女 58ユミルの心臓 59風を呼ぶ者 60ミッドガルドの歩き方! 61エピローグ __________________________________________________________ ミッドガルドの歩き方設定 山田一郎(やまだ いちろう) イメージ 23歳。職業は会社員。何の因果かラグナロクの世界に飛ばされてしまった小説の主人公。 素直な性格で人の言ったことを鵜呑みにするところがある。ロリコン。 運動は割と得意だが、腕力はあまりない。ROの中で自分の操る騎士に理想を投影している。 最初は脳天気だった彼も、ラグナロクの世界に行ったことで現代社会で失った自分を取り戻していく。 一郎の体は家に置きっぱなしのため、不死身の肉体である。死ぬととても痛い。 ノービス→マジシャン→セージ転職。アルバイトにラブラブ。 クライマックスでバイオレンスドゲイルで風を呼ぶ。風が…イチローが呼んでる…!みたいな熱い展開意識。 ユーリ=ユーリィ。 イメージ ゲフェン出身のマジシャン。短い金髪と青い瞳の持ち主。全体的にお人好しの雰囲気を醸し出している。 昔ゲフェンの貧民街に兄弟二人で住んでいたが、ゲフェンの金持ちの子供に兄が殺される。 とてつもない美形で女にしか見えない。しかし、その正体は戦乙女ヴァルキリー。 既に息絶えたユーリの名前と経歴と記憶を借りているだけにすぎない。ユーリ演技時はヴァルキリーの記憶を失っている。 一郎をルーンミッドガッツに召還したのもユーリであり、常に一郎の監視、誘導を行っている。 その目的はルーンミッドガッツを安定させるため(新人ギルメン入れて気分リフレッシュ!みたいな) ジークフリートにラブラブ?ケンゴはちょっと苦手。 イーザック=シェスタ。 イメージ 緑の髪、緑の目の青年。23歳。背が高く、目つきが鋭いことから勘違いされがちだが実はおしゃべりで人なつっこい。 モロクに12人の妹が住んでいる。プロンテラに出稼ぎに来ていたがそこで冒険者を目指すことに。 軽業師も真っ青のバランス感覚と、脅威の戦闘センスを持っているが本人はその事に気がついていない。 幼いころジークフリートに命を救われたことがあるため、ジークフリートをリスぺクトしている。 ジークフリートに仲間になれと言われるが、友情のためにそれを断る。一郎の親友。 ノービス→シーフ→アサシン転職。 ゴードン=マクドーガル イメージ シュバルツバルド共和国の農村出身の48歳。モンスター襲撃によって生まれ育った村を滅ぼされた。 元は虫も殺せない純朴な男だったが家族の死を転帰に冒険者になる。酒が大好き(味は分からない)。 ドワーフの様な体はパワーに溢れている。一郎にとっては人生、冒険者両方の尊敬すべき先輩。 髪と目の色は焦げ茶色。ノービス→剣士→クルセイダー転職。 メイ=ウォルツ イメージ 16歳で、黄色いクリクリとした目と流れるような青髪を持つ可愛らしい少女。 出身不明。幼い頃にアルベルタ近くの浜に打ち上げられたところを育ての親に助けられ育ててもらう。 そのことに引け目を感じ、成人してから(15才)は自立するために冒険者を目指す。 誰にも言わないが女として発達していない体にコンプレックスを持っている。 騒がしく、いたずら好きだがそれは本来大人しい性格の裏返し。育ての親が住む故郷、アルベルタでは人気者。 イーザックにラブラブだが、安心を愛と錯覚しただけ。ハートブレイク。 ノービス→アーチャー→ハンター転職。 アルバイト=カットリム イメージ アルベルタの豪商、カットリム家の末っ子。天才的な頭脳は学問の発信地ゲフェンでも一目置かれている。 小さい背丈に燃えるような紅い髪、緑眼。クセは眼鏡をクイッと上げること。語尾は〜さ。偉そう。 料理とか駄目。偉そうなのは恥ずかしがりの反対。僕っ子。11才。本名アルマリア=カットリム、女。 ノービス→マジシャン→ウィザード転職。イチローにラブラブ。ラブラブったららぶらb! 