朝起きると、まだROの世界だった。 「ふむ…」 一通り自分の身体を確認した後 時計を見ると、朝の7時頃だった。 疲れていたはずなのになんと規則正しく起きれたことか。 窓からプロンテラ大通りを見下ろすと、はやくも商人達が 露店の準備をしていた。 民家の煙突からは煙が上がっている。朝食の準備でもしているのだろう。 とりあえず俺は意を決して始めての化粧に挑んだ。 昨日のユキさんの手際に、今まで俺の人生で見てきた女性の化粧風景を 重ね合わせ、なんとかこなす。 魔法の方は完全に身体の方が覚えていたが、全てが無意識に 行われていないものに関しては身体が覚えていたとしても なかなか慣れが必要のようだ。 その後、ハイプリの衣装を身にまとい、部屋を出る。 「ユキさん達は起きてるかな…。」 折角なので朝食に誘おうと、部屋に行ってみる。 ノックを数度しても返事がない。 なんとなくドアノブを回してみると、鍵は掛かっていなかった。 「うわ、無用心な…。」 言いながら部屋の中を見ると、ユキさんは机にもたれかかって眠っていた。 「ユキさーん?」 俺が声を掛け、肩を揺らしても起きる気配はない。 ベッドの上に綺麗にたたまれていた毛布を肩に掛けるとユキさんは 寝言でむにゃむにゃと言う。 「お母さん、ありがと…。」 「こらこら、私はあなたのお母さんじゃないぞー。」 聞こえないとは思いつつも声を掛け、あたまをぽんぽんと撫でてみた。 つっぷしたユキさんの腕の下を見ると何やら難解そうな本が開かれている。 きっと夜遅くまで読んでたんだろうなぁ…と関心したが、逆に 昨晩長く話しこんで申し訳ない気もしてきた。 また頭をぽんぽんと撫で、ドアに鍵を掛けてユキさんの部屋を後にした。 セツナの部屋の前には 彼のタカがちょこんと立っていた。 手を振ってからドアをノックしようとすると、そのタカはこちらを向き、 右翼を上げ軽くギャァ…と鳴いた。 「あ、まだ寝てるってことかな…。ケンタ偉いね〜、見張りしてるんだ?」 そう声を掛けると タカは視線を戻し、また静かに見張りを続けた。 トウガの部屋の前に行くと大きないびきが聞こえた。 「ぐうぉおぉぉぉおおっwwおおお〜」 …こいつは…と思いながら、まぁいいやと食堂に向かうことにした。 食堂には他の客はまばらにいる程度だった。厨房の様子から察するに、 早朝出掛け組と朝寝坊組との間にちょうどあたったらしい。 パンと野菜サラダがメインの朝食を取り部屋に戻る。 部屋に戻ると8時すぎだった。他の3人も起きてこないことだし、 俺は一人で出掛けてみることにした。 外に出てまず伸びをした。うん、さわやかな朝だ。 露店はまだ準備中のところが多かったので まずそこら辺を歩いて回ることにした。 プロンテラといえば…なんだろう。 とりあえず思いあたったのが牛乳商人だった。 俺がROを始めた頃、ミルクがメインの回復アイテムだったからだ。 プロンテラをベースにしていた為、ここの牛乳商人にはよくお世話になったもんだ。 「おはようございまーす。」 明るく牛乳商人さんに声を掛ける。 「おはようございます、いらっしゃいませ〜♪」 牛乳商人さんは明るく返してくれる。 「えっと、ミルク下さいな♪」 釣られて俺も明るく返す。 ここらへん、また夜に思い出して赤面するポイントになるだろう。 「何本ですか〜?」 明るく本数を確認する牛乳商人さん。 ゲームでは百本単位で買っていたが、実際のサイズは俺の知っている大きさと ほぼ一緒だったので 飲むには一本が限界だ。 「一本だけ下さいな〜。」 お金を払い、ミルクを一本受け取る。 瓶には真っ白のミルクが入っており、コルクで蓋がされていた。 さすがに紙の蓋やプラスチックの蓋でないところに世界の違いを感じる。 