私達がフェイヨンに着いてから、早くも2週間が経とうとしていた。 慣れとは恐ろしいもので、露店のほうもすこぶる順調だった。 最初に持ってきた分は三日目ほどで品切れたが、シュラが次々と補給してくるので、売る物に困ることはない。 こう毎日露店を開いていると当然、来る人間も(行商人を除いて)限られてくる。 今や顔見知りになった人々と挨拶を交わし、軽く世間話をして商品を売り、宿に戻って就寝の毎日がしばらく続いていた。 「有難う御座いました。400zのお返しです。」 溜まっていた最後客のが終わった。これで午前のピークは過ぎただろう。 「ふぅ。」 慣れたとはいえさすがに疲れる。そろそろ休憩を兼ねて昼食にしようか。 「お疲れ様!!」 声のした方向に振り向くと、そこには黒髪黒眼のショートヘアの女の子がいた。女の子、と言っても18、9はありそうだが。 「君は確か…」 「あ、覚えててくれた?」 にっこりと微笑んできたこの子は確か、ここの所毎日、同じ時間に来てはミルクを丁度2本買っていく子だ。 「いつも有難う。」 「へへ、ミルク買ってるだけだけどね。」 「何かを買ってくれたら誰でもお客様さ。」 「そういうもんかなー。」 「そういうもんだ。」 っと、休憩するならするで早くしないとまた午後からすぐに忙しくなる。 「せっかく来てくれたんだが、今から少し休憩しようと思っててね。良かったらまた後から来てくれないか?」 「あ、それなんだけどさ、お兄さんいっつも何食べてるの?」 「…水とパンだが。」 朝と夜はトマの美味い飯が食べられるのだが、昼はいかんせん時間がない。 「それじゃ体によくないよ、そんなんでこの後もつの?」 正直な所、シュラが帰ってくる頃には空腹で倒れそうになっている。 「いや…。」 「だよねだよね。でさ、こんなの作ってみましたー。」 ばばーんと口で言いながら彼女が出したのはサンドイッチ、なかなか見た目は良くできている。 「これを、私に?」 「そそ、お兄さんいつも忙しそうにしてるからさ、差し入れ。」 ここはやはり、貰っておくべき…だろうな。 「有難う。いや、助かる。ここの所ひもじくて。」 バスケットの中の1つを掴み、一口頬張る。すると広がる溶かしたチーズとハムの味、マスタードも入っているのか、なかなか美味い。 「うん、美味い。」 「でしょ、こう見えても料理は得意だからね〜。あ、そうだ、お兄さん名前は? 私はクイナ。」 「…ショウ。好きなように呼んでくれていい。」 「んー、じゃあね…ショウさんでいいや。 よろしく、ショウさん、私は呼び捨てでいいよ。」 「わかった。」 こうして私は数週間ぶりのまともな昼食を取り、クイナにバスケットを返した。 「ご馳走様。」 「はい、お粗末様です。」 「いや、助かった、最近はまともな昼食も取れなかったからな。」 「本当に苦労してるんだねー。 ショウさん、ずっとここで露店開いてるけどいつ仕入れてるの?」 「いや、仕入れは相方がやってくれている。私はずっと店番なわけだな。」 「ふーん。 あ、お客さん来たよ。」 「うむ。」 「それじゃまた後でねー。」 「あぁ。サンドイッチ有難う。旨かった。」  「ふふ、また作ってきてあげてもいいよ。」 「期待しとく。」 「すみませーん、これとこれと、これ下さい。」 「あ、はい…1200zになります。」 バイバイと手を振りがなら駆けていったクイナを尻目に、私は露店を再開した。