俺は自棄になっていた。 ROはおろかPC封印までして臨んだ受験に失敗。 A判定出てたのに落ちるとかありえないだろ俺… まさに+5で防具をクホった気分。 そんなわけで今日は受験失敗組みと一緒に酒を飲んでいた。 元々あまり飲めないのにガンガン飲んで、カラオケ公園で騒いで。 そこまでは覚えている。 多分公園で寝てしまったのだろう、体の節々が痛い。 ここはどこの公園だっけ… ふと回りに目をやると、ピンク色でぷにぷにした物体が歩いて?いた。 ……は? 俺は自分の頬をバシっと叩いてみた。 すんげー痛い。 そんなに力を入れていないはずなのに、奥歯が吹っ飛びそうなほどの衝撃を感じた。 痛みに耐えながらゆっくり体を起こすと、”ガシャン”と金属が打ち合う音がした。 どうやら俺は鎧を着ているらしい。 …鎧? それは確かに鎧だった。 しかし、さほどに重さは感じなかった。 横に落ちていた某を杖にしていた棒を杖にして起き上がった。 そして、自分のつま先から胸当たりまでを凝視してみる。 そう、それは紛れもなく見慣れた鎧。 ロードナイトの鎧だった。 昨日コスプレでもしてたのか…? でもさっきポリンがいたような… きっとボールをポリンと見間違えたんだろう。 そう思った瞬間、目の前に馬鹿でかい蝶が姿を現した。 うわぁぁぁ!? つい反射的に棒を振った。 いや、ソレは棒ではなく片手用の槍だった。 俺の攻撃を受けた蝶はピィーと断末魔を上げて地面に叩きつけられた。 もしかして…こりゃあ… 俺は蝶の死骸から羽を毟り取ると、天高く放り投げた。 思ったとおり、俺の体はふわりと光に包まれるような感触の後、知らないけれど知っているような街に出た。 オイオイ…マジかよ… そこにはたくさんの人がいて、その誰もが見たことのある格好をしていた。 水着みたいな服装の姉ちゃん。 マントを羽織った白スーツの男。 へそだしスパッツの鷹を連れた女の子。 そして…俺は重厚な鎧甲冑。 もし、コレが夢じゃないなら―――… どうやら、俺はROの世界に来ちまったらしいな… ポツリ、呟いた。 周りの人間が不審そうにこちらを見る目が痛かった。 俺の記憶が正しければ… 今いる地点から少し北西に歩いてみた。 案の定、牛乳屋と肉屋があった。 俺は牛乳を1本だけ買い、飲んでみた。 普通の牛乳の味だった。 マジ…? 「お口に合いませんでしたか…?」 マジをマズイと勘違いした売り子がこちらを覗き込んでいた。 釈明をしてそそくさとその場を立ち去ったが、しばらくはあの店にいけないだろう… だが、牛乳屋があそこにあるってことは… ♂パラ「あれぇーカイさん、久しぶりー!」 ♀Wiz「あ、ほんとだ。カイさんやっほー」 うん、間違いない。 ここは俺のギルドの溜まり場で、二人とも見覚えがある。 なあシン、ユイ…ここは○○鯖のプロンテラか…? シン「鯖って? 一応ここはプロに決まってるけど…」 ユイ「もう、長い間のデスクワークで頭悪くなっちゃったんですか?」 OK…そういうことですか…。 つまるところ、皆もROの世界に入り込んでいて、ソレが普通だと思っているらしい。 そしてまあ…こいつらがここにいるということは… ♀HiPri「…カイさん…?」 よう、やっぱりお前もいたか。 ♀HiPri「いたか。じゃないですよ!心配、したんですから…」 ぽろぽろと大粒の涙を浮かべながら、何故か安堵の表情を浮かべる♀HiPri そう、ここがROの世界なら、俺の相方もここにいるのだ。 ♀HiPri「ばかばかばか…!今までどうして連絡もしてくれなかったんですか!」 わりぃわりぃ…ちっと、忙しくてな。 俺の胸を駄々っ子のようにぽかぽかと叩く彼女。 それは俺の相方のユキだった。 叩くのをやめたかと思うと、俺にぎゅっと抱きついてきた。 鎧の上からじゃわからないけど、多分すごくやわらかい。 そして、髪の毛がいい匂い。 俺も彼女を抱きしめ、髪を撫でながらこう呟いた。 ただいま…ユキ。 そして、ただいま。RO…