栓を抜き お約束通り 左手を腰にあて、一気に飲み干した。 「うわぁ〜、良い飲みっぷりですね♪」 牛乳商人さんは目を輝かせて言う。 「え、そうですか?」 若干狙った感じはあるものの、俺は照れながら言う。 「ええ♪見た目 本当に素敵なハイプリースト様なのに、その調和の取れた お姿にミスマッチとも言える殿方のような豪快な飲みっぷり…、 私 心底惚れましたわ(*ノ▽ノ)」 言う牛乳商人さんに、何かおかしなものを感じた。 「あの、もし宜しければ…今晩お食事でも…ご一緒しません…?」 赤面させながら言う牛乳商人さんに俺は変なフラグが立ったと直感する。 「あー…、すいません、私連れがいるので…。」 申し訳ないがユキさん達を言い訳に使わせてもらう。 「あぁん、そうなんですか〜???じゃ…私の気持ちということで ミルクちょっとサービスしますね><」 そのままミルク5本押し付けられ、俺は引きつった笑顔でそこを後にした。 「いや、美味しいキャラなんだけど、朝からはきつかったかな…。」 紙袋に入ったミルクを見ながらつぶやく。 さて、次はどこに行こうかな…と考えていると、プロンテラ西口の 花屋の女の子が候補に上がった。 臨時清算のとき、俺はよく西口の花屋にお世話になっていた。 花屋の女の子は南の清算広場にもいるので、清算のときに俺の行っていた場所が 間違っていた…ということもよくあった。 だからこそ ここで浮かんできたのかもしれない。 西口に行ってみると、女の子がバスケットを持ってうろうろしていた。 「おはよ〜。」 バスケットの中に花が入っていることを確認し、俺は女の子に声を掛けた。 「あ、おはようございます!お花いかがですか〜?」 うん、すでに営業トークだ。 「何があるのかな〜?」 そう聞くと、バスケットの中を見せてくれて説明し始めた。 バラなどの知っている花もあれば、初めてみるような花も混じっている。 説明をうんうんと聞いていると、女の子は買ってくれるだろうという 期待に満ちた目をしていることに気が付いた。 「あ、うん。じゃぁこの花とこっちの花を…」 適当に選んでお金を払う。 「そうそう、ミルク余分に買っちゃったんだけど、いるかな?」 花を包んでいる間、先ほど押し付けられたミルクをあげようとすると、女の子が言った。 「ぶー、私のこと、子供扱いしてませんか!?」 「え、あ…ごめんなさい…」 俺がすぐ謝ると、それを見た女の子はいたずらっぽく言う。 「あはは、ありがとうございます♪私子供なんで、ありがたくもらっておきますね☆」 「あ、あはは、良かった、怒らせちゃったかと…」 どきどきしながらミルクの入った紙袋を渡すと、女の子はまた花を包む作業に戻る。 「はいできました、どうぞ〜♪」 しばらくすると女の子は包みを持ってきた。 明らかに買った以上に花が入っている…というか、これはもう既に花束だ。 「あれ、私花束なんて頼んでないけど…?」 言う俺に、女の子はふふーんといった感じで言う。 「サービスですよ♪お客様にあんなに心遣い受けたら、やっぱりお返ししちゃいます☆」 うん、この女の子は将来有望な商人になるに違いない…。 そう思いながら花屋を後にする。 その後、花束を静かに持ちながらプロンテラ中央の噴水を目指した。 ついた頃は既に11時頃で、もう露店も活発に商売をしていた。 露店は後で見るかと思いつつ 噴水のそばのベンチに座り、暖かな陽気を 受けながら休憩する。 広場に面した建物を眺めていると、一軒だけやたら煙突から煙を吹いている ところがあった。 場所的に考えて、ホルグレンのやっている精錬所だ。 これは一番美味しいところを忘れていた!そう思いながら俺はすぐにそこへ向かった。 精錬所に入ると、むわっとした熱気があたりを取り巻いていた。 