甘かった… 1000−50×8=600=100×6 「どうも、600zです、お確かめ下さい。」 プロンテラより人が少ない、それはつまり露店を開く者が少ないということだ。 「こっちの矢を600本下さい。」 2×600=1200 私以外露天を開いている者などいるはずもなく、広場を通る人々はほぼ100%露店を覗いてくる。 「1200zになります。」 「はい、どうぞ。」 必然的に私の周りには、常に客がいるわけで… 1000+500−1200=300=100×3 「有難う御座います。こちら300zです。」 「ありがとー。助かったよ。」 幸い、会社では経理を担当していたので、こういう事務的な作業は得意だが。 しかし、困った事もあった。この世界の通貨だ。今でこそ少し慣れてきたものの、当初は右も左もわからなかった。 違う世界なのだから当たり前だ、ここで福沢諭吉に会ったらそれはそれで困る。 ここの通貨はゼニーと言うらしい、少し商売をしていてわかったのだが、つまりこうだ。 1、10、100zは銅貨、1000zの紙幣に5000zの銀貨、10000zは金貨だった。(これは後になって知ったが、100000zの金貨もある。) 「こんにちは〜、何か売ってるんですかぁ。」 おっとりした若い女性。 「色々ですよ、空き瓶に肉に指輪、その他雑貨、節操がなくて申し訳ない。」 「へぇ〜。」 女性前かがみになって興味深そうに眺め始める。 「あっ、これかわいい〜。」 置いてあったぬいぐるみを手にとって微笑んでいる。シュラはなんでこんなものを持っているのだろうか。 「これ、おいくらですかぁ。」 一応全て暗記しておいたが、念の為、渡されていた紙で値段を確認する。 「そちらは3000zです。」 これは高いのか安いのか…骨付きの肉が一個100zだから結構高いのかもしれない。 「3000zかぁ、う〜ん、どうしよっかなー。」 指を唇にあて、考える仕草をする。これは地だろうか。 「それじゃあ〜、もらおうかなぁ。」 女性は財布から銀貨を一枚取り出した。5000−3000=2000=1000×2 紙幣二枚か 「有難う御座います。2000zのお返しです。」 「ありがと。大事にするね。」 女性は嬉しそうにぬいぐるみを抱いて、ゆっくりとした足取りで去っていった。 露店も楽ではないな。慣れない事の連続で少し疲れが溜まってきた。 そうこうしている内にシュラが帰ってきた。既に日は沈みかけ、空は朱に染まっている。 「おー、どうだった、初露店は。」 「見ての通りだ。」 「うほ、完売か! ショウ、お前商売の才能あるんじゃねえか。」 「偶々だ。」 途中、通りかかったカートを引いた男が残っていた商品をほとんど買い占めていった。 「で、どうだった。」 シュラはニヤニヤしながら聞いてくる。こいつ、やはり。 「貴様、知っていただろう。」 「さー、なんの事かなあ。」 ここで露店を開くと人が寄ってくること、私がこの世界の通貨を知らなかったこと。 「俺のおかげで色々と勉強になっただろ。」 声を上げて大笑いする。ふふ………いつか殺す。 「宿に戻ろうぜ、トマが飯を作って待ってるぞ。」 ため息のひとつでもつきたくなるが、忙しく昼も取っていなかった私はとにかく空腹だった。 「…戻るか。」 「おう。」 トマの待つ宿に戻る頃には、既に日が落ちていた。