騎士王ジークフリート イメージ ルーンミッドガッツでも数少ないロードナイト。プロンテラ騎士団第二師団の団長。 最年少の31才で団長クラスになる。光の槍ブリューナクを片手に今日も無敵街道まっしぐら。 ちょっと眼が逝ってる。幻想○滸伝2の某悪役みたいな感じで。 昔は正義に燃える騎士だったが、理想と現実のギャップに精神崩壊。一転して危ない人に。 強力な魔力を秘めた武具の魔力とジュノーのユミルの心臓を使って、 現実世界とROの世界を繋げようとする(援軍?を呼ぶために?)。ラスボス! エルバ イメージ オークの村に住むオーク(ガール?)の娘。 娘は三つ編みツインテールで内気。喋る時は必ずあの・・・その・・・とつける。 イチローが好きだが、愛ではない。少女に見えるが実年齢20才。 オルソ イメージ 典型的なハイオーク。村長。威厳大。 芝崎健吾(しばさき けんご) イメージ ミッドガルドに召還されてしまったもう一人の日本人。ミッドガルド在住歴100年の超ベテラン。 見た目は26才くらいの背の高い青年。年を取らない。職業はプロフェッサー。どこか悟った感じがある。 ジークフリートの仲間ではあるが目的のために手を組んでいるだけである。 自分を呼び寄せたヴァルキリーを恨んでいる。とんでもなく強い。 目的(現実世界に帰る)のためなら人間だろうがモンスターだろうが利用する。 没・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 時間は午後。 空にはうっすらと月が見え隠れし、通りに並ぶ露天も数を減らし始める頃、俺たちはプロンテラに到着した。 昔、修練所に行った時は10時間は掛かった道のりを 半分くらいの時間ですませられたことに少なからず感動を覚える。 「イーザック、さっき言ってた心当たりって何のことなんだ?」 俺たちは修練所を出発してまっすぐプロンテラを目指した。 それというのも冒険者になりたての俺たちは先立つもの(ゼニーのことだ)が無かったのだ。 イーザックの話によると、修練所でもらった卒業祝いの300zでは3〜4日の宿代にしかならないらしい。 その間に仕事を見つけるなり、魔物を退治して金を稼げということなんだろう。 修練所では食事の心配をしなくて良かったが、このままでは3日後から食うにも困る状態になってしまう。 ということで、早急に仕事を探さなければならなかった。 狩りをするという手もあったが、ナイフ一本で魔物に挑むには不安が残る。 メイとイーザックにそのことで相談するとイーザックがプロンテラに仕事の当てがあると言い出した。 それにプロンテラに行けば、その当てが外れたとしても他の都市より多くの仕事があるはずだし 大きな冒険者協会があるためサポートを受けやすいらしいので、俺たちは首都に向かったのだった。 「イチローそう焦るなよ。以前、オレが料理のバイトしてたって話しただろ? 料理店と宿が合わさった様な所なんだが、そこの店長が結構いい人で、もしかしたら雇って貰えるかもしれない。」 イーザックは目を輝かせる俺とメイの顔をチラッと見て続けた。 「それにもし雇って貰えなくても、宿だからな。そこに泊まればいい。良い案じゃないか?」 「イーザック、今日はなんだか頼もしく見えるよ。」 「いつもとは大違いだ・・・とても良い案だと思う。」 素直な感想を言うと、イーザックは悲しそうな顔をした。 「お前ら、いままで俺をどんな風に見てたんだよ。」 「それでそれで?どこにあるの?その宿屋って早速行こうよ。」 メイが待ちきれないとばかりに身を乗り出す。 「そうだな。場所はプロンテラの南東、ここから歩いて10分ってところか。」 そちらの方角に視線を向けるイーザック。 「名前は、風戦ぐよもぎ亭って言う変わった名前の店だ。」 22、風戦ぐよもぎ亭 「へい、ビール3、ステーキ空豆チーズフライいっちょう!」 「店長!つまみ切れたから追加ね!」 「ほいさ!ちょっと待ってろよ!」 