ワープポータルを唱えると、頭に4つの景色が広がった。 「えっと、プロンテラとゲフェンとアルデバラン、後…ここはリヒタルゼンかな?」 最終的に狩場は俺がポタで出せるところを基準に決めることになった。 「うーん、時計かジュノー方面ってとこだねぇ。」 空を仰ぎ、考え始めるユキさん。 「アビスレイクなんてどうだろう?」 提案したのはセツナ。 「私、あそこ相性悪いからちょっとヤダかなぁ…」 反論したのはユキさん。確かに属性的に辛いモンスターがいるので乗り気には なれないかもしれない。 「熊人形でいいんじゃねww」 トウガが提案したのは熊人形…アインベフ鉱山のベアドール狩りだ。 「なんでまた急にアイン?」 セツナの問いにトウガは即答する。 「ニーナにプレゼントするww」 いらねwwと思ったが、俺も支援がしっかりできるか心配だったので、 仮にできなかったとしても致命的にならないだろうそこは 選択肢として魅力的だった。 「では折角なのでそこにしましょう♪」 ポタを詠唱をし、頭に浮かんだリヒタルゼンの映像を強く意識する。 目の前に現れた光の柱は ゲームで見るよりも断然綺麗だった。 「れっつらごww」 余韻を無視してトウガが乗り込む。他二人も素早く乗り込んだ。 「……いや、まぁ初めて見るのは俺だけだろうけどさ…。」 なんとなく一人スネてみたが、早くしないと消えてしまいそうだったので 名残惜しいかったが俺も3人に続いた。 軽い浮遊感があった後、そこはもう違う街…リヒタルゼンだった。 プロンテラよりも人は少なく見えたが どこを見ても手入れが行き届いており かなり都会的な街に見える。 「次は飛行船だね〜、久しぶりだ〜♪」 ウキウキとユキさんが言う。 「うわー、俺 高所恐怖症ww」 トウガが言うと、どうしても冗談にしか聞こえない。 空港のゲートを通り早速飛行船に乗り込む。 運良く待ち時間も無く すんなりと空の旅に出ることができた。 「んんー、空はいいねぇ…、俺…今風になってるんじゃないカナ…?」 しばらく黙っていたセツナが飛行船から雲を見下ろし ぼそぼそつぶやき始めた。 「セツナ、キモいよ!」 そう言うユキさんは前に後ろにはしゃぎまわりじっとしていない。 トウガの姿は見えなかった。本当に高所恐怖症だったのだろうか…。 「ニーナ〜、こっちこっち〜♪」 ひとしきり動き回ったユキさんは飛行船の先頭にいた。大きく両手を振って俺を呼んでいる。 「はーい!」 小走りでユキさんのところまでいくと、ユキさんは飛行船の前方を指差した。 遥か遠くの雲が、すごいスピードで近づき そして俺の横を過ぎていく。 昔 飛行機に乗ったことがあったが、あれは密室のまま空を飛ぶ構造の為 感想としては空を飛ぶバスのような感じだった。 しかし今乗っている飛行船は 文字通り空を飛ぶ船…まさに雲の海を進む船だった。 「うわぁ…すごい…」 その圧倒的な光景に思わず漏らした俺の言葉にユキさんが続けた。 「すごいでしょ?ほんと、雲の海みたいだよねぇ…。」 ユキさんがうっとりと言った。 感動できるものを見て、その感動を共有できる人がいるのは嬉しいもんだなぁ… 俺はしばらくそのまま、ユキさんと雲の海を眺めていた。 そんな時間が経つのは早いもので、しばらくするとアインブロック到着の アナウンスが流れた。近づくにつれ空気が澱むのが分かった。 ゲームでは見た目でしかわからないが、実際きてみると正直かなり苦しい。 「はい、次は列車だね〜♪」 ユキさんは今度もウキウキしている。埃に負けずに元気だ。 「うわー、俺 煙いの嫌いww」 トウガはまたもや苦手宣言。 列車に乗ると、やはりセツナがぼそぼそとつぶやき始めた。 「んんー、列車はいいねぇ…、俺…まるで獲物を狙うタカになってるんじゃないカナ…?」 そんな主人をセツナのタカは呆れたように見ていた。 30分ほどで目的地のアインベフに到着した。