「おお、いらっしゃい!」 筋肉質の男達が一斉に振り返る。 意に反して、他の客はいなかった。 「お嬢さん、何を精錬するんだい?」 ゲームとはちょっと違うような雰囲気を出しているホルグレン。 こいつならやってくれるかもしれない!! 「あ、すいません すぐ戻ります!」 開口一番そう言い、俺は外に出て露店をきょろきょろと見て回る。 露店では商人が簡単な展示スペースを作り、思い思いのアイテムを売っていた。 何件か目の露店で、精錬済みのナイフが売られていた。 「これ、精錬どれくらいしてます?」 ナイフを手に取りそう聞くと、露店主は顔を掻きながら答える。 「それは9回精錬しているから、かなり強いよ!」 つまり+9、あと一回精錬できるわけだ。 「ではこれ下さいな〜。」 意気揚々と+9ナイフ獲得。それを手に、精錬所に戻る。 「先ほどはすいませんでした、このナイフの精錬お願いします〜♪」 熱気に負けじと明るく戻ると、ホルグレンは豪気に出迎えてくれた。 「おう、お帰り!」 カウンター越しにナイフを渡し、精錬にあたっての注意を聞く。 お金を払い、精錬を期待して見守る。 精錬が始まる。ホルグレンをはじめ周りの助手達も真剣そのものだ。 これって失敗しそうな雰囲気、ないよなぁ…。そう思わざるを得ない雰囲気。 カーンカーンカーン! 精錬所にこだまする音が実に頼もしい。 ガキィイイィイィイン!!! 最後にそんな音がした。 あれ…? 気が付くとホルグレンがこちらを見ている。 「クホホホホホホホホ…」 あ、やっぱりそうなんだ…と思った。 「すまん!でも最初に言った通り…」 弁明を始めるホルグレンだったが、むしろ生クホを見たかったので結果オーライだ。 「あ、全然気にしないで下さい!あの、私、あなたの精錬しているところが見たくて…。」 上目遣いで(冗談で)言ってみる。ホルグレンの顔が赤くなった。 「えっと、あー、そっかそっか、俺のファンだったり!?しちゃったり!?」 ホルグレンは驚き戸惑っていた。 「はい、花束持ってきました!受け取って下さい!!」 なんかもう楽しくなってきたので花束も差し出してみた。 ホルグレンは照れ笑いをしながらそれを受け取る。 「あ、あー、あはは、こんな可愛いお嬢さんが俺のファンだなんて!精錬やってて良かった!」 右腕を顔にあてて目をこすり始めるホルグレン。 「しかし…!こんな娘の精錬に失敗するなんて…俺は!俺ってやつはあぁああぁ!!」 ひとしきり葛藤した後、奥から一本のナイフを持ってきて俺に耳打ちする。 「いや、うん、これは特別なんだが…お礼とお詫びを込めてこれ…持ってって!」 満面の笑みでこちらを見て数回頷くと、ホルグレンは助手達に大声で言う。 「よしお前ら!仕事の続きだ!!」 助手達はその声と共に仕事に戻っていった。 精錬所をあとにし、ホルグレンからもらったナイフを確認した。 なんとなく尋常じゃないオーラが発せられている。結構精錬されて いる代物なのだろうか? 広場の時計を見ると12時を回っていた。 昨日の今頃はユキさん達に会い、昼食を取るため酒場に向かっていた頃だろう。 今日も一緒に昼食いけるかな…と思い、一旦宿屋に戻ることにした。 しかし、宿屋の自分の部屋に戻るとドアに一枚の紙が鋲で留められていた。 ------------------------- ニーナへ ちょっと狩りいってくるね、 戻るのは夜だと思いまーす。 ユキ ------------------------- 「あらら、タイミング悪かったかな…。」 ポリポリと頭を掻き、午後はどうしようかなぁと思いつつ、俺はまた街に出ることにした。 -------------------- 2007/06/24 H.N