「そうそう、飛行船でアルナベルツ教国に行けるようになったって!」 切り出したのは俺の横に座っているハイWIZの女の子。 昨日決めた通り、俺は臨時PTに来ていた。 募集主はこのハイWIZさん。 なんとなくユキさんの面影を追って、この募集に来てしまったのかもしれない。 「おおw氷のダンジョンがあるところでござるなw」 彼女の台詞を受け 次に発言したのは男のアサシンさん。 俺の直後に募集に入ってきたのだが、最初の挨拶で俺はもう疲れた感じだった。 「どんなところかわからないけど行ってみない?」 そう言うのは男のアルケミストさん。 「うん、じゃぁそこに行ってみましょう。」 流れ的にほぼ決まってしまっていたので、俺も承諾する。 アルナベルツ教国と言えばラヘルバッチで実装されるRO第三の国。 俺が元の世界にいた頃はまだ実装されていなかったので、 前情報くらいは知っていたが実際どんなところかは知らなかった。 「それじゃ頑張っていくでござるよw」 アサシンさんが立ち上がってイズルードを指差した。 「え、歩いていくの!?」 驚いたのはハイWIZさん。 ゲームとは違い、イズルードまでの道はそれなりに遠い。 まだ使ったことはないが カプラサービスの転送の方がずっと早いだろう。 「速度増加あれば大丈夫でござるよwさぁ姫w」 俺に会話のバトンを渡してくるアサシンさん。 「いや…姫って……」 正直困りながら全員に速度増加を掛ける。 「さぁ、行くでござるよw」 いきなり主導権を握ったアサシンさんは走っていってしまった。 残った3人は顔を合わせて苦笑した。 「俺らは…転送で行こうか…。」 ケミさんの提案に賛同し、俺らは素直にカプラサービスへと向かった。 カプラサービスの転送はワープポータルとほぼ同じ感じだった。 軽い浮遊感があり、気付けばイズルードだった。 「さて、問題はアサシンさんだけど。」 ハイWIZさんが困ったように言う。 「でも珍しいよね、アサシンが臨時に来るなんて。」 ケミさんが言う。 アルデバランでも少し気になったが、やはりゲームとは違いアサシンという職は この世界では目立たずひっそりと存在しているようだ。 そんなことを考えながらふと周りを見ると、飛行船付近は人でごった返していた。 冒険者というよりは 普通の商人が圧倒的に多いようだ。 「いやー、しかしすごい人ゴミですねぇ…。」 きょろきょろ見回しながら俺は言う。 「そりゃぁ今まで行けなかった国だもんなぁ、いろいろ金儲けの話もあるだろうし…。」 アルナベルツ教国を知る人はまだほとんどいない。 一週間とちょっとだけこの世界で生きた俺と、生まれてからずっとこの世界で生きてきた 他の人々との差は、そこだけに関しては0だった。 「おーい、でござるw」 遠くから声がした。振り向くとアサシンさんがこちらに向かってくるのが目に入った。 「あ、早かったですね…。」 労いついでに 俺は疲れを取る効果は無いが、一応ヒールを掛ける。 「しかし姫たちも早いでござるなw拙者かなり急いだのでござるがw」 どうにも話を合わせる気も無く、また三人で顔を合わせ失笑する。 「そうそう、旅と言えば弁当でござるなw拙者何か買ってくるでござるw」 そう言うとアサシンさんは人ゴミの中にまた消えていった。 それを見た俺たち3人は同時に飛行船の搭乗口に走っていった。 遥か彼方の雲が、すごい風と共に俺の横を過ぎていく。 飛行船に乗るのは2回目だが、やはりその光景には圧倒されるものがあった。 この前はユキさん、トウガ、セツナもいたなぁ…と、一週間と少し前のことだったが 無性に懐かしかった。 「ねね、こんなところで呆けて、どうしたの?」 ふいにハイWIZさんが心配そうに声を掛けてきた。 「ええ、景色眺めてたんです。