目の前にそびえる4階建ての木造物から威勢の良い声が聞こえてくる。 よもぎと言う名前からは想像もつかないほど頑強そうな作りの建物だ。 入り口前の階段の上には掠れていて殆ど読めなくなった看板が掛かっている。 最初に一歩前に進み出たのはイーザックだ。 「ここが風戦ぐよもぎ亭。お前らはちょっとそこで待っててくれ。」 理由は分からないが少し汗をかいている。 「えー、なんで。一緒に入ればいいじゃん。」メイは不服そうだ。 「少しばかり事情があってな。ほんの少しでいいんだ。待っててくれよ。」 手を振ってよもぎ亭に入っていくイーザック。 「まだかなぁ。」 「中に入ったばかりだろ、事情があるならしょうがない。」 メイは暇なようで、足下の土を蹴っている。外は冷え込んで来ているので寒い。 俺としても早く出てきてくれると嬉しいんだけどなぁ。 宿の明かりは煌々と光っており、暖かな空気が流れでてくる。中は暖かそうだ。 マッチ売りの少女もこんな気分だったのだろうか、 もっと寒かったんだろう、などと考えていると宿で動きがあった。 「このっ、糞野郎!どのツラ下げて戻って来やがった! こっちがあの後どれだけ忙しくなったかわかってんのか!」 という怒声に押されるようにイーザックが宿から飛び出て来た。 「イーザック、どうしたの?」メイがイーザックに駆け寄る。 「すまん、後ちょっと待っててくれ。今、あの糞オヤジを説得してくるからよ。」 なぜか闘志に燃えた目をしているイーザック。 すると、宿の入り口から一人の男がのそっと出てきた。 「イーザック…ここで引導を渡してやるぜ。」 でかい。2メートルはある巨躯、筋骨隆々の引き締まったからだに熊さんエプロン。 金色の髭で覆われている精悍な顔立ち。一言で言うなら、ダンディと言ったところか。 「へっ、店長こそもう40になるんだから若い世代に交代したらどうだよ!」 どうやら目の前にいる渋い中年が風戦ぐよもぎ亭の主人らしい。 なんでこんな展開になっているのかは謎だが。 ゆっくりと入り口前の階段を下りてくる店長、それに対してファイティングポーズを構えるイーザック。 間合いは約2メートル。突如、店長が消えた。いや消えた様に見えた。 一瞬でイーザックの左側に移動したのだ。そこからリーチの長い右ストレートを撃ち下ろす。 イーザックはそれをしゃがんで回避する。イーザックの身長は175センチ前後なので危なげはない。 そのまま、左足で足払いをするが、店長はそれを予想していたらしく足を上げてやり過ごした。 イーザックが後ろに後退し間合いを取り直す。 「おっイーザック帰って来てたのか!」 「しばらくこれ見れなかったから退屈してたんだよな!」 「やれーイーザック!今日こそ店長を倒せ!」 「これで負けると214戦214敗だぞイーザック!」 いつの間にか二人の周りを宿から出てきた人々が囲っていた。 そのうちの一人が俺に気がついた。 「お?あんちゃんイーザックの新しい友達か?いつものことだから見てなよ。」 戦いに目を戻す。どうやらイーザックは劣勢の様だ。 店長の的確な攻撃を上手く避けてはいるが なかなか反撃の糸口をつかめないでいる。 というか、実は避けてるだけで凄い。イーザックってあんなに強かったのか。 あの体格差でここまで肉薄出来るとは。俺だったら一撃でやられているだろう。 しばらくして隣にいた男が腕時計を見た。魔法式とは、飲んだくれに見えるけど金持ちらしい。 「もうそろそろかな。」 「何が、もうそろそろなんですか?」と聞くと。 「試合の終わりがさ。いつも店長のアレで決着がつく。」 アレってなんだ? 「イーザック、相変わらずのへなちょこブリだな。 店の仕事ほっぽらかしておいて何の成長もなしか。」 余裕の表情の店長。 「うるせー!前とは違うってことを見せてやるぜ!」 吠え声と共に突撃するイーザック。店長は慌てず、腰を深く落とし拳を握る。 ゾクリ、それを見たとたん寒気が増加した。なんだ?