「お帰りなさいませ、ご主人様」 「もーちょいニコヤカにー」 「お帰りなさいませ、ご主人様」 「お辞儀の角度は45度!」 ズラリと並んだアリス服の女子に、あたしはメイドの仕草を叩き込む。 ―――と言ってもあたしもテレビで見た知識しかないから怪しいモンだけど。 それでもこのラグナの世界じゃ奇抜なアイディアであることには変わりないと思う。 ―――何をしてるかって? 実はプロンテラ初、ううん、ラグナロクの世界初のメイド喫茶オープンに向けて 店員の特訓をしてるのだ。エッヘン。 「なぁ、オムライス800zはわかるんだが、ケチャップ100zってなんだ?」 ピンク色の手書きのメニューを見ながら呆れたような声を出したのはエッジ。 Lukが高いとは思えないビンボーくじ引きまくりナイト。 デビルチの卵と騙されあたしの入った卵をつかまされ。 そんな状況を会う人ごとにからかわれ。 テロに巻き込まれカーリッツバーグに殺されかけて。 辛い戦いかいくぐりキサに会ったら空振りで。 …ま、そんな状況でもあたしを恨んだりしてない所はスゴイ奴なのかも。 そのエッジ、思ったよりテロで負ったダメージは大きかったみたいで、 あれから四日経った今でも微熱が下がらないので狩りは一時中断。 傷は塞がっても失った血や筋肉へのダメージはすぐに治らないのかもしれない。 …あるいは見掛けによらず虚弱体質なのかも。 「ケチャップ?あぁ、コレは好きなメイドさん指名してオムライスに絵を描いてもらう代金」 「…本気か?ミサキ」 うん、ものすごく本気。 あたし―――石倉ミサキ15歳、職業キューペット。 ちょっと前までは女子高生だった気もするけど、今はこの世界で生きるので手一杯。 なにせ飼い主がビンボーな上負傷中なもんで、なんとか稼がないと干上がってしまうのだ。 でも、いくら文明人とは言え一介の女子高生。 飛行機の設計できるわけでも原子炉の原理を説明できるわけでもなく。 一つだけココでも通用しそうだったのがオタ知識。 メイド喫茶なんてこの世界にまだないんじゃない?ってクリスに聞いてみたら結構イケそうだったんだよね。 エッジもまだ当分ハードな狩りに出られそうもなかったし。 で、フレアさんに期間限定でお店を使わせてもらうことになったのだ。 ―――エッジを説得するのが一番難しかったんだけどね。 ********** 「あのさ」 ふと思い付いてあたしが声をかけるとクリスは顔を上げた。 「ん?」 ここはクローバー商店街の中のフレアさんの食堂の一角。 キサはあたしを知らないし、ラヘルが実装されてないということは過去の世界だっていうことで。 あたし達は収穫のなかったアルデバランは早々に退散してフレアさんの宿に戻っていた。 「この世界にメイド喫茶とかってあんの?」 「なんだそれ?」 どうやらクリスは初めて聞く言葉らしく首をかしげた。 「あー、可愛い女の子とか綺麗なお姉さんが給仕してくれるようなお店」 それを聞いたエッジは飲んでたオレンジジュースをキレイに吹き出した。 まるで松田優作のAAのように。 「あぁ、そーいうのならあるけど」 むせて言葉が出ないエッジを気にせずクリスは答えた。 クリス―――金髪碧眼の美形プリースト。 モテるし世渡りうまいし、なんでエッジと仲がいいのかよくわからない。 あのテロの後、カーリッツバーグを倒したのはエッジとクリスだとなぜか噂になったのも クリスが近付いてくる女の子に片っ端から口説き文句がわりに言ってるからだとあたしは睨んでる。 「あのね、アリスみたいなメイドさんの格好したウエイトレスが給仕する店ってどうかな?」 「どうって…」 イマイチ意味がわかってないクリスにあたしは立ち上がって実演してみせる。 「お帰りなさいませぇ、ご主人様」 にこにこ。 