メインストリートのプロ十字路は、物凄い人ではぐれないように歩くだけで精一杯だった。 その中で一生懸命仕事をしてるナイスガイ、ジョンダ。 お願いしますとお金を払うと、身体が光に包まれて景色は一瞬、白の世界へと変貌した。 すぐに視界が開けて、見渡すとそこはお城の中庭のようだった。 グラストヘイム古城入り口に到着すると、アヤは少し緊張した面持をしていた。 ギュッと唇を噛み締め、既に戦闘モードのようだ。 「シキ、行こう」 アヤは小さな声で俺に合図をした。 「アヤ、その前に一つだけ約束してくれ」 「ん、何?」 「絶対俺より前に出るなよ」 wizプリペアでは当たり前の事…それを大真面目に言った俺が滑稽に見えたのだろうか アヤは笑って「了解したよ」と言った。 初めて彼女が本心から笑ったような気がして、俺は少しほっとした。 埃が舞い上がっていて視界が非常に悪い。 遠くからガシャガシャと聞き覚えのある音が聞こえる。 でも俺が前を歩かないといけない、俺は腹を決めた。 ブレス速度アスムを丁寧に掛ける。 「魔法力増幅!」 アヤが言い放つと、彼女の杖がきらきらと光り始める。 「さあ行こうぜ」 俺は自信満々にアヤを視線を送る。 アヤは握りこぶしを作って「ぐっ」と合図してくれた。 廃屋に成れ果ててしまったとは言え、広い廊下や装飾はまさに古城の赴きだ。 瓦礫の影から、大きな赤い鎧が俺に向かってくる。 自信満々に声を掛けたものの、実際mobを目の前にするとマジで怖い。 バックラーを構えた瞬間、後ろから小さな呟きが聞こえる。 「ユピテルサンダー!」 光の弾がレイドリックを直撃、崩れ落ちる。 アヤの魔法捌きはとても素晴らしかった。 彼女自身に向かってきた敵にはFW、時にはハイドで姿を隠す。 wizのお手本と言って良い動きだろう。 俺は支援を切らさない事だけを意識して、敵の気を引くように動くだけでよかった。 次々と襲い掛かってくる敵を次々となぎ倒していく。 結構歩いた気がするが、中央の広間に到着すると、突然アヤが立ち止まった。 「…シキ、王座が見える?」 アヤはか細い声で俺に聞いてきた。 耳をすますと馬の嘶きだろうか、明らかにレイドリックとは違う気配だ。 この場所に湧く馬から連想されるmobは深遠しかいない。 事前にサフラがあれば取り巻きのカリッツごと楽勝だ…でもそれはゲームの話。 俺は一応アヤに確認をする。 「俺が引き付けるからSGで、後は任せる」 アヤは無言で頷き杖を構える。 俺はサフラを詠唱、王座前の階段下に躍り出て、深遠と対峙する。 「ストームガスト!」 カリッツはがらがらと音を立てて崩れ、深遠の騎士の身体には段々と氷の結晶が付着していく。 しかし深遠は動きを止めず、動きが鈍りながらも大振りの剣をアヤへと振りかざす。 アヤは呆然として動かない、いや動けないのか。 「ホーリーライト!」 俺は咄嗟に、無意識のうちに叫んでいた。 光線に気付いた深遠が一瞬こちらを向いた瞬間、アヤははっと顔をあげて大きな声で魔法を唱えた。 「ユピテルサンダー!」 雷の弾は馬に跨っていた騎士を壁際に叩きつけた。 ガシャーンと物凄い音が城内に響き、騎士の姿はゆらゆらと闇に溶けるように消える。 俺はその場にへたりこんだアヤの前に走った。 「大丈夫か、ヒールがいるか?」 「ありがとう、ストームガストの詠唱手順を間違ってしまった…  シキの判断がなかったら、私は今頃…本当にごめんなさい」 アヤは今にも泣き出しそうな顔で俺を見ていた。 「そんな顔すんなよ、無事だったんだからよかったろ。  ミスの無い完璧な狩りなんてないぜ」 「でも、そのミスで皆を危険な目にあわせちゃうんだよ!」 「ミスのフォローをするのもPTMの役目だ、PTはアヤ、お前1人でやってるものじゃないだろ?  お互いの信頼しあってこそのものなんだから、これ位のミス気にするな」 「…うん、そうだね。シキ、ありがと」 アヤは目を擦って笑顔でこちらを見た。 「ところで、これなんだ?」 俺は深遠の騎士が倒れた場所に行くと、そこには古いセピア色の写真が落ちている。 写真には自分の身長より長い剣を携えた、長い髪の幼い少女の姿が写っていた。 「それ、カードだね…激レアだよ!」 「あ!