おめでとうございます、MVPです!!特別経験値107250獲得!! おめでとうございます、MVPです!!MVPアイテムはバフォメット人形 「まあこんなもんだな…」 俺は独り言を呟く。 愛用の串で毎日プロ北で狩りを続ける俺LK94歳。 転生する前からペアPTなんて両手で足りるほどしか経験がない。 いつも隣にいる相方は2PCの支援プリと付与わっか、買出しもプロ待機の商人で全て行っている。 こいつも誰もいないプロ北カプラに消耗品を取りに行くだけ。 そんなぼっち全開の俺の一日はこうしてバフォを狩って終わる。 露店をセットして俺はモニタの電源を切って床に着いた。 ほのかに香る甘い香りと、煌々と差し込む太陽の光で俺は目が覚めた。 目の前に広がるのは色取り取りの花で彩られた花壇。 意味が分からん…と思いながら身体を起こすとがしゃ、と謎の音がする。 しかし重石が乗っかってるような感じがして、起き上がるのには少し力を要した。 ふと自分の身に着けているものを確認すると、それはまさに鎧だった。 身体の各部位に装着されているそれらは、太陽の光を浴びて眩しいほどに銀色に輝いている。 とても重たそうだが、手をぐるぐる回してみても大した重みは感じなかった。 そんなことはどうでもいいけど、ここはどこで俺はなぜこんな恰好をしている? 周囲を見渡すと、同じく銀色に輝く重そうな馬具(馬じゃないが)を身に付けた オレンジ色の生き物がのんきに草をついばんでいる。 その横には、俺の所有物と思しきヘルムと槍が無造作に地面に置かれている。 視界にはどこまで続いているかも確認できない城壁。 …ここはプロンテラ正門外の花壇、そして俺は騎士らしい。 夢にしても上出来すぎる程のリアルな感覚だが。 目が覚めたらラグナロクの世界だった、これマジ? とりあえず首都に入ってみようと思い、ヘルムを被ってペコペコ(もちろん名前はない)に近付く。 こいつ意外とでかいな…当然俺に乗馬の経験などあるはずもない。 まあ無理に乗る必要もないなと思い、手綱を引いてペコと俺はゆっくりと城門へと歩き始めた。 長いトンネルのような城門をくぐると、そこは沢山の人でごった返していた。 カプラに近いこともあり、消耗品を売る商人の声や狩りの準備をしているらしきPTの姿が見える。 メイドみたいな恰好をしたカプラさんが冒険者の人達と話をしていたりする。 真剣な眼差しをしている人もいれば、笑顔で会話をしている人もいる。 とても活気があって、生活感みたいなものが溢れていた。 しかし少なくともゲームの中の俺には、そんなの関係ねえの一言に尽きてしまう。 無論ギルド無所属で知り合い皆無な俺には、首都に来ても行く宛がなかった。 それがこの夢なんだか分からない世界でも同じだということは、なんとなく分かってはいたが。 道に沿って歩いていくにしたがって、露店は目に見えて増えていった。 武器防具収集品、品を見ているだけでも意外と楽しい。 店番をしている人間も様々、ケミ子さんのふとももに俺はちょっと癒された。 ふと香ばしいいい匂いのする店の前で立ち止まってしまった。 俺はふと持っているバッグを確認すると、ちゃんと財布があって偉そうな人間が描かれた 札やコインがちょっとだけ入っていた。 こっちでも貧乏なのかよ、と苦笑するしかなかったが、飯くらいは食えるだろうと 店に入ろうとした…けど俺には連れがいるのを思い出してしまった。 こいつ「ぺこーぺこー」とか鳴かないのな。 ゲーム内では平然とペコに乗って店にずかずかと侵入していくけども さすがにそれはやばいだろうなと諦めることにする。 一番賑やかな十字路を通りすぎて、ふと着いた先は臨時広場だった。 「生体工学研究所の調査に同行してくれるプリースト様いませんか!」 「龍退治に自信のある方、誰でもうちのPTに入りませんかー」 「96アサシンどこでもついていくでござる」 等々。チャットなどあるはずもなく、皆集まって声を出して募集していた。 活気があって非常に羨ましい…俺のいる鯖は過疎鯖で夜でも臨時は疎らだ。 当然ここにも俺がいる意味はねえな…と広場を後にしようとすると、背後から声がした。 「お前が森から出てくるなんて珍しいな、くく」 それは明らかに俺に向けられた声だった。 