夕日も落ちて来て、立ち並ぶ家々には灯りがともっていた。 5分程歩いただろうか、メインストリートから少し離れた路地裏に来た。 その一角にあるこじんまりとした店、看板には「ヴァルハラ」とある。 外見の割になかなか洒落た名前じゃねーか。 アヤが店の中へと案内してくれた。 「あらおかえりアヤ、今日は臨時なの?」 アヤと同じ黒髪ロングの…金色に光るカチューシャをつけたメイドさんが出迎えてくれた。 ま、まさかキューペットのアリスが店やってんのか? それは俺の知ってるROには無い要素だな。 「準備してくるからシキ、好きに料理を注文していいよ、私はいつものね」 アヤはそう言って奥の階段を上がっていった。 メイドさんに勧められて俺はカウンターに座ると、紅茶を出してくれた。 結構匂いがきつめで、甘みも蜂蜜のような変わった味の紅茶だ。 「ハイプリさんにintはあまりいらないよね、vitがいいのかな?  これはアヤのおごりだから、気軽に選んでいいよ?はいメニュー」 と言ってメイドさんがメニューを2つ渡してくれた。 まさか今のはint料理…嫌な予感がしてメニューを見ると 片一方はレストランで出してくれそうな品、もう一つはROの世界で言う「料理」だった。 「何にする?久しぶりの臨時っぽいしお姉さん腕振るっちゃうよ!」 「ああええと…カルボナーラで」 「もう片方のメニューからも選んでね」 「いやこれ高いし…」 「いいのいいの、どうせアヤのおごりなんだから。不死のチゲ鍋なんてどう!?」 何故かメイドさんは目を輝かせて言う。 いきなりおごられるのもどうかと思うが…臨時でいきなりこれ食えと渡されても困るしな。 ふと、チゲ鍋の材料が確か材料が心臓とかだったような事を思い出した。 味がやばそうなので、俺は即断る事に決定した。 「辛口焼餃子で頼むわ」 うまそうだし、ちょっと男らしい料理を頼んでみた。 材料は忘れてしまったが、これなら食えそうだしな。 酒が欲しくなるなあ。 「えー折角なんだから、肉煮込みにしておきなよ、お勧めだよ。私の作るのはおいしいから!」 「それ、何の肉使ってるんだ?ピラ地下産ミノタウロスの肉とかは勘弁な」 「ははは、ちゃんとプロンテラの市場で仕入れたお肉をハーブで煮込んだものだよ。  めっちゃ手間暇かかってるんだよ?  本当にモンスターの肉を使ってるお店もたまにあるらしいけど」 「…じゃあそれで頼む」 あっさり折れる俺、意思弱え。 料理とか全く使った事ないし、効果すら分からないけどな。 決まったね!と彼女は厨房の方へすたすたと歩いていく。 メイドさんから「〜♪」エモが見えた気がした。 厨房からとてもいい匂いがして、程なくカウンターにおいしそうな料理が並ぶ。 でもアヤがまだ来てない。 今がチャンスなのでこのメイドから事前情報を聞いてみる事にした。 「…アヤって人見知りとかするのかな?  臨時広場で見た時は何となく寂しそうで、なんかあるのかなって…」 「アヤは昔から人付き合いが苦手なんだよね。  仲間が欲しいと思ってはいるんだろうけど、そういうトコ、不器用でね…アヤは腕は確かだし  臨時広場でも技術はそこら辺のwizと格が違うって評判なのに」 メイドさんは苦笑いしながら言った。 難しいなあ、俺も昔はそんな感じの時期もあったな。 噂をすれば、トントンと階段を下りてくる音がして、アヤが俺の隣の席に座った。 「美味しそうだね!」と満足そうな様子。 俺はカルボナーラと特製肉煮込み、アヤはカクテル竜の吐息とソウルハンドブレッド。 (見ても分からないので、メイドさんから聞いた) 「この料理、アヤのおごりってさっきから聞いてるんだけど、マジ?」 「マジですよ?ここの料理の食材は殆どアヤが狩りで取ってきたもので作ってる」 俺が尋ねると、アヤではなく代わりにメイドさんが何故か胸を張って言った。 どうやらご自慢の同居人らしい。 「料理人の腕も勿論大切。いつもとてもいい感じで作ってくれるシャロンには感謝してるの」 アヤは誇らしげに付け加える。 メイドさんはシャロンと言うらしい。 彼女は料理に関しては余程の腕の持ち主のようだ。 