警告:現在テンプレサイト等に悪質なウィルスへのリンクが張られており、 それらを踏んだ上でROを起動するとユーザーが意識不明状態になると言う 危険な症状が発生しております。 怪しいリンクなどはくれぐれも注意してください。 …原因不明。 対処方法不明。 共通しているのは意識混濁状態になった人間が直前にROを起動させていた ことと、いずれのパソコンからも同じ特殊なウィルスが検出された事だけ。 プログラム・医療機関各方面の研究ではRagnarok.exeを起動させたときに ゲーム画面を人間の意識を混濁させるような刺激を与えるパターンで明滅を 繰り返させるプログラムが組まれているらしいと言うこと、 それはサブリミナル効果的な物であるのでログイン画面を少し見ただけでは 明滅が起こっているのもわかり難い事などが判明した。 すぐさまシステム面での対応が取られ、RO情報支援各サイトに警告文を 掲載することによって被害は一応減少傾向にある。 しかし、いまなお既に症状の出た数千人のROユーザーは対処方法等の不明な まま意識を取り戻せずにいる… いつしか、ROユーザーたちの間でこのウィルスおよびウイルスによって 意識を失った人間、その症状らを「リアルアカウントハック」 という名称で呼ぶ事が定着し、垢ハックされたユーザーはゲームの世界に 取り込まれたのではないかというネタ交じりの俗説が広まっていた。 =============================================================== 絹 Base89 Job65 Creator AGI>STR=DEX 薄暗い部屋の中で目を覚ます。 窓の外から差し込む弱々しい光とひんやりした部屋の空気。 まだ早朝、6時半くらいだろうか。 まだ起きるには少し早いと思い、寝なおすことにする。 そこで毛布のぬくもりの中に違和感…なんだか暖かくて柔らかい物がボクの腕にしがみついている。 なんだ?と思って枕元においてある眼鏡を手探りで探そうとして、見当たらない。 だんだん脳が覚醒してくると、別に眼鏡をかけていなくてもちゃんと見えるのに気づく。 そして、毛布の中にいるやたら柔らかくて感触の良い違和感の正体にも。 かけていた毛布をゆっくりめくってゆくと、ピンク色の乱れた長い髪に包まれた頭部と、 ムチムチしたスタイルの色っぽい肢体。 半裸と言うかほぼ全裸に近い格好で寝ている彼女が、部屋のまだ寒い空気にさらされて身じろぎした。 「絹ちゃあん…さむいよう」 そういって彼女がボクにすりついてくる。 いやあの、アリーセちゃん、そんなにあんまりぴったり組み付かれると色々困るんですが。 持て余すというか。 「だってえ、絹ちゃんの体あったかいしい」 そんなこと言われても…ってああんっなんでおっぱい揉むの!? 自分のおっぱい揉んでなよおっきいんだから! 「えー、私は絹ちゃんのちいさいおっぱいも好きなのに」 いや別にボクは揉まれても嬉しくないし! 女の子に揉まれても逆に困るから! ていうかアリーセちゃんはいい加減裸で寝るのやめなよ… できれば一緒に寝るのも、今のボクには拷問も同然なのです。 でもそんな抗議もよそに首に腕絡ませてきたりして朝から過剰なスキンシップを とる彼女に四苦八苦してると階段を上がってくるドタバタした足音。 あまり頑丈に見えない木製のドアを壊れかねない勢いであけて乱入してくるのは スリットのきわどい尼僧服を着た半べその女の子1名。 「絹ちゃああああん! 聞いてよぅ! アンジェが朝ごはんにパンとミルクしか 用意しようとしないんだよぅ! このままじゃミユたち餓死しちゃうよぅ! はやく起きて朝ごはん作ってよぅ! ほら速度増加! ブレッシング! エンジェラス! ディバインプロテクション!! マグニフィカット!! イムポシティオマヌス!! リーザーレークーショーーーーーーン!!!」 …あーわかったから魔法効果のエモで目覚ましするのやめて。 それからなんでも支援かければいいって物じゃないから。 とりあえずね、アリーセちゃんは何か服着て、ミユルゥは半べそかいてないで落ち着いて、 そらからボクに着替えさせて、あーアリーセちゃん、それはボクの上着… 「絹ちゃんの匂いするー」 意味不明だってば。 はよ返してください。 「朝から百合百合だよぅ、二人ともそれは不毛な愛だよぅ。 はやくご飯食べようよぅ」  なんでこう朝っぱらから変なテンションなんだろう。 そりゃあアリーセちゃんを相方にしてるのはボクだしミユルゥを仲間と言うかこの 集まりに引っ張りいれたのもボクだけどさ。 誰か二人以上いればとりあえずこうして賑やかで退屈しないし寂しくも無い。 そういえばこうした毎朝似たような光景が繰り返されるようになって一ヶ月か。 そしてボクは毎朝のように繰り返し繰り返しこの現実に直面する。 まだ、ゲームの世界から抜け出せていない。 「うっせーなもう。 あたしは昔からミルクとか芋とかでも十分だったんだ。 料理したい奴はすればいいけど、狩場でMob倒して手に入れた肉とハーブとかだけでも あたしら狩人は生きていける。 というかその生活が基本だろ、冒険者として」 「でも朝くらいはしっかりした物を食べたほうがいいでごじゃる。 野外での食事なら 特に反対派ないでごじゃるが」 「…同感。 …ちゃんと食べないと、ずっと眠いもの。 …すごく眠いもの」 「というかお前オレらに食わせるものの金ケチって自分の矢とか買うつもりだろ。 ざけんなコラ、蜂の巣にするぞヴォケ、それならいっそオレの弾丸代よこせ」 階段を下りる途中で聞こえてくるのは言い合いっぽいそれぞれの声。 内容からしてくだんの朝ごはんのことなんだろう。 あーはいはい皆空腹で短気になってるのは把握した。 いまご飯作るからおとなしく待っててねー。 あと、おはよー。 「おはよ」 「おはようごじゃる」 「…おはよ。 …おやすみなさい」 「寝んな。 耳元でぶっ放すぞ。 あ、マスターおはよ」 青髪にカプラバンドをつけたスナイパー(オーラ)のアンジェ。 見た目ロリで語尾が「ごじゃる」な忍者のクロガネ。 常に眠そうにしている赤髪のマジシャンが詩乃で、一人称がオレで 不必要に攻撃的な言葉遣いなのがガンスリの澪。 ボクの腕にしがみついたまま一緒に階段下りてきたピンク髪のアリーセはダンサー。 で、金髪で天使HBのプリースト、ミユルゥ。 これがこのギルド”みんなでお茶会”の主なメンバーだ。 あと一人、今遠出してるのがいるんだけど…割愛。 なお、ギルメンは全員女の子だ。 マスターであるクリエイターの絹(の中の人であるボク)を除けば… まー弓手職は矢でかさばるからPOTも多く持っていけないし 最低限の必要品残して回復材とか食料とか現地調達、それを予定に組んで狩場を 選んでるしわかるはなしだけどさー、今家にいるときぐらいは美味しく調理した 物を食べても構わないんじゃないのかな? そういいながらボクは出来上がった『かにニッパの煮物』『貝のスープ』『くらげの和え物』 などをテーブルに並べてゆく。 今日はVIT系でみんなに体力をつけて貰おう。 お手伝いするアリーセちゃんは『万葉の紅茶』を淹れる。 それに野外調理器具ぐらいはアンジェも持っていくでしょ? 使わないの? 尋ねるとアンジェは渋い顔をして答える。 「肉なんて火であぶれば食えるんだし、それでいーよ」 だめだよ…なんか偏った食事な気がして心配でならない。 まさにサバイバル生活なんだなあってのはわかるけどさ。 でもまさかハンターの全てがアンジェみたいな大雑把な考え方の食生活だとは思わないので、 アンジェがずぼらな部類に入るんだろうと考えておく。 「つーかよ、マスター」 ん、なにかな澪ちゃん。 あーごめんなさいごめんなさい『ちゃん』づけはもうしないって約束でした 忘れてましたもうしませんからその凶悪極まりないガトリングをしまってください。 