東京の夏は暑い。 しかし早朝の風は独特の清涼感があり、その風を浴びる為に 俺は昔から、初夏の頃からは窓全開で寝ることにしている。 ***** まどろみの中、今朝も心地よい風が俺を良い気持ちにさせる。 「うーん…」 軽く寝返りをうつとカサッというなにかがこすれる音がした。 吹いている風もいつもと違う。 窓からの一方向ではなく、まるで外で寝転んでるかのように様々な 方向から吹き付けている感じだ。 うっすら目を開けると、目の前には草が生えていた。 その遥か遠くには大きな街並みと大きなお城が見える。 どうも自分がいるのは、小高い丘の上のようだった。 「うーん…?」 寝ぼけ声を上げながら、ああ 夢だな、と思った。 ROのプロンテラみたいな雰囲気があったが、もしそれが本当なら つまり夢ということに他ならない。 しかし広い空と広い大地に挟まれて寝るって夢も贅沢だなぁ、と 思いつつ まどろみを満喫していると…… 「ギャァ!ギャァ!!」 突然 動物の鳴き声のような声が、背後からした。 「うわぁ!?」 俺は驚き、起き上がってとっさにそちらを向いた。 タカだ。タカがいて、翼を羽ばたかせながら俺を威嚇している。 「え、いや…ちょっと、やめて…」 手をばたばたして追い払うような素振りをしてみたが、 タカは一向に威嚇をやめてくれなかった。 威嚇…というか、単に遊ばれてるだけような気もしなくもないが、 正直起き掛けの人間にこれは酷い仕打ちだ。 そうこうしていると、遠くから男の声が響いた。 「やめーー!」 その声を聞くや、タカはその男の方に飛んでいき、男の上の空に 収まるようにして落ち着きを取り戻した。 「あ、ありがとうございます…。」 冷静に考えると飼い主を怒るところなんだろうが、差し当たりの 恐怖を助けてもらった為か、男が側に来たときには自然とお礼の 言葉が出てきた。 「ごめん!いやー、本当にごめんな!さっき君がここで倒れるの見てなぁ、 とりあえずモンスターに襲われないようにコイツ飛ばせたんよ。」 男が右手を上げると、タカは嬉しそうにその腕をつっついていた。 「はぁ、モンスターですか…。」 男が何やら夢見がちなことを言っているのでちょっと不思議そうに 反応してしまう。 「おおっと、よく考えればここアクティブなモンスターおらんな! いたとしてもハイプリさんじゃ 、負けるわけないなぁ!」 と言い放つと、大声で笑い始めた。 え、ハイプリさん…? またもやおかしなことを言うなぁと思ったが、そういえば俺は そもそもなんでこんな外で寝てるんだ…? タカに起されてまだ2、3分程度だろうが、夢にしては色々とリアルすぎる。 深呼吸してからあたりを見回してみる。 空。雲。地面。草。木。男。タカ。街。城。そして自分。 自分を見て、ヤケに派手な服だなぁと思い至る。 赤と白、リボン、そして… 「ええぇえぇ!?は、ハイプリ!?」 実際ハイプリの衣装を着たことはないが、多分こう見えるんだろうという推測。 そして改めて男を見ると、そういえばその姿も記憶にあるところだ。 「す、スナイパー!?」 「え…、あ、あぁ、そんなに珍しいか?」 男はキョトンとした顔でこちらを見ていた。 「今更 転生職なんかそんな珍しいもんでもないと思うんだけどなぁ…、 君も転生してるし…」 「…あ、ああ、あはは…、そうですね…ちょっと寝ぼけてたみたいで、あはは…」 どうしようもなく照れ笑いをする俺。というよりも一旦話を切りたかった。 目の前の男がスナイパーというよりも気になることがあったんだ…。 そう、ハイプリの衣装はいいんだが…これ、女物じゃ……しかも何か胸もあるし…。 とりあえず触って確かめてたいところだったが、人前では恥ずかしいし、 夢と言い切るには少し怖いところだったので実行まではいかなかった。 「はっはーん、さてはまだ寝ぼけているなぁ?」 色々と考えてると男が顔を覗き込んできた。 さすがにびくっと後ろずさる。 「ま、よかったわ。