今までに見せたことのない笑顔で深くお辞儀する。 「今日も狩りだったんですかぁ?今お水お持ちしますのでゆっくりしてくださいね(はあと)」 「ミ…ミサキちゃん…?」 「お食事決まりました?今日のシチューはご主人様の為に一生懸命作ったんですぅ!」 上目使いでクリスを見上げ、ついでに両手を胸のあたりでぎゅっと握って最大級のカワイコポーズ。 まぁ、どんなに繕ってもあたしはあたしなんだし、そう大して変わりはしないだろうけど。 「………」 「どう?ちょっと萌えない?」 無言であたしを見るクリスにちょっと自信がなくなった。 うーん、ダメかなぁ。 「…ちょっと、新鮮かも」 意外にもあっさり認めたクリスにあたしは畳み掛けた。 「でしょでしょ? そういう店員さん揃えてサービスするお店っていいと思わない?」 「ミサキちゃんも店員さんやるの?」 「うーん、需要があれば」 「おー、じゃ俺一番乗りしようかな」 クリスがニヤッと笑った瞬間、エッジがどんっとテーブルを叩いた。 「だーめだ、だめだめ!」 「アハハ、冗談だってば。やっぱダメか」 そのままエッジに頭を叩かれクリスは笑った。 「なんでダメなのよー」 あたしが腕組みするとエッジは大きなため息をついた。 「ペットにンな事させてノンビリ休養できるか」 「ンな事って…それぐらいあたしにもできるって」 そう言うとクリスは大爆笑。 エッジは怒りの赤い顔を通り越してなんか赤紫になってる。 ―――うん?そんな変な事言った? 「いやー、実際さ、ミサキちゃんそういう経験なさそーだしムリムリ」 笑いすぎて出た涙を拭きつつクリスが続ける。 ―――まぁ、バイトはまだしたことないけどさ。 「それにちょっとコドモすぎるよなぁ。そういう趣味の奴もいるだろうけど」 ―――ん? 「俺は、まーどっちでもイケるけどエッジに殺されそうだしなー」 ―――どゆこと? 「マジメな話、ミサキちゃんが体売るぐらいなら死んでもエッジに働かせるって」 ―――へ? ―――今クリス何つった? なんかものすごい爆弾発言を聞いたような気がして、一瞬頭の中がフリーズする。 「……ビジネスとしてはいいと思うんだよな、うん。ご主人様願望ってあるしなー」 そんなあたしに構わずクリスはしゃべり続ける。 「なんかこう、妖しい雰囲気がたまんないよな。衣装もミニスカにしてさ…」 あああ、ちょっと待って〜!!! 「……うーん、エプロンてのが最大のポイントだな。あれを―――@#%&(&%(’」 「はい、ミサキはここまで!」 エッジが耳を両側から押さえてあたしをズルズルと外へ引きずって行く。 ああ、もう絶対二人とも“夜のオシゴト”だと勘違いしてる… 何を言ってるかわかんないけどクリスはまだ一人でしゃべり続けてる。 ―――聞こえてたとしてもジョシコーセーには刺激が強すぎる内容だったんだろう。うん。 ********** あの後赤くなったり青くなったりしてるエッジをなだめるのに三十分。 それからメイド喫茶の正しい姿を二人に説明するのにたっぷり二時間はかかった。 そしてフレアさんにこの企画を説明するのはたったの二十分。 『ご主人様の役に立ちたいんです』ってあたしのセリフが良かったのか。 ―――それとも商売人ってのは儲かりそうなネタを嗅ぎ分ける特殊能力あるのかな? その後はもうトントン拍子。 テイミング商人のお姉さんからアリスの服をレンタルでゲット。 クリスに美人の『オトモダチ』(本人談)を集めてもらいウエイトレスもOK。 昨日から噴水前でチラシ配りもしてもらってる。 メニューはフレアさんと二人で考えて、簡単につくれる物でビミョーにボッタクリ設定。 夜の部を考えて軽いカクテルも用意。 ―――ぶっちゃけアルコールはホンのちょっとでほとんどジュースなんだけど。 