「前から思ってたんだが、マスターは妙に料理得意だよな。 だいたい飯は マスター作ってるし」 んー、そんな事ないよ? 料理なんて食材さえそろえれば誰でも作れるものさ。 倉庫にあまってる食材だけで作ったんだし、料理のレベルもそんな高くないですよ? あと、愛情込めて作ることだね。 「絹ちゃんの愛情たっぷり…」 あー、アリーセちゃん、変な方向に考えて顔赤くしてるとお茶こぼすよ。 まあね、確かにボクはもともとお金持ちな上に、する事も少ないので暇な時間はたくさんあるんだよ。 だから料理覚えてみようかなって思ったのはあるかな。 「…そりゃ自慢かよマスター。 あー商人は買い物するときも原価で買えていいね」 まあね、澪ちゃんは育成の途中だしまだ駆け出しなんだから頑張りなさい。 そのうち稼げるようになるから。 あと、代購ならするよ? 「なんか負けた気がするからヤダね」 澪ちゃんは意地っ張りだなあ。 詩乃ちゃんみたくもう少し素直になりなよ。 スリムポーションとか少なくなってきたら作るからすぐに言ってね。 アンジェ食べるの早いなあ。 もう終わったの? 矢リンゴ頭に載せるのって器用だよね。 ミユルゥはいっぱい食べるねえ。 そんなに食べると太r痛っごめんなさい本のカドは 凄く痛いですごめんなさい。 クロガネー? なんで君は床に正座して食事してるのかな? 「これが故郷アマツでの流儀でごじゃる」 ああ、それは君流の食事のスタイルなわけね。 けして行儀が悪いわけではないと。 そんなこんなで朝の楽しいひと時は進んでゆく。 「さて。 じゃああたしは適当に狩りしてくるよ。 ミョルニール山脈行ってるから 帰りは来週になるかも」 そう言ってアンジェが椅子から立ち上がる。 窓辺にとまる鷹がピィーと鳴いた。 アンジェの狩りは泊りがけだよね。 というか山篭り? 出かけると一週間単位で帰ってこないよね…まあそれが普通なんだろうけど。 下水での討伐に参加してる澪ちゃんや詩乃ちゃんが毎日帰って来られるのは首都周辺だからだ。 ミユルゥは知り合いとPT組んで今日からゲフェン行きだし、クロガネは普段どこに 出かけているのかよくわからない。 そしてアリーセは常にボクにくっついている。 ボクは普段なら倉庫から適当なものを引っ張り出して露店売りで生計を立てているのだけど。 悪いけど、今日は一人でどこか歩いてもらうかお留守番しててもらわないといけない。 「えー? やだよう、絹ちゃんと一緒にいたいよう」 そんな『寂しいと死んじゃうよう』って顔されても困るよ… ウサ耳までとりだして芸が細かいことだなあ。 何かあったらwisで連絡ちょうだい。 今日は大事な用事なんだよ。 どうにか説得して、しぶしぶながら納得してもらった。 アリーセちゃんはどうもボクに依存してる面があるよなあ。 まあね、彼女を(というかメンバーほぼ全員)このギルドに引き入れたのはボクだしね。 なにより彼女はボクの相方だしね。 彼女が以前のギルドで受けてた扱いとか知っちゃった身としては、放っておけないって部分もある。 でも、今日だけは、どうしてもはずせない重大な用事なんだ。 それに、アリーセちゃんをそこに連れて行っても、彼女には理解できない話をするし 会話内容や飛び交う言葉の意味を質問されてもややこしくなるだけだ。 結局お留守番している事になったアリーセちゃんを残して、メンバーは それぞれの行き先へと出かけていった。 ボクの向かう場所はプロンテラの市街地内にある酒場。 そこにはボクと似たような状態のまま、いつまでたってもこの世界から元の現実へと 帰れないでいる人たちが集まって、情報や意見を交換したり愚痴をこぼしたり くだをまいたりしている。 ゲームに意識を取り込まれてROの世界から出られなくなった人間、数千人。 そのうちゲーム内でまだ生存している人数、わずかに300人弱。