朝になった。 漏れてきた光が目蓋の上からでも眩しい。 シュラは先に起きていたようで、私達は昨日の残り物と少々の携帯食で朝食を済ました。 時計がないので何時かはわからないが、彼曰く、門は既に開いている頃らしいので、我々はフェイヨンへと歩を進めた。 見渡す限りの森の中、プロンテラから続く唯一の道を進むと、やがて、4、5メートルほどの塀で囲まれた大きな門が見えてきた。 「ここで待ってろ。」 シュラは馬車から飛び降りると門番の二人組みへと近寄っていった。 何やら話し合っているが何を話しているかは聞こえない、談笑しているのを見た限りでは知り合いのようだ。 「うし、じゃあ行くか。」 シュラは何やら嬉しそうだった。 門を開けてもらい、町の中に入る。町というよりはむしろ、村、というほうがしっくりくる感じだ。 プロンテラは一言で表すならば、活気、だったがここは差し詰め、平穏、というところか。 村のはずれに馬車を止め、シュラの後を付いて歩く、民家に、酒場、テントのようなものもある。 「おう、ここだ、ここ。」 着いた先は少し古びた感じの、恐らく宿屋、何故恐らくかと言うと、看板に書いてある文字は見たことのない字だったからだ。 この看板だけではない、プロンテラを発つ直前に並んでいた店々、馬車に積んだ荷物の中の道具。 その他全て、見てきた文字は、少なくとも私の知っている範囲では見たことがない文字だった。 「どうした? 入るぞ。」 「ん…あ、あぁ、すまない。」 古ぼけた扉を押し開ける。 錆びた金属が擦れ合う音がして、扉はゆっくりとその重い体を起していく。 中は外見に相応な古ぼけた感じ、それでいて、なかなか手入れが行き届いている。 「いらっしゃい。」 入ってすぐのカウンター奥から、恰幅のいい中年の男性が姿を現した。 「お、元気だったか、マスター。」 「…シュラか!?」 中年の男は、とたんに歓喜の表情を浮かべながらカウンターからから出てきて、シュラを出迎えた。 「ま〜だ生きてやがったか。」 「俺がそう簡単にはくたばると思うか。」 「ちげえねえ。」 そう言って笑い合う二人の姿を眺めていると、ふと中年の男性と目が合った。 「このあんちゃんは?」 「ん? …ああ、行き倒れてた所を拾って、それから、まぁ色々あってな、今は一緒に商売して回っている。」 「へぇ、行き倒れをねえ。 …あんちゃん名前は? 俺はここで宿屋をやってる、トマってんだ。」 「ショウです。 お世話になります。」 「ショウ…ね。 まー、何もないとこだが飯だけは美味い、ゆっくりしてってくれ。」 軽く会釈をする。 豪快に笑いながらカウンターに戻るトマ。 ほどなくして鍵を二つ、シュラと私に手渡してくれた。 「どうせ今の時期は空き部屋だらけだがな。」 と、笑顔で言いつつ、カウンターの奥へと再び戻っていった。 部屋はごくシンプル、木製のベッドにテーブル一台と椅子が二脚、それにクローゼットと窓が一つといった感じだ。 「おーい。」 シュラは向かい側の部屋だった。ドアは開いていたので向かい側の部屋に入る。 「どうした。」 「荷物を置いたらすぐ出かけるぞ、すぐにでも稼がんとそろそろ金がピンチだ。」 「わかった。」 そもそも私は私物など一つもないので実際は私に渡された分の荷物なわけだが。 ───────────────────────────── 「ここらへんでいいだろう。」 あまり活気のない、それでいて人が少ないわけでもないフェイヨンの広場、木のベンチのあるあたりでシュラは露店を広げ始めた。 「これでよし、っと。」 並べられた物は数本の空き瓶と骨付きの肉、古着にナイフ、指輪と見事にバラバラだった。 「んじゃぁ、ま、行ってくるわ。」 ん? 「…どこに行くんだ?」 「どこっておめえ、狩りに決まってんだろ。」 「…狩り?  露店は? どうする。」 「そ、狩り、そこらへんにいる化け物を殺して、色々剥ぐわけだな。」 もう大抵の事では驚かないと思っていたが、まさか狩りとは、いよいよなんでもありな世界だ。 「狩りはいいがその間露店は…」 そう言ってから気付いた。 「お前がやるんだよ。」 やはりか。 「しかし、露店なんてやった事もないし、値段もわからんぞ。」 「やりながら覚えろ、値段はこれを見てくれ。」 品物と値段を書かれた紙を受け取る。 「大丈夫だろうか。」 「ま、すぐ慣れるだろ。 どっちにしろこれから世界を回るんだ、それくらいやってもらわんとな。」 確かに、考えてみれば私は化け物と戦えるわけでもなし、この世界のこともよく知らないのだから店番くらいしかできないか。 「とにかく、やれるだけやってみよう。」 「おう、んじゃ行ってくるぞ。」 そう言うとシュラは入ってきた門の方向へと向かっていった。 ……露店か。 そういえばまだ小学生くらいの時、家族に連れられてフリーマケットに行った事があるが、それっきりか。 「ふぅ。」 ここはプロンテラと違い人も少ない、なんとかなるだろう。 気楽にいくことにした。 未知の世界での、ある午後のことであった。