…って うわ、何でそんな心配そうに見るんですか…。」 ハイWIZさんは死にそうなくらい不安な顔で俺を見ていた。 「だってね、飛行船の案内の人が心配してたから…。」 そう言いながら振り返る彼女の視線の先には、飛行船の係員がそわそらして立っていた。 「…?何だろう…?」 とりあえず俺はその係員に話すことにしてみた。 「こんにちは!」 俺が声を掛けると、係員は安心したような顔で挨拶を返してきた。 「あー、今日は大丈夫そうですね、よかったよかった、つい心配になって!」 明るく笑う係員は俺の肩をぽんぽんと叩いてそう言った。 「今日は…?」 俺が怪訝そうに聞くと、係員は思い出すかのように答えた。 「ほら、1、2週間前も当便をご利用頂きましたよね?その時はもうすごい落ち込んだ顔して 空を眺めていたんで、どうにも気になっていたんですよ!で、今日もやはり空を眺めていたので つい心配になってしまいまして…。」 ペラペラと話し続ける係員。 1、2週間前と言うと…俺がこの世界にやって来た頃だろうか。 「ご心配ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですので…。」 軽く笑顔で会釈をし、飛行船の先頭に戻る。 ニーナもこの空を眺めていた…落ち込んでいた……? そういえば俺がこの世界にやって来たとき、セツナもその直前を「寂しそうに突っ立ってた」と 語っていたが…、一体何があったのだろうか…? そんな思いに耽っていると、雲の合間から砂漠が見えてきた。 広大に広がる砂漠の中に、オアシスのように神殿が建っていた。 飛行船内にアナウンスが流れた。そろそろ着陸のようだ。 搭乗口近くのハイWIZさんとケミさんと合流する。 「さ、行きましょ!」 ハイWIZさんが元気に声を出した。 「さて、街行く?それとも直接氷のダンジョンに行く?」 ケミさんが道に立てられた標識を見て言った。 どうやら街と氷のダンジョンは違う方向らしい。 「そうですねぇ、ちょっと街も見てみたところですが…」 俺の台詞に言葉を重ねてきたのはハイWIZさんだった。 「ごめん!観光は彼氏と一緒のときまで取っときたいんだけど…!!」 両手を合わせて申し訳なさそうに言うハイWIZさん。 「んー、じゃ仕方ないね、ラブラブな旅行はしたいよね☆」 ハイWIZさんの姿に、やれやれと言うケミさん。 とりあえず臨時終わった後に行ってみれば良いことだし、今は氷のダンジョン行きということで 俺も了解した。 「うわー…これは寒いですねぇ…。」 2時間くらい掛けて着いた氷のダンジョンはまさに天然の冷凍庫だった。 「うわーん、この服、腕と脚が冷える…。」 両手を組みながらガタガタと震えるハイWIZさん。 「俺の相方、固まっちゃわないかなぁ…。」 ぼそっというケミさんはいつのまにかゼリーを出していた。…ゼリーじゃなくてホムンクルスか。 「行けるところまで行きましょうか…。」 そう言いながら俺は支援魔法を掛ける。 「ああ、こういうときこそ火の魔法なんじゃないかな…。」 言いながらハイWIZさんは両手の間に小さな火の塊を出して温まっていた。 そうこうしていると氷の柱の影から小さな毛むくじゃらのモンスターが現れた。 「あ、モンスターですよ!」 俺がそう言うとハイWIZさんは火の塊を捨てて魔法を唱えた。 「ユピテルサンダー!」 瞬間、現れた光球に、モンスターは黒コゲになって力尽きた。 「お、おお!風の時代がきた!」 魔法の効きっぷりを見て嬉しそうに言うハイWIZさん。 「よし、お前もがんばれ!」 ケミさんはホムンクルスをけしかけ、次に現れた毛むくじゃらを一生懸命殴っていた。 その場所でしばらく狩ることになった。 ハイWIZさんはユピテルサンダー、ケミさんはホムンクルスと一緒に攻撃。 