店長の右腕に湯気が立って見える。 イーザックが店長に近づく。そして。 「ふっ!」店長の腕が一瞬光ったように感じた。 「出た!店長必殺の右手バッシュ(強打)!」 横の人が叫ぶと同時。ショートアッパー気味に入った右拳がイーザックを吹っ飛ばした。 地面に膝をつくイーザック。しかし、その口は笑っていた。 「・・・どうやらただ出て行った分けじゃなさそうだな。」 店長がエプロンをつまむ。エプロンにはハッキリとイーザックの足跡がついていた。 バッシュの直撃間際にカウンター気味に蹴りを放っていたようだ。俺には見えなかった。 「ひぇひぇ、どほだ。ほれで引き分ひぇだろ。はなひを聞ひてくれ。」 イーザックは顎がガタガタになってしまったにも関わらず、不敵に言った。 「しょうがない。入れ。」店長は親指を宿にむける。 それを見ていたら左袖が引っ張られた。 「ねぇイチロ。何がどうなってるの?」 メイ、そんなこと俺にも分からん。 23、店長 深夜、風戦ぐよもぎ亭に来ていた客も宿へ自宅へと帰り、空には月が浮かんでいる。 大きな部屋の中に丸形のテーブルが規則的に立ち並ぶその中心。 机をはさんで向こう側に見えるのは店長と呼ばれる男だった。 「恥ずかしいところを見せてしまったようで申し訳ない。」 「いえ、そんな」恥ずかしいというか、恐ろしい。 「まぁ、気にしないでくれ。こいつとのいつものコミュニケーションだ。」 と言って店長の右側に座っているイーザックの肩をバシバシと叩く。 「そんなことより、もう一回雇ってくれよ。俺とオヤジの仲だろ。」 店長は髭に手を当てながら思案しているようだ。 「雇うことはかまわないんだがな、正直言ってウチも金持ちじゃない。 寝床と3食付き、一人あたり日当10zが限界だ。しかもかなりの労働になる。 ただ、好きな時に仕事休んでいいぞ。冒険者なんだし自由な時間がいるだろう。 その代わりその日は給料をだせない。それでいいなら雇うぞ。」 凄い好条件だ。かなりの労働ってどの程度なんだろうか。 「労働って具体的にはどんな感じなんでしょうか?」 思わず聞いてみる。 「具体的にか・・・そうだな。イチロー君には宿と食堂の掃除、その他雑用。 メイさんにはウエイトレス。イーザックには前と同じく厨房で働いてもらうことになるな。」 イーザックが俺の方を見た。 「じゃあたいした事無いって。以前、俺が一人でやってたことだしさ。」 「そんな良い条件で良いんですか?じゃあお願いします。メイはどうするんだ?」 さっきから一言も喋らないメイの方に目を向けるとメイはガチガチに固まっていた。 「大丈夫か?」 「だ、大丈夫。わ、私も雇ってく、ください!」 だ、大丈夫じゃない。顔が真っ赤になって今にも噴火しそうだ。声も大きすぎる。 店長は少々怯んだようだったが、すぐに気を取り直した。 「おっおう、じゃあ3人とも採用。ただメイさんはちょっと緊張しすぎだから 後で接客の練習させといてくれ、イーザック、テメーに言ってんだぞ。」 「オレの紹介だからな、ちゃんと教えておくよ。」 やれやれと肩をすくめるイーザック。 「頼んだ。そういえば自己紹介がまだだったな、名前はリゲル。 でも誰も名前で呼ばない。だから、店長と呼んでくれ。」 店長は立ち上がると慇懃に挨拶してみせた。 イーザックが先頭に立って風戦ぐよもぎ亭の説明をしている。 「部屋は4階の一番上。手洗いは1階にしかないけど、2〜3階は宿になってるから 手洗いに行くときはあまり五月蠅くしないようにしてくれ。」 働き始めるのは明日からということで、今日は宿の上にある部屋で休むことになった。 4階の部屋の中は二段ベッドが二つ。少なくとも日本の俺の家よりは広かった。 また、木造というのが良い。人の温かみを感じるような気がする。 俺たちは部屋に入ると、持ってきた荷物を置く。こうしてみると量はかなりのもだ。 サバイバル用品は嵩張るものが多い。 「なぁイチロー。メイは一体どうしちまったんだ?」