それをメイドさんがシェーカーで作れば+300z。うはは。 女性客を考えてクリスにはバリスタ風の服に着替えてもらう。 最初はホスト風にでもしようかと思ったんだけど、紫のラメスーツとかこの世界にはないので却下。 またコレがびっくりするぐらいよく似合う。 メイドさん達も目がハート。 次はホストクラブでもやってみようかしら。 あ、エッジは会計係。 体格はスポーツ選手並だからエッジも衣装似合うっちゃー似合うけど、悲しいかな平凡な容姿。 体調も良くないことだし、座ってできることをしてもらう。 準備にかかったのは二日間。 そして今日開店というわけで冒頭に戻る。 「ミサキちゃん、看板つけ終わったよー」 クリスの声に店を出て頭上を確認する。 『メイドカフェ・ぷりてぃーありす』 ピンク地にパステルイエローの丸文字。 端には例のフザケたニワトリの絵が描いてある。 あはは、これはきっとフレアさんが付け足したな。 周りを見れば、宣伝のかいあってか怖い物見たさかもう人垣が出来はじめている。 おけ、ここは一発ガツンと稼ぎましょー! あたしは大きく息を吸い込むと、最大級のカワイコ笑顔で声を張り上げた。 「ぷりてぃーありす、開店でーす!」 ********** 「ミサキちゃん、10番あがったよ!」 「はーい。 3番オーダー入ります…えーっとオムライスにパスタセット」 「ミサキ、カウンターに二名通していいか?」 「―――いやだな、ボクは誰の物でもないですよ…あなた以外の」 あー忙しい忙しい! いざメイド喫茶のフタをあけてみたら、繁盛どころじゃない大盛況になってしまっている。 あたし達は休憩どころかお昼を食べる時間もない状態で、すでにもう日が暮れている。 狩りから帰った冒険者の姿も増えてきて、これからもさらに混雑しそう。 あ、ちなみに上のセリフはフレアさん、あたし、エッジ、クリス。 ―――クリス、なんか楽しそうだぞ。 売上目標はとっくにクリア。 この分じゃ治るまで毎食エッジの食事に白ポを付けられそうだ。 ううん、痛み止めにアンティペインメントもイケるかも。 嬉しくなってちらっとエッジを見たら目が合った。 「…なに笑ってるんだよ」 「んー?あたし商売の才能あるのかも、なんて」 うん。 あたしにもできることがあるってのはなんだかスゴク嬉しい。 リアルの世界でも何のとりえもなかったけど。 こっちの世界に来てから、ホントに何もできない自分にヘコんでたのだ。 「あー、そう」 エッジはそれだけ言って予約表に目を落とした。 「…どしたの?なんか怒ってる?」 「別に」 これでしばらくの生活費は安泰だっていうのに、何に不満があるってのさ。 「―――なんなのよ、もう」 厨房へ向かいながら呟くと、歯の浮くようなセリフでお客さんをメロメロにしてたクリスに肩を叩かれた。 「ミサキちゃんが独り立ちしたみたいで寂しいんだって、あいつ」 予想外の事を言われてあたしは目を丸くする。 「えー?さんざ疫病神とか大食らいとか言ってるのに」 クリスは笑った。 「ま、なんだかんだ言ってもミサキちゃんの事、妹みたいに大事にしてるからね」 「なんだってー?クリス」 あたし達がコソコソ話してるのを横目で見たエッジがジトッとした目で睨む。 「いやいや、なんでも」 クリスがトボけるとエッジは視線をあたしに移した。 「……ミサキ、そろそろ酒入ってきてるからお前はあがれ」 ―――はー、お子様扱い過保護すぎ! あたしが肩をすくめるとクリスは耳元で付け足した。 「―――妹以上なのかもね」 「…んなっ!」 なぜか反射的に赤面した瞬間、奥でグラスが落ちる音とウエイトレスの“キャッ”という声が上がった。 一瞬でそんな話を忘れ振り返る。 あー、酔い潰れたかメイドさんにお触りしたかだな。 ―――どっちにしろやっかいな客だなー 仕方なくあたしは仲裁に向かおうと一歩踏み出した。 「オレが行く」 エッジが立ち上がりあたしを制した。 ま、あたしや優男風のクリスより、見かけだけでもガタイのいいエッジの方が影響力あるか。 エッジは音のしたカウンターの方へ歩み寄り、しばらく立ち止まった後、困った顔をして振り返った。 「―――あれ、マットさんだよ」 ********** 「おぅ、またなんたら商店街トリオか。なんでお前らこんな所にいるんだ?」 あたし達を見回してマットは笑った。その息はもう酒臭い。 「ここ、オレ達がやってる店なんですけど」 クリスが言うとマットは何がおかしいのか大笑いした。 「メイド喫茶ってお前も店員の一人なのか?」 「…そうだけど」 「わはは、この美人さん達に交じってお前が。このちんちくりんが」 ひゃひゃひゃっと笑ってマットはあたしの頭を叩いた。 ―――相当酔ってるな、コイツ。 「なんでマットはここに居るのよ?」 こんな奴でもお客さんなんだ、と念仏のように唱えてあたしは聞いた。 「あ?臨時の帰りだよ。今日はカード出てだいぶ儲かったからな」 ああ、そういえばそんな事もあったっけ。 あたしはラヘル実装直前のマットとのゲームでの会話を思い出した。 「んーと、ハイレベル頭だから…『ジェスターカード』だっけ」 「な!…なんでお前それ知ってる!?」 あたしの呟きを聞いてマットはスツールから転げ落ちんばかりに驚いた。 「言ったじゃん、あたしは“キサ”で、ここより未来の世界から来たって」 ―――どうせ信じないだろうけどね。 マットは何か考えるように酔った赤い目であたしを見、それからメニューを手に取った。 「…この『悪意のあるペロス』ってカクテルくれ」 「もうやめといた方が…」 エッジの声を遮るようにマットは続けた。 「んで、お前―――なんてったっけ、ミサキ?お前を指名な」 「へ?」 「お前の分は奢ってやるよ。…だからちょい付き合えや」 「…おい」 低い声で牽制するエッジをマットは横目で見た。 「なんか文句あるか?そういう店なんだろ?―――コイツお前のもんなのか?」 反射的にグッと拳を握ったエッジの手をあたしは軽く止めた。 「大丈夫だって。…鎖あるでしょ?」 まだ何か言いたげなエッジに背を向けあたしはマットに向き直った。 「―――ご注文ありがとうございます、ご主人様」 良く冷えたシャンパン風の口当たりのいい発泡酒にトマトジュースを入れてステア。 真っ赤なドリンクに隠し味のレッドチリを添えてマットの前に出す。 自分の前にも同じ物を。 レッドチリの辛さに『悪意のあるペロス』なんて名前を付けたけど、元はレッド・アイというカクテルらしい。 リアルの世界では未成年なんだけど、コレ飲んでもいいんだろうか。 少し離れた所では、エッジとクリスが心配そうにチラチラ見てる。 何の心配をしてるんだかわからないけど、マットなら大丈夫。 性格はサイアクに近いが、意味のない暴力をふるったり直結的発言はした事がない。 「―――飲まねぇの?」 一口飲んで“うは、辛いな”と呟きマットはグラスを顎でしゃくった。 「…なんかあたしに用?」 くるくるとタンブラーを弄びながら聞いてみる。 マットは押し黙ってカクテルを二、三口飲むと思い切ったように口を開いた。 「―――お前、この前おれとキサが結婚してるとか何とか言ったよな」 「は?」 あたしが予想外の問いかけにポカーンと口をあけると、マットの顔がさらに赤くなった。 お酒のせいでは、ない。 「言ったよなぁ?」 念を押されてあたしは頷いた。 「…お前の知ってる未来はいつ来るんだよ」 マットは残りのカクテルを一気に飲み干した。それでも足りずにあたしの手からグラスを奪うとそれも飲み干す。 