ああ今日のG狩りは疲れたなあ… ディスプレイを眺めて俺は一つ溜息をつく。 2PTに分けての大所帯でタナトス下層、ハイプリは俺だけなのでレベルの低いPTの方にも アスムを回したり色々大変だった。 でも皆わいわいやってるのを見てると楽しい。 俺はプリがやっぱり好きだ。 ギルマスのLKが気を利かせて清算を仕切ってくれている。 しかしここで俺の得意スキル寝落ちパッシブLv10発動、瞼が重い… 清算時に無反応は心象が悪いのは承知しているのだが、どうしてもこの癖が直らない。 暗闇の向こうから眩しい光が差し込んでくる。 いかんまた寝てしまった…と身体を起こして目を開けると、一面に広がったのは透き通る青い空 そしてビルと同じ位あるのではないだろうか、物凄く高い壁…城壁??? 座っているのもデスクチェアではなくて、ベンチだった。 胸元で何かがキラリと光る、はだけた胸元にはロザリオが輝いていた。 髪の色は銀、服装は白基調の異国情緒溢れるデザイン…とでも言えばよいのだろうか? これはどう見てもハイプリの衣装、正直意味が分からない。 なぜ俺がこんな恰好をしているのだろう。 取りあえず視線を空から元に戻して、横に向けて見ると 近くにはゲーム内では見覚えのある衣装、もとい職の人達が数組談笑している。 ぷよぷよと音を立てて歩くポリンやドロップス。 遠くには人が行き交っているのか、賑やかな足音が微かに聞こえる。 俺はようやく理解した。 ここはROの世界、ミッドガルドで今自分が座っているのは、プロ南←のベンチである事を。 とりあえず人の多い方に行こうと立ち上がり、正門の方へと歩き出す。 ゲーム内ではあっと言う間だけど、実際歩くと結構遠い。 ベンチが見えなくなった頃、その方向からトコトコとノービスの女の子が俺の方へと走って来る。 「ハイプリさーん、忘れ物ですよー!」 初心者らしい(と言うかそのまんまノービスだが)はつらつとした元気な声を掛けてくれた。 彼女の右手には彼女と同じ背丈程ある杖、俺がベンチで置きっぱなしだったようだ。 「ありがとう、寝ぼけてるのもいいところだなあ」 俺は苦笑いしつつお礼を言う。 「あの…わたし、もう1つレベルがあがったらアコライトに転職するんです!  いつか、あなたのような立派なプリーストになれるといいな…」 彼女はてへへと笑ってそんな事を言って、またトコトコと走り去って行った。 俺は何故かいい気分になった。 彼女の純粋無垢な心がそのまま伝わった気がしたから。 こんな子は今のROに居るのだろうか… プロンテラ城門前、実際目の前にするととても大きな門だった。 監視小屋もちゃんとあったり、緑の大きな帽子を被った吟遊詩人が歌を披露している。 沢山の人が行き交う通りを見て、流石首都と言うだけあると思わず納得してしまった。 俺も雑踏に混じり門をくぐる。 長い門を通り抜けると、見渡す限り西洋風な建物が並び、通りには沢山の人が露店を出している。 「冒険の前に消耗品をお忘れなく!」 「他のポーションとは一味違う、世界に名を馳せる当店のポーションをよろしく!」 そんな威勢のいい掛け声があちらこちらから聞こえる。 大きな路地を東寄りに歩きながら露店の品々を見ていると、ある見慣れた露店があった。 おいしい魚、ブルージェムストーン、蝶の羽の3点のみ、綺麗に並べられている。 売り子さんのケミは静かに本を読んでいる。 隣には番犬代わりの子デザートウルフがちょこんと座っていて、くるっとした瞳でこちらを見ている。 頭にはにやっと笑うデビルチの帽子に真紅の長髪、ちょっとくせ毛。 間違いなくゲーム内では知り合い、彼女の事はよく知っている。 何だかRPみたいで恥ずかしかったが声を掛けてみた。 「ようエリ、今日も頑張ってるね」 「あ!シキさん、こんにちは!」 びっくりエモが見えたような気がしたが気のせいだろうか。 彼女はぱたっと本を閉じて、笑顔で俺のゲーム内の名前を口にした。 直で言われるとかなり恥ずかしいものがある。 そのまま勢いで彼女に関する話題を振ってみた。 「賢者の石は買えた?」 「今出してる品が捌けるとようやく買えるんです!  シキさんが買ってくれるのかな?かな?」 「2回聞くなよ、ヒールとテレポがあるからさ、いつもとおり青石をくれ」 「ありがとうございます!今日中にはエンブリオ作成に挑戦できるかな…  でもまだ勉強が足りないから失敗しそう…どきどき…」 そう言いながらも希望に満ち溢れた笑顔で、エリはペコリとお辞儀をした。 俺はポケットから財布を出して、見慣れない札やコインで御代を支払う。 エリは1stキャラなのに製薬ステ、自分ではなかなか稼げないのでこうして消耗品露店を出している。 弱音を一言も吐かず一途に頑張る姿が好きで、俺はいつも彼女から青石を購入していた。 聞けばこうして露店を出しつつ、一生懸命製薬の勉強をしているらしい。 WSPの成功率が今のところ5%なんだそうだ。 「でもシキさん、私決めてるんですよ。  最初に生まれてきてくれたホムンクルスと絶対狩りに行くんだって。  どんな子か楽しみで仕方がないんです。  気に入らないから消してしまうなんて事は  アルケミスト失格かもしれないけど、私にはできない…」 突然彼女は真面目にこんな事を言った。 この世界におけるアルケミストの理念は到底俺が知るはずもないが エリの言葉にはとても重みがあった。 「そうだな、俺も個人的には全くその通りだと思うよ。  それにしても、この子デザにも友達ができるとなると、随分賑やかな店になるな」 「そうなんです!わんこにホム、それにジオまで出しちゃえば4人PTなんですよ!  人間は私だけだけど…それにこの頭の子もあわせれば5人になっちゃうんです!」 頭に乗っかっている子悪魔帽を指差して、なぜか興奮気味に話すエリに俺は思わず笑ってしまった。 「今日はシキさん、これからどうされるんです?」 とエリは聞いてきた。 どうしようかなあ…と正直迷っていた。 このまま首都観光もいいところだが、これだけ広いと1日で終わりそうもない。 「臨時広場に行くよ」 と俺は答えた。 どんな感じなのか興味もあったからだ。 「それじゃあ、頑張ってきてくださいね!」 「ああ、また買いに来るから補充しておけよ」 エリは最後まで笑顔で、手を振って俺を見送ってくれた。 07/08/25 「目が覚めたらROの世界だった! vol.8」スレ>>27