イーザックが話しかけて来た。 「ん?そう言えばいつもにまして静かだな。」 荷物を置いてすぐ、窓際に行って空を見始めた。 「はぁ・・・・・」星を眺めて溜息をつくメイ。 メイは自分の長い髪を指先でもてあそぶ。 面白くなさそうな顔をしていたイーザックだったが、何か閃いたようにメイのそばに寄った。 「メイって・・・オジ専だったんだな。」 メイの右ストレートがイーザックの左頬を貫いたことは言うまでもない。 その後、俺たちは各自ベッドに入って眠った。 24、冒険者協会 次の日、俺はまだニワトリも起きていない時間に起こされた。 昼までに食堂の掃除と薪割りをすませ、食材の買い出しに行く。 3時ころまでベッドメイクと皿洗いして、自由時間になった。 「メイさん、イチロー君お疲れさん。後は自由時間にしていいぞ。 夜は8時から酒場になるからその時までには戻って来てくれ。」 「イチロー今日は冒険者協会に行ってみようぜ。」 自由時間を持てあましているとイーザックが提案してきた。 「いいよ。メイは?」 「うん、行く行く!」 冒険者協会、その組織は国王トリスタン3世の指揮の下、世界各地に散らばる冒険者を支援することを目的としている。 主な活動の内容は、情報の伝達、冒険者たちの持ち帰った収集品の流通、カプラ本部との連携などである。 冒険者協会のおかげで冒険者はあらゆる商品を格安で買うことが出来るし、冒険者協会を通じて仕事を得ることが出来るのだ。 今最も重要視されているのは世界の構造の究明であり、見知らぬ土地の発見などに至ると、国から莫大な金支払われる。 没・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 芸人を見ていると、アルバイトがこちらを向いた。 「イチロー、芸でも見に行こう。」 「了解。」 ダンサーとバードの二人組に着いていくこと15分、芸をしてると思わしい浜辺に出た。 人が円を組んで座っている。よく見ると客席に冒険者がいない。まぁ狩場もあまりないし少ないんだろう。 俺とアルバイトは座っている人々にならって座った。何するんだろうなぁ。 少し間をおいて音楽が演奏され始め、それに合わせてモンクとBSが出てきた。 ダンサーが説明をする。 「まず第一の芸は、東洋武術の使い手ザ・ドラゴン!アマツの神秘をご覧下さい!」 モンクがお辞儀をする。拳を体の中央に当てている。これって中国のお辞儀な気が・・・。 すごい怪しい。ザ・ドラゴンって言う名前(芸名だろうけど)も怪しい。 BSが瓦1枚をカートから出した。そして瓦を胸の前に構える。音楽が緊迫した感じの物に変わった。 「ホアッチョオウ!」モンクの蹴りが瓦を叩き割った。 ガッツポーズをするモンク。拍手が起きる。俺的には微妙なんだけど。 BSが今度は3枚の瓦を取り出した。モンクはそれを見事に蹴り割った。 今度はなかなか凄い。 BSがさらに10枚の瓦を取り出して腕で抱えた。これは流石に持つ方が大変そうだ。 モンクは何度も腕や足を伸ばして距離を計る。ドキドキ。 「ホアッタ!」鋭い踏み込みと共に手のひらを瓦に叩き込んだ。 バガっと音がして瓦が全て砕けた。拍手喝采。俺も自然と拍手してしまっていた。 その後も、ダンサーが弓でBSの頭の上のリンゴを狙ったり、BSの斧をモンクが素肌で受けたりなど スリリングな芸が続いて俺はすっかり興奮してしまった。一座におひねりを投げる。 「あんなこと出来る奴らがいるなんて凄いよな。」 「なかなか見れないからね、僕も今のは楽しかった。」アルバイトも陽気になっている。 俺とアルバイトは勢いに乗って、お化け貝焼きを食べたり各地の名所を回った。 いつになく充実した日になった気がする。後回ってないのは海か。 「アルバイト。最後に海で泳いでいこう。」 「えっあ、いや。僕はいいよ!」 いままで楽しそうだったアルバイトは急に嫌がった。さてはカナヅチだな? 「泳げないのか?」 アルバイトが表情を変える。 