再誕 - Ragnarok Online - --- (1) --- 「すげー!!」 初心者修練所を抜けた僕は、目の前に広がる光景に感嘆の声を漏らす。 中世ヨーロッパを再現したかの様な美しい町並み。 広場の噴水から吹き出す水飛沫が日の光を反射して輝いている。 賑やかな通りを行きかう人々は一様に世界史の教科書でしか見た事のないような服装に身を包んでいる。 その人ごみに紛れるように、甲冑を身に纏った騎士や身の丈程もあろうかと言う大きな弓を背負った者もいる。 ガラガラガラ・・・ 「はいよ退いたどいたー!」 僕のすぐ横を勢い良く手押し車の様な物を引いて男が通り過ぎる。 すれ違い様にちらりとその手押し車の中を覗き込んでみると、色とりどりの液体の入った小瓶や青い水晶の様な石が大量に入っていた。 (あれは・・・ブラックスミスだったよな?) 遠目に見ていると、男は適当なスペースに止まり、その手押し車から出した巨大な立て札を手に持ち、道行く人に何か呼び掛けていた。 声はハッキリとは聞き取れなかったが、立て札には「青J 480z 集中・速度・狂気各種あります」と書いてあった。 周りを見てみれば、その男と同じような看板を持った人が数人、同じように道行く人々に呼び掛けている。 (露天販売・・・だよな?) そう思いながらふと遠くに、これも教科書でしか見た事の無い様なとても白く大きい建物がそびえ立っているのが見えた。 「えーっと、確かあの城がパ・・パ・・パロ・・ピロ・・・」 「ようこそプロンテラへ!」 「うわぁ!!!!」 突然背後から掛けられた声に驚いて振り返る、 そこにはよく喫茶店などで見かけるような服装に身を包んだ女性が、真っ白なシルクの手袋をした手を口にあてクスクス微笑んでいる。 「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。」 「あー、こっちこそスンマセン。大きな声出しちゃって」 僕はバツが悪くなり、頭をかきながら軽く会釈をする。 「いいえ、初めてこちらに来た方は皆さんそんな感じですから、お気に為さらなくて結構ですよ。」 女性は微笑む。 彼女は自分の事をカプラ・テーリングと名乗った、言われてみれば彼女の様な甘栗色のポニーテールが印象的なNPCが居たような気がする。 「宜しく御願いしますねバッシュさん」 テーリングと名乗った彼女は自分のスカートの両端を摘むように少し上げると、 映画でしか見た事のないような・・・お嬢様がやるような仕草で一礼した。 「あ・・・・・・・・、はい!宜しくおねぎゃあしましゅ!!」 一瞬、自分のキャラクターネームを忘れてた僕は慌てて「宜しく御願いします!」と言おうとしたが ・・・恥ずかしい、どもってしまう。 声に出してキャラクターネームを呼ばれた事なんてずいぶん前に仲間内でやったオフ会以来だ、 こんな綺麗な女性の前でどもってしまった事と、キャラクター名を声に出して呼ばれた事でいよいよ僕は真っ赤になってしまった。 彼女は、そんな僕の様子がよっぽど可笑しかったのか、堪えきれないように口に手を当ててクスクスと笑う。 僕は照れ隠しに会話を続ける。 「でも凄いですねここ!一瞬本当にゲームの中に来ちゃったのかと思いましたよ。」 「ええ、そう言って頂けてとても光栄ですわ。でもここはもうゲームの中ですのよ。」 「あ、そうでしたね」 彼女は続けてとびっきりの笑顔で言う。 「では改めて・・・、ようこそバッシュさんRagnarok Online for Realの世界へ」