俺は店に入った時からどうしてもシャロンの容姿が気になって、つい聞いてしまった。 「店主が実はキューペットでアリス、アヤが店番させて料理を作らせてる…とかないよな?」 突拍子もない問いに二人とも大爆笑する。 「シキ君、私は今はこの店のオーナー兼調理師だから、メイドと言うより主人だね。  ただ、私の本職はスナイパーだよ」 シャロンは心からおかしそうにそう言った。 なるほどな、高dexを生かして料理を作る訳か、しかしそれなら砂っぽい恰好をしろ。 料理するのにあの服はないか。 「俺、スナイパーのホットパンツとか、結構好みなんだけどな」 「ん、それではハイウィズではお気に召さない?さっき私の事怪しい目つきで見てたような…」 アヤがちょっと訴えかけるような、魅惑する笑いをしながら、そんな事を言う。 そこを突っ込むなよ…いやハイウィズの衣装も大好きだぜ。 「シャロンがアリスか、なら私アリス同好会のギルドに加入できるね」 「おかえりなさいませご主人様!」 「もう2人でアリスやろうか?広場でメイド服着て募集するの」 「それいいね、カッコいい騎士様が誘ってくれるかも」 …俺を置き去りで2人は盛り上がっている。 誰か止めてくれ。 つーか狩り行かなくていいわ。 料理に舌鼓をうっていると、からんからんとドアの鐘がなって 網タイツが鼻血もののローグとモヒ毛様…もといチェイサーのカップルが入ってきた。 「いらっしゃいませ」と言いながらシャロンがこちらに目配せして、そちらに行ってしまった。 「シキ、これからの狩りなんだけど…グラストヘイム古城でいいかな?」 アヤがカクテルグラスから口を離して呟いた。 wizプリペアの王道だな、上等だ。 「タゲ行かないよう極力頑張るよ」 「臨時広場で評判の聖職者様の支援が受けられて光栄です」 「…俺が評判?」 「PTMの事を思いやる支援さんだって」 アヤはそんな事をさらっと言ったが、俺にはその言葉の意味がいまいち理解できなかった。 「思いやる」ねえ…… 支援を切らさないとかそういう類の事なのだろうか。 そもそも俺、客観的に見ても噂になる位上手くないなあ、テンプレ通りの動きしかできないし。 「アヤは臨時でよく狩りに行く方なのか?」 「あまり行かない、人見知りしてしまって…殆ど一人で行く。  狩りのやり方とか、他の人の考え方だとか…私がちょっとずれてるらしくて、色々あわないの。  楽しくやれればいい、ただそう思っているのだけど」 アヤは少し自嘲気味に言った。 何かたぼっちの頃の俺と、考え方がそっくりで、それが何だかもどかしい。 「勿論合わない奴なんてこの世に腐る程居る、だけどさ、色々な人と遊んでれば  そのうちアヤと同じ理想を持つ仲間、見つかるかもしれないぜ?  俺も昔はずっとソロだったんだけど、支援職始めてさ、人と遊ぶ楽しさが分かったら  ソロなんてやってらんねーってなったよ。  おかげで今は馬鹿やれる仲間にめぐり合えて、楽しくやってる」 思わず自分語りをしてしまったが、アヤはそれを静かに聞いていた。 ちょっと気まずくなった俺は何とか言葉を紡ぎ出す。 「さてと、食ったようだし、眠くならないうちに狩りに行こうぜ」 「…そうしましょう」 アヤは席を立って出口へ歩き出した。 彼女の手には俺の持ってるものより長い杖、先端には赤い宝石で装飾が施されている。 ガードは無い、ウィザードスタッフというやつだろうか。 「アヤすまん、ちょっと待って」 椅子から離れて、頭の中で念じてみる。 取りあえず基本「ヒール!」 身体がふわっとした感覚に包まれる。 他にもブレスIAアスム等々…スキル振りは一緒のようで、一応狩りはできそうな気が…する。 「シャロン、じゃあちょっと行って来る!」 大人しめの口調だったアヤが、突然元気な声で言い出したので、俺はちょっと驚いてしまった。 ちょっと沈んだ空気を変えようとする意図があったのかもしれない。 「いってらっしゃい、土産話を楽しみにしてるからね」 シャロンは笑って見送ってくれた。 07/08/27 「目が覚めたらROの世界だった! vol.8」スレ>>27