どーにも遠目で寂しそうに突っ立ってたんで、 ちょっと気になってたんよ。しかも急に倒れるしなぁ。」 そう言うと、男は何か気付いたかのように後ろを振り返り、しばらくすると 手を振り出した。 「おーい、こっちこっち!」 その先から人が二人、小走りで駆け寄ってきた。 「はぁ、はぁ、やっと追いついた…」 近くによってきて息を切らしながら、やっと振り絞るように女の子が言う。 見るからにハイWIZさん。 「お前、目良すぎww」 余裕で来たのは男の徒歩ロードナイト。なかなかwのイントネーションに 光るものがある。 「はっはっはー、そりゃこんな可愛い娘ちゃんが倒れりゃ視力くらい 30.0くらいにはなるだろう?」 スナイパーは言うが、それだけでそんなに目が良くなるわけ無いよな…。 しかし俺、よくわかんないけど女のハイプリなんだ? 可愛いの…?いやいやお世辞だったら…いやしかし……。 スナイパーの言葉を受け、またまた混乱が始まる。 「ま、とりあえず何事もなさそうでよかった!あ、私、ユキ。よろしくね!」 ハイWIZさんが可愛い声で自己紹介をした。 「俺、トウガww」 逆毛ロードナイトは惚れ惚れするwで自己紹介をした。 「俺、セツナな。こっちがケンタ。」 スナイパーはタカ共々一礼した。 そうすると自然に俺の番になるわけだ。 「あ、俺は…」 そう切り出すと、一瞬妙な空気があたりを支配した。 そしてセツナとトウガが同時に叫んだ。 「俺っ娘キターーーー!!!」 はっと口を押さえる。あまり自覚していないが、そういえば俺、今 女なんだよな? 「あ、いえ、あの、私は…」 本名を名乗るわけにはいかないし、そもそも何て名乗れば…。 目を下に伏せると、今まで気付かなかったが、大きなカバンがあった。 赤白を基調とした、ハイプリの衣装に合いそうなカバンだ。 カバンの横に金属製の小さなネームホルダーがついていて、 そこには"ニーナ"と刻まれていた。 これがこのハイプリ…というか、自分…?の名前なんだろう。 「あ、はい、私にニーナと申します。ご心配頂きありがとうございました!!」 照れもあり、ふかぶかをおじきをしてしまう。 その反動で柔らかな髪が舞い、その後に頬をくすぐった。 茶髪のロングヘアーのようだ。 そのままの姿勢で、向こうの出方を待ちながら、ドキドキしながらふと気付く。 ニーナって…俺のメインキャラの名前じゃん…。 そう、職業もハイプリ。当然女キャラ。ついでに茶髪ロングヘアー。 するとこのでかいカバンには白ポだの青石だの色々詰まってるんだなぁなどと 悠長な考えも出てくる。 ここは本当にROの世界なのか…?という疑問も改めて出てくる。 「うん!よろしく!」 明るいユキさんの声がその思考をさえぎった。 顔を恐る恐る上げると、3人が笑顔でこちらを見ている。 「とりあえずご飯でも行きましょうか♪ね?」 ユキさんがぐいっと俺の腕を引き、先陣を切る。 「あー、俺肉食いてww」 後ろからトウガが言う。 「あー、俺は鳥肉以外で…」 セツナもそう付け加える。 ユキさんに引っ張られ、また自分の急な境遇に正直ドキドキし続けている。 本当に自慢ではないが、今まで女の子にこんな腕を取られたこともないし、 そもそもこの…髪と胸の…今までなかったのものがある感触と、 衣装もちょうどふともものところが無いわけで、当然そんな服を今まで着たことが あるわけもなく、恥ずかしいやら興奮してるんだかでかなり複雑。 もちろん自分が他人になることも異性になることも初めてだ。 顔に変な表情が出ていないかとふと不安になったりもした。 とにかく色々な感情が入り乱れていて、もう正直何がなんだかわからない。。 とりあえず場に身を任せようかな…。 何を考えても頭がパンクしそうだったので、しばらく考えるのをやめようとした。 とりあえず夢なら夢で…覚めないなら覚めないでどうにかなるだろう。 そんな考えを胸にプロンテラの雑踏を目指し、4人歩いていった。 -------------------- 2007/06/20 H.N