「失敬だね。泳ぐことくらいできるさ。」 「じゃあ泳ぎにいこう。」 そう言うとアルバイトは、ますます迷惑そうな顔をする。 「水着だってそこら辺で売ってるし、嫌がらなくてもいいだろ?」 何気なくだったのだが、アルバイトは過剰に反応した。 「いいよ!僕もう、宿に帰るね。」 スタスタと宿の方向に行ってしまう。 「難しい年頃ってやつかな?」 しょうがないので俺は、アルバイトの後を追った。 43、小さな思い ユーリが取った宿はコモドの南西にあって、コモドの浜辺がよく見える。 小波の音が耳に心地よい。ユーリの言うことにはこの宿は温泉が有名らしい。 俺とアルバイトは部屋に荷物を置いた。 「ユーリとイーザックまだ来てないな。どうしようか。」 窓から外を見ながらアルバイトに聞く。 「イチローはどうするの?」 どうしようかなと思っていると良い匂いが漂って来た。食べ物露天だ。 「そうだなぁ、腹も減ったからちょっと買い物してくる。」 「ふーん、じゃあ僕はここで待ってるよ。」 アルバイトは本を鞄から出して読み始めた。 「んじゃ行ってきます。」 宿の中は軽い電灯で照らされている。廊下を抜け玄関へ。 宿から出ようとして止めた。風呂の前に何か食べると気持ち悪くなるんだよな。 やっぱり風呂に入ってからにしよう。俺は部屋に戻った。 部屋のふすまを開ける。あれ?誰もいない。アルバイトはどこかに行ってしまっている。 荷物を見ると、アルバイトの鞄がへこんでいた。風呂にでも行ったんだな。 俺も急いで風呂に入る支度をした。 修学旅行に来た気分だ。こんな気持ちは何年ぶりだろうか。 ユーリに心の中で感謝する。 「やっぱり男同士、裸のつきあいは必要だろ。」 背中でも流してやろう。ということで男と書かれたノレンを潜る。 更衣室を見渡すが、人の姿は見えない。置かれた棚にも荷物は置かれていなかった。 「思い違いだったか。」 ちょっと残念だ。気を取り直して裸になった。 男更衣室の向こうには温泉が待っているのだ。 俺の温泉への思い入れは小学生の時にさかのぼる。 当時、温泉に行ったことのなかった俺は、初めて両親に北海道温泉旅行に連れて行って貰ったのだ。 温泉は俺の想像以上だった。ゆったりとしたくつろぎ空間と湯気。舞い落ちる雪は天使の羽のようだ。 なんて極楽なことか。小学生にして俺は温泉の魅力にとりつかれてしまった。 ゆったりさっぱりのんびりした後、俺は驚愕の光景を目にする。 母が更衣室から温泉を繋ぐ石畳の上で気絶していたのだ。どうやら凍った石畳に滑ったらしい。 それ以来、我が家では温泉に行かなくなった。大学時代はオヤジ臭いということで 温泉にはあまり行かなかった。行きたくて行きたくて仕方がない!これが俺の温泉である。 いざ!天国へ!更衣室の敷居を開け放つ。 中には湯気が満ちていて視界が狭かった。おお、温泉くさい。 高揚した気持ちを抑えられず、温泉に近づく。人影が見えた。 紅い髪に眼鏡、まだ幼い子供。どう見てもアルバイトだ。 「なんだ、やっぱり風呂に来てたのかアルバイト。」 「なっイチロー!?」 水しぶきが上がる。アルバイトは俺の呼びかけに驚いたのか逃げ出した。 逃げ出した?なんか悪いことしたか俺。 「アルバイト何逃げてるんだ?」 本気になって追いかけるとすぐに追いついた。肩を掴む。 「うわああああああ!」アルバイトが足を滑らせた。 しまった、俺も一緒に転んでしまう。温泉に突っ伏す。 何か柔らかいものが俺の鼻に当たった。なにか見たことあるようで無いような。 そして気が付いた。慌てて温泉に浸かっている頭を持ち上げる。 俺はアルバイトの下半身に抱きつくように倒れてしまっていた。 異様に柔らかい。というか男の体じゃない。 「お、おま、お前!女の子だったのか!!!!!!」 頭に落雷が落ちた気がした。よく考えて見れば、いままで思い当たる節はあった。 でも、まさかそんなわけ、あれやばい混乱してる。 「なんで、イチローが女湯にいるのさ。」