―――目が覚めたら。 「え……」 ―――ROの世界だった。 覚醒しきらない頭、それでもラグナロクオンラインの世界だ、と理解したのは真っ先に目に付いた白ポとイグ実のせいだった。 自分が横たわるベッドに備えられたサイドテーブルの上に置かれた高級回復剤。艶のあるイグドラシルの実がやけに美味しそうに見える。 そして俺の身体は、やはり女ハンターのものだった。 目が覚めたら―――【3】 「夢の続き、か」 あのやけにリアルな夢。 かの殴りハンターのつけていた子悪魔帽が頭に乗っていることからそれを確信する。 ……身体がダルい。節々も痛い。 苦痛すらもリアルに再現する夢に辟易する。 行動を嫌がる身体を鞭打って起こす。どうせ夢の中だ、多少無茶をしてでもこの世界を楽しんでみるとしよう。 持ち前のポジティブさでベッドから身を降ろす。 こじんまりとした部屋。洋服箪笥にテーブルと椅子が二脚、窓は一つで鏡が一枚壁にかかっている程度の質素さ。 ドアの外も気になったがまず鏡をのぞいてみる。 「女、なんだよな……」 改めて確信する。 小ぶりな卵型の顔に緑色のショートカット。黒い子悪魔帽がアクセントになっている。 くりくりの大きな瞳が少し太めの眉を魅力的にしている。 レベルたけぇ。美人ではないが可愛いといえるだろう。 童顔ではあるが年齢的には『俺』と変わらないようだ。 「願望なんだろうか、これ」 女性化願望のある男性は少なくないというが、その中の一人かもしれないという事実に少し鬱になる。 そういう願望のある人間を感情的に嫌悪する自分、と気づいてさらに鬱に。 ―――ふぅ。 思考が暴走を始めた辺りで鏡から目を離す。ここで考えたって仕方がない。 窓を完全に閉ざすカーテンに手をかける。少し古い、色あせた布地。 カーテンを開く。 「……っ」 蹂躙された街。通りに張り巡らされた石畳は所々が破壊され、瓦礫がそこらに転がっている。 屋根屋根の合間からは黒煙が立ち上り、青空に消えてゆく。 あの夢の続き。爆音と、血の臭いが脳裏に浮かぶ。 炎の熱気、、鉄の雄たけび、ニンゲンの断末魔――― 「――あれ」 そこまで思い出して現在の光景に違和感を覚える。 決定的に一つの要素が抜け落ちている。最初に見た色。あの、むせるような臭い。 「血が、ない?」 そうだ。窓一つからでは視界に限界はあるが、通りには死体どころか血の一滴すら残っていない。 死体は片付けたにしても瓦礫も転がっているこの街で血痕一つ見当たらないというのは異常だ。 なんでだ―――? 「おはよう、気分はどう?」 背後から声が届いた。