―――目が覚めたら。 「ん……っ」 ――げんじつのせかいだった。 「なんつー夢を見とるんだ俺は」 気だるい身体をのそりと起こす。 時計を見ると12時少し前。3分クッキングで料理が出来上がる頃だった。 頭の中から今日の予定を引き出すが、精々夕方からバイトという程度。 ふぅ、と息をつきながらパソコンのモニターにスイッチを入れる。 真っ暗な画面に明かりが灯り、露天で6割方埋められたプロンテラの町並みが映る。 「……売れねぇなぁ」 マルボロの箱から1本の煙草を取り出し火をつける。紫煙を肺に入れると共に心地よい気だるさが身体を支配していく。 煙草の先端に灯る火が、さきほどまで『居た』世界を連想させた。 炎と血の真っ赤な世界。 やけにリアルだった。五感全てが感知できる夢など初めてだ。 今までたまに夢は見たが、どれも嗅覚や聴覚が感知できないし、自分の意思で行動できないといった『欠如した世界』だった。 それがさっきの夢では異常なまでの現実感を保っていた。 「でもあの状況はねーわ」 酷かった。 ネトゲの世界に入ったり女になってたりとかはこの際置いておくとしても。 ――ドリームなセカイで繰り広げられるレ○プと暴力のワンダーランド? 溜まっているんだろうか、色々と。 段々と社会の汚いところを見始めて疲れるお年頃ではあるのだが、逃げすぎだろ俺。 そう自分の夢を評価し自嘲したところで、腹の音が空腹を告げた。 ――お昼休みはウキウキウォッチン♪ 冷蔵庫にあったヨーグルトをプルーンのまま食べる。点けたテレビからは丁度馴染みに歌が流れてきた。 それを横目にプロンテラの露天チェックを開始。 「……殴りハンターか。懐かしいな」 小悪魔帽子が並べられている露天から、過去のメインキャラを連想する。 STR-AGI型のネタキャラだったがオーラまで育て。 消した。 今思うと勿体なかったかもしれない。 しかし当時はそのハンターは転生させるつもりもなく、ガンスリンガーが実装されそちらに心が傾いていた。 他のキャラスロットは露天用とGvG用のキャラが埋めており、複数のアカウントを取る気にもならなかった。 だから、消した。 あの夢は消された殴りハンターのささやかな復讐だったというのは過剰な妄想だろうか。 確かめるように呼び出したキャラクターセレクト画面では、無表情なガンスリンガーがにやけている気がした。