「遅いよー、女の子を待たせるなんてダメだねぇ。」 いつもの場所、いつもの台詞、あれから更に一週間程が経った。 相変わらずクイナはサンドイッチを作ってくれる。 最近は特に美味しく、本人はまだまだ納得がいかないようだが、私の腕なんてとっくに抜いているだろう。 もっとも、彼女のことだから言っても聞きそうにはないが。 「罰として明日はショウもサンドイッチ作ってくること。」 「ようやく納得のいく出来栄えになってきたからね。一度勝負よ!」 ふん、と鼻を鳴らす。やれやれ。 「サンドイッチで勝負…ねぇ。」 「ふふ、びっくりするくらい美味しいの作ってきちゃうんだから。」 「ああ、私も腕によりをかけさせてもらおう。」 「ま、とりあえずご飯にしよっか。」 平和な日々、願わくばこの平和が、ずっと続けばとも思う。 元の世界の未練がなくなったのかというと、そういうわけではない、が、私は今、それよりも大切な人ができた。 しかし私は放浪の身、近い内にシュラとまた、旅に出るだろう。 正直、怖い、何よりも彼女を失うことが。 最近は旅をやめてこのままここに住もうかとも思う。シュラには申し訳ないが。 だが、悩んでいるのも事実。不安と焦燥感の入り混じったような、不思議な感覚だ。 「クイナ、少し、話があるんだが。」 「ん? なに。」 サンドイッチを食べる手を止めてこちらを向いてくれる。 「私の事をどう思っている?」 「なっ・・・」 「ど、どうって、その…好きだよ。」 好き……か。 どうやら、決心がついたようだ。 「………私が、シュラと一緒に旅をしているのは、知っているな。」 うん、と彼女は頷く。 「そのうち、行っちゃうんだよね・・・」 彼女は悲しそうな表情で俯いてしまった。 「そのことなんだが、私は、ここで旅をやめて、ここで住もうかと思う。」 「え・・・」 両手で肩を掴む、年頃の女の子の肩は細く、美しかった。 「君を置いて行きたくはない。」 全身全霊を込める。これだけは言わなければ。 「結婚してくれ。」 「──!! ……うん!」 彼女は私に答えてくれた。その顔には薄っすらと、涙が浮かんでいる。 …これでいい。 元の世界への未練、それにこの世界への希望が勝った。 そう、これでいいんだ。