振り向くとそこにはマジェスティックゴートを被ったLKが俺を馬上から見下ろしていた。 今まで街中を歩いてきたが、他の騎士は皆ペコから降りて歩いていたのに、こいつは… 山羊帽子の騎士、そして自分を知っていると言えば俺には思い当たるのは一人しかいなかった。 たまにハイプリとバフォ狩りに来るLK、鯖でも有名ギルド所属だが 俺がFA取ってるとまくれないのが悔しいのか、たまに暴言を吐くやつだった。 それ以外のことは知らない。 「たまに人恋しくなって臨時でも探しにきたのか、アゼル。  でもソロばっかのお前にペアやPT狩りなんてできるわけがねえよなあ」 騎士は俺を嘲笑うかのように言った。 アゼルは俺のゲーム内の名前だ。 むかつく物言いなので、俺も言い返してやることにした。 「それは認めるけど、ケヴィンお前どうして俺に突っかかるんだ?  日頃バフォで競り負けるのがそんな悔しいのか?」 「森に住み込んでるやつのが得意に決まってるだろう  俺が本気を出せばお前なんかすぐ出し抜ける」 どうしてこのLKことケヴィンがこうも強情なのか分からないが… 実は負けず嫌いな俺、ついうっかり皮肉が出てしまった。 「そのお前の被ってるマジェスティックゴート、地力入手じゃないんだって聞いたぜ」 俺がそう言い放った瞬間、ケヴィンは突如槍を俺の顔面に突きつけた。 広場に居た人も、馬上から武器を抜いたケヴィンを見て緊張感が走る。 「言っていいことと悪いことがあるぜアゼル、変な噂を広場に広めるな」 「実際お前が出したところ見た事ないしな、実は図星だったんだろ?」 俺は平然と言ってのけた。 「貴様それ以上言ったらどうなるか分かってるのか!」 ケヴィンは激昂して俺に槍を振り下ろそうとする。 その時、俺の目前を桃色の人影がさっと横切った。 さっと長い金髪がなびく様はとても美しかった。 「ここは臨時広場です、人に剣を振るうならPvに行ってください。  それにロードナイト様、ここは街中なのにペコペコに乗ったままとは皆に失礼では?  もう少し周りの人の事を考えてください」 ケヴィンは俺と同様唖然とした様子だったが、人だかりを見て我に返ったようだった。 「分かった分かったよ聖職者様、言うとおりにすればいいんだろ?」 ケヴィンはやれやれ、といった表情で槍を下ろした。 「分かって頂けて何より、騎士道を見失ってはいないようですね」 俺が唖然としていると、彼女はさっと髪を掻き分け俺の方を見て笑っていた。 「まあお前は臨時に転がってるヘタレがお似合いだな、せいぜい頑張れや」 ケヴィンはペコに最後まで乗ったまま悪態をつき、広場を後にしていった。 ケヴィンが去ると人たかりは自然と雲散して行った。 残された俺と彼女…とりあえず何を言えばいいのだろうか… 「…ありがとう、助かったよ」 「助けてなんていないよ?誰かが言わないと、こんな街中で決闘みたいな雰囲気だったから」 彼女は微笑していた。 桃色の聖服はどう見ても彼女がハイプリーストである事を表していた。 両足のスリットの部分がかなり…ちょっとセクシー過ぎると思います。 華奢な身体に白い肌、端正な顔立ちに金髪の上には白い羽毛、天使のヘアバンド。 俺の第一印象はずばり姫… 「何じーっと見てるの?何かついてる?」 彼女は突然俺の顔を覗き込んできた。 至近距離で目をあわせられて俺は慌てて離れる。 「別に逃げなくてもいいじゃない、ひょっとして恥ずかしいの…?」 彼女は一変悪魔のような笑顔で俺に近寄ってくる。 どうすればいいんだよ。 「それにしてもあのLKに喧嘩売るとは、かなり勇気ありますね。  彼の傲慢なやり方には臨時広場でも色々意見があるところですから」  PTの強引な勧誘、引き抜き等々。有名で力もあるのでしょうけど…」 彼女はちょっと思慮がちにそんな事を言った。 こいつ臨時広場でも何時もこうしてちょっかいだしてるなら、とんだトラブルメーカーだなあ。 「でもあのLK、被りものの山羊帽は地力じゃないんですね、笑えるかも」 彼女は無邪気に微笑んでいた。 そしてふと「そうだ」と頷くとずいっと俺に近付いてきた。 「ロードナイト様、もし用事がなければ私と騎士団ペアなんて行ってみる気ありません?」 彼女は笑ってとんでもないことを言った。 狩りに行ってみたい気もするが、スキルの使い方なんて分からないしペコの乗り