まったりな感じではあったが、なかなか臨時としては良いのではないだろうか。 しばらく狩った後、少し離れたところから戻ってきたケミさんの顔がオークになっていた。 俺とハイWIZさんは思わず噴出した。リバースオーキッシュという、顔の見た目だけが 変わる状態異常を受けたのだ。 俺たちの様子を見て、ケミさんは自分の顔を両手でひたひたと確認し、最後に手鏡で確認した。 「う、うわぁああああぁあ!俺の美形の顔があぁああぁああぁあ!!」 特に美形ということもなかったが、オーク顔よりは美形ではあったのでつっこまないでおく。 落ち着いて辺りを見回してみると、毛むくじゃらしかいなかった。 「あの…こうなるの嫌なんで…次の階層行ってみません…?」 俺の提案にハイWIZさんは大きく頷いた。 その後 毛むくじゃらと何回も戦い、どうにか次の階層に辿り着いた。 「うわ、さっきの階より寒くなってない…?」 3人全員ガタガタと震えている。 「確か3階もあるらしいけど…今回はやめておこうか…。」 ケミさんは彼のホムンクルスを撫でて暖めていた。凍ったら冷凍ゼリーだ。 「そうですね、この階もそんな長時間いられなさそうだし、さっきの階も嫌だし…。 少し狩って、戻りましょうか…。」 俺の提案に、二人も了解した。 「じゃ、もう本気出していくよー!」 ハイWIZさんはそう言うと、通路の奥にちらっと見えていたモンスターに向かっていった。 俺たちもそれに続く。 通路を抜けるとそこは小さな部屋で、部屋の奥にモンスターが数匹 固まっていた。 先ほどの階で見た毛むくじゃらのモンスターと、それを大きくしたようなモンスターの二種類。 この階にも毛むくじゃらいるのか…と少し嫌になった。 「OK!一気に殲滅するよ!!魔法力増幅っ!!!」 ハイWIZさんは杖を構えて叫んだ。手の辺り、杖の全体が一気に光る。 直後、詠唱に入る。 詠唱に入るのを見計らって、ケミさんはモンスターのタゲを取っていた。 ホムンクルスとの連携もなかなかだ。俺はヒールと支援を掛け続け、ハイWIZさんの魔法を待った。 「詠唱完了!離れてっ!!」 ハイWIZさんの声を合図にケミさんがとっさにモンスターから距離を置いた。 その瞬間、氷の洞窟に声が響いた。 「ロード・オブ・ヴァーミリオンっ!!!!!」 俺の脳裏にはあの夜、ローグと戦ったときのユキさんが使ったLoVが浮かんだ。 あの威力の魔法を─魔法力増幅をした上、こんな洞窟で─…!? 思った瞬間 俺はとっさに目を閉じたが、激しい雷が俺たちの前に落ちてしまった。 ドカーン!! ……あれ…? 予想していたのとは全く違う、弱々しい音がした。 しかし目を開けてみると、モンスターは全滅はしていた。 …あれ……?LoVってこんなもんだっけ…?そう思い、俺は面食らった。 「ハイプリさん!凄い威力だからってそんな驚かないでよ♪」 得意げに言うハイWIZさん。 「あ、はい、すごいですね、全滅ですよ!」 俺はなんとかそう言うことに成功した。 その後しばらく狩りをして収集品を軽く集めた後、戻ることになった。 「お疲れ様でした!」 氷のダンジョンの前で3人挨拶をする。 「私、ちょっと観光していこうと思うんですが、お二方はどうします?」 俺の問いに、結局二人とも戻ることにしたようだ。 「明後日あたりに彼氏と来ます(*ノ▽ノ)」 とハイWIZさん。 「俺も明日ちょっと用事あるから一旦戻るー。」 とケミさん。 「それではまた、宜しくお願いしますね〜♪」 再び挨拶を交わした後、二人は俺の出したポタに消えていった。 「さて、とりあえず俺は街に行ってみるか!」 俺は一人伸びをして、テレポートで頑張って戻ることにした。 -------------------- 2007/07/08 H.N