マジ!?」 とりあえず今日の狩りはここまでと言う事で、ワープポータルを出してプロンテラへ戻った。 プロンテラの街は相変わらずの人通りで、ヴァルハラまで戻るには一苦労だった。 「おかえりー!どうだったか話が楽しみだなあ、シキ君の支援とか色々もう!」 シャロンは何だか楽しそうだった。 「支援も切らさない、mobもちゃんと引き付けてくれて、噂に違わぬ素敵な支援さんだったよ!」 アヤは少し興奮しているのだろうか、熱っぽく語りだした。 「アヤ、その話を後からゆっくり聞かせて欲しいから、取りあえずお風呂入っておいで」 シャロンは笑いながらアヤをなだめる。 「シキ、私先に入るよ?いい?」 「ああそうしてくれ、今のうちに一杯飲むかなあ!」 そう言うとアヤは階段を上っていった。 シャロンは厨房で何やら夜食っぽいものを作ってくれてるようだった。 しかし上手く狩りが進んでよかったぜ、マジ怖かった。 アヤお勧め(?)マステラ酒を飲みながら、さっきの事を思い出しながらぼーっとしていると 気が付けばアヤが白いキャミソール姿で俺の隣に座っていた。 やたらと胸元を強調しないでくれ。 「さてと、色々話してもらおうかな」 チーズやらツマミにぴったりなものを並べながら、シャロンが嬉しそうに言う。 「そうだなあ…狩りについては…」 と俺がまだ言い終わらないうちからアヤが喋りだす。 「あのね、深遠凍結失敗しちゃっだんけど、シキがホーリーライトで上手く敵の目引き付けてくれて  なんとかJTで倒せたの!危なかったけど名刺も貰っちゃったし!」 アヤが嬉々として話し出し、止まりそうも無い。 どうやら俺の出る幕は無さそうだ。 1時間程3人で談笑し、俺はそろそろおいとまする事にした。 カードは俺が預かり、ミスティに相談して買ってくれる人を探す事になった。 アヤが外まで見送ってくれた。 「じゃあな、今日は楽しかったぜ、アヤの腕も見事で関心したよ。また狩りに行こうぜ」 俺は素直に感想を伝える。 「…またシキ、狩りに誘っていいかな?」 アヤは恥ずかしいのか、小さな声でそう言った。 「気軽に誘えよ、また行こうぜ」 「うん、ありがとう…でも今日は本当、守ってくれてありがとう。  私、自分ひとりでなんとかする、そう思い込んでいたけどそれは傲慢だなって気付いた。  PTMを信頼する事、本当に大切だよね、そんな事すら忘れかけていたなんて…」 「そうだな、思いやる心を大切にな」 俺はひらひら手を振って店を出た。 店を出て、プロンテラ大聖堂へ向かう。 実際の目で見る聖堂は物凄い荘厳で美しいものだった。 俺はここで他のプリーストと別棟の居住区で共同生活をしているらしい。 夜勤のシスターに記憶喪失をまたもや装うと、救護室に連れて行かれそうになったが 何とか部屋に辿り着き、俺は今日の出来事の疲れからかあっと言う間に眠りに落ちた。 朝、部屋のドアをノックする音で俺は目が覚めた。 やっぱり昨日見た天井、銀色の髪…これは夢ではないらしい。 ドアの向こうから声がする。 「シキ、あなたにお客様ですよ」 ドアを開けると、黒い法衣をまとった男のプリーストが立っていた。 「ああ、ありがとう。それでその客はどこに?」 「大聖堂でお待ちです」 俺はさっと身支度を済ませて、大聖堂へ向かう。 祈りを捧げるプロンテラ市民、アコライトやプリーストの姿が多数見える。 聖堂の一角、長椅子に座る見覚えのある服装、黒髪で赤い瞳の彼女…アヤだった。 アヤは俺に気付くと笑って駆け寄ってきた。 「シキ!今日用事ある?無いなら狩りいかない?」 静かな聖堂に、透き通ったアヤの声が響く。 今までのアヤの言動から、彼女から誘ってくるのは少し違和感があったけど 彼女は変わろうとしているのかもしれないと思うと、俺は何だかとても嬉しくなった。 「そうだな、行こうか」 「ありがとう!」 と言うなりアヤは突然俺の手を取って引っ張りだした。 細い腕にとても小さな手、だけど確かな人の温もり、とても暖かかった。 「ああ、俺、もうあっちの世界に戻りたくないな…」 そんな事を呟きながら、俺は聖堂の出口で待つアヤの元へ歩き出した。 07/08/27 「目が覚めたらROの世界だった! vol.8」スレ>>27