「えー…っと」 あたしはマットの言葉を頭の中で整理する。 彼は無言で大きな背中を丸めナッツをかじる。 「もしかして…あたしの事が好き…なのかな?」 それを聞いて今度は本当にスツールから転げ落ちた。 「おめーじゃねーよ!キサだよキサ!」 マットは言ってしまってから、また一段と赤くなってプイッと顔を背ける。 「あー、そうかそうか、ゴメン」 この世界ではあたしとキサは180度違う存在なんだっけ。 ―――でも、マットがねぇ… ゲームでは全然気が付かなかった可能性にちょっと考え込む。 ジェフが引退して、レベルが近くて稼げるからマットと結婚した。 Gvギルドじゃ珍しくもない効率婚。 もしかして、ゲーム画面の向こうにいるマットの中の人はそんな風には思ってなかった…? 「おい、聞いてんのか?」 小さなナッツをつまみながら背中を丸めるスナイパーがなんだか可愛くてあたしは笑顔になった。 「でもマットがねー…キサの事をねー」 「―――んだよ、悪いか」 バツが悪そうに唇を尖らす姿はどうも憎みきれない。あれだけ腹を立ててたのがウソのようだ。 「いや、あたしの知ってる世界じゃキサとマットはもう結婚してるんだよね」 「は?」 「だから、あたしの知ってる世界じゃフィゲルの前にキサとマットは結婚してるの」 ―――そうなのだ。 フィゲル前に接続が途切れはじめたジェフと別れ、キサはマットと結婚した。 結局BOTに嫌気がさしていたジェフはラヘル前にそのまま引退するはずなのだ。 ジェフに会ったあの日、慌ててエッジとクリスに確認したんだけどこの世界はフィゲルからラヘルの間。 モンスターレース場はあってもアルナベルツ教国やフレイヤ神殿はまだ知られていないようだった。 だからジェフの引退はまだだとしても、とっくにキサとマットは結婚しているハズなのだ。 「…どういう事だよ」 「んー、だから、あたしの知ってる未来とはちょっと違うと言うか…」 「違うで済むかよぉっ!」 マットはカウンターに突っ伏した。 あたしは心配そうなエッジに手振りでお水を持ってくるように頼んだ。 「…なんかあったの?」 マットは沈黙したまま臥せっている。 「…ねぇってば」 「―――告って轟沈した」 ふへぇっ!? 「告ったって…相手人妻よ?」 「わーってるよ…酔った勢いだよ」 「…サベージ並ね」 「―――言うな」 それっきりマットは沈黙した。 「…キサは人の性格とか見てないよ。効率だけで相手選んでる」 「………」 「中身知ってたら別の結果になってたかもしれないけど」 「………」 「あたしがそういう風にしてたんだよ、ゴメンね」 「…なんでお前が謝るんだよ」 「信じてないけどあたしがキサだから」 マットはやっと顔を上げた。 「―――またそれか」 「ホントなんだってば」 「…んじゃ、今後どうなるか教えてくれよ。その未来じゃおれはどうなってた?」 ―――今後。 マットの問いかけにあたしは重たい記憶を呼び戻した。 「ラヘルってのが実装されて…氷の洞窟とか、新しい街が増えて…  ブルー・ハウンズのスパイのせいで一週砦奪われて…」 「おれは?おれとキサは?」 「一緒に作戦立て直して次はゲフェンの砦を狙って…ドラキュラも狩りに行って…」 思い出そうと天井を仰いで、一瞬ぐらっと視界が揺らいだ。 「それから…」 ドクン!と心臓が跳ねた。 突然のGvの中止、超重力―――悪夢の幕開け。 「…おい、どうした?」 マットの声がなぜか遠くから聞こえる。 街に集合する仲間達、抗議、枝、天の声。 ―――そしてすべてのプレイヤーの悪夢の象徴、バフォメット。 ぐにゃりと天井が歪み、意識が闇へと引きずりこまれていく。 エッジやクリスの叫ぶ声が聞こえたような気もするけどよくわからない。 声を上げる間もなく、あたしは深い闇の中へと沈んでいった。