ここもアインブロックと変わらず かなり空気が悪い。 「どうする?一旦ホテルで休憩していく?」 ユキさんの提案。 飛行船を含めればここまでくるのに約2時間掛かっていた。 一休みしたいところではあったが しかし陽も傾いてきたところだ。 「おkwwすぐ行こうww」 何故か乗り気なトウガ。 「おう、今ならすごい風の技が見せられる気がするぜ!」 さらに乗り気なセツナ。…風の技ってなんだろう……。 俺はユキさんとふと目があい、仕方ないなぁ的な笑顔を交わした。 アインベフ鉱山に入ると、煙のモンスターと炭鉱夫のモンスターがひしめいていた。 名前は正直覚えていない。 「ここは雑魚なんで走り抜けるよ〜♪」 ユキさんの言葉に従い 4人そろって走り出す。 モンスターはいずれも動きが遅いので特に問題無く2階に到着できた。 「おk、熊人形ゲットだぜww」 トウガはここで初めて両手剣を抜いた。 「ちょっと広いとこ行こうぜ〜?」 というセツナの要望で、若干広いスペースに陣取ることにした。 …とは言っても基本的に狭い狩場なので限界があるのだが…。 「じゃ、そこそこ頑張りましょ。」 のほほんとした調子でユキさんが狩りの開始を切り出した。 それを合図に俺は支援魔法を掛ける。 ブレス、速度増加、マグニフィカート…最後にアスムプティオっと。 OK、最低限の支援は問題無い! まずセツナが動いた。持っていた弓で一閃、遠くで様子を見ていた 煙と金属質のモンスターを叩き落す。 「お〜、かっこいい〜!」 初めて目にする弓手の技に、俺は素直に感動した。 「ふふふ、風になった俺に惚れるなよ…」 とセツナ。うん、この台詞がなかったら惚れてたかもしれない。 モンスターが落とした鉱物を拾いにセツナが離れたとき、逆サイドから やかんのモンスターが襲ってきた。 「おkww俺に任せろww」 トウガはそう言いながらやかんに斬りかかった。 やかんの攻撃を避けては斬る。フェイントも使い、やかんを翻弄している。 その動きは普段のwwとはまるで違い、優雅なステップにすら見えた。 …が、いくら経ってもやかんのモンスターは倒れない。 「こいつ固ぇww」 と言うやいなや、セツナの弓が一閃。やかんは瞬殺された。 「…お、お疲れ様〜…」 誰を労うともなく俺は言った…。 「おい…何 店売り武器で遊んでるんだよ…。」 セツナが呆れ顔でトウガに言う。 「ww」 トウガの言動はもはやどういう意味かすら分からなかった。 その後順調に煙と金属質とやかんのモンスターが入れ替わり立ち代わり 襲ってきたが、10分くらいするとついにお目当てのモンスターが現れた。 瞬間、 「熊人形ゲットww」 …と、まだ倒してもいないベアドールを拾い上げるトウガ。 「アホかーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 言いつつユキさんが魔法を唱える。 炎の矢がベアドールに降り注ぎ熊の人形を一瞬で真っ黒コゲにした。 「危ないでしょ!!」 怒るユキさんを尻目にトウガがこちらを向いた。 「ヒールよろww」 炎の矢がひとつ 顔面にあたっていたようで、トウガの顔がコゲていた…。 そんな調子でしばらく狩りを続けていたが、どうもモンスターが徐々に襲ってこなくなってきた。 「あれー、沸かなくなったねぇ?」 不思議そうにユキさんが言った。 「あー、本当だね。ボスでもいるのかな?」 小さく笑うセツナが急に影に包まれた。 「ん…?」 全員セツナの後ろを振り返る。 するとそこには…巨大な機械のモンスターが立ち塞がっていた。 「げ!あーるえすえっく…がっ!!?」 驚いて言ったセツナは舌を噛んでしまった! 「ば、バカ!トウガ、壁よろ!」 ユキさんの叫びに応え、モンスターと俺たちの間に割って入るトウガ。 その瞬間、巨大なモンスターの腕がトウガに振り下ろされた! ガキィィイイィイン… 音が静まる。巨大な腕を、トウガは(店売りの)両手剣で見事に受けていた。 鉄と鉄とがぶつかり合い、その振動があたりの空気を震わせている。 周りにいた俺たちですら衝撃がくる程だ。直接受けたトウガはきっとこの比では ないだろう。 「今魔法で援護を…!」 ユキさんが詠唱に入ろうとすると、トウガがこちらを向いて静かに言った。 「ごめ…今ので酔ったww」 そのままばたんと倒れこむトウガ。今までの乗り物酔いも覚めてなかったのだろうか…。 とにかく、モンスターから受けた攻撃1発に対して 既にこちらは戦闘不能2名。 「ど、どアホどもーーーーー!!!!」 二人が倒れたせいで、モンスターのタゲがユキさんに移る。 「に、ニーナ!二人連れてポタ!ポタよろしく!!」 逃げながら言うユキさんに従う。 とりあえずワープポータルでプロンテラを開く。 「セツナさん!ポタまで頑張って下さい!」 セツナはとりあえず舌のダメージだけだったのでとりあえずヒールを掛けて 頑張ってもらうことにした。よろよろと弱い足取りだったが、なんとか大丈夫そうだ。 問題はトウガだ。 力の抜けた人間というのは重い上、トウガは鎧を着込んでいる。 さすがに簡単には動かないだろう。 「ん!ん〜〜〜〜〜!!」 思い切りひっぱっても少しずつしか動かない。 重い上、今の俺は非力だ。 遠くからドタドタと走る音が迫ってきた。 「わーー、まだ戻ってないのかーー!」 逃げ回っていたユキさんがモンスターと共にこちらに走ってきた。 「ニーナ!ちょっとトウガから離れて!」 言われるがまま二歩ほど離れると、ユキさんが魔法を唱えた。 「ユピテルサンダー!」 小さな光球が生まれ、そのままトウガにぶつけられた。 バチっという音が炸裂したと同時にその衝撃でトウガはポタの中に 弾き飛ばされ 消えていく。 「OK!ニーナもすぐ入って!!」 ユキさんはそのままダッシュでポタの中に滑り込み、私もそれを追った。 軽い浮遊感のあと、そこは昼に訪れていたプロンテラ。 セツナは舌を押さえていた。 トウガは焦げてぐったりとしていた。 ユキさんはすみっこで頭を抱えていた。 「お、お疲れ様でした〜…w」 なんとも声の掛けにくい状態だったが、俺以外に切り出す人間がいなかった。 「お疲れ様…う〜ん、恥ずかしいところ見られたなぁ…。」 ユキさんが切なそうに言う。 「あ、俺…舌かんで戦闘不能なんて初めてだから…いや、本当!」 舌はもう大丈夫なのか、セツナは頭をボリボリ掻きながら言った。 「あはは、大丈夫です、気にしないで下さい〜。」 狩りとしては散々だったが、面白い狩りだったので俺は満足していた。 「ああ、それよりヒールですね。」 トウガがユピテルサンダーのダメージも受けていたのでヒールをしておく。 しかし酔いまでは治らないのか、そのまま動かなかった。 「くそー、いつかリベンジしたいなぁ!」 本気で悔しがるユキさん。 「また行けばいいじゃないですか!」 そう言う俺にユキさんとセツナは顔を合わせた。 「うん…、そうだな!また今度行こう!」 振り返りセツナが言う。 「じゃ、友達になって下さい♪」 実際言うには恥ずかしい台詞だが、なんとなくそんな台詞が出てきた。 命の共有を少なからずしたことでこういう形式だったものが欲しくなったのかも しれない。 「あ、ああ、よろしくなー。」 セツナが右手を出してきたので、それを両手で迎え入れる。 「ユキさんも!よろしく〜。」 握手を求めるとユキさんはためらった。 「あ、うん…。」 少しおかしく感じたが、強引に手を握った。 「よろしくです!」 強く言う俺にユキさんは折れたようなふうに返事をする。 「うん、よろしくねー。」 未だに倒れているトウガの右手も握っておいた。 左手を上に掲げ、親指を立てた。 「おkww」 初めての狩りは散々な結果でしたが、思い出に残る良臨でした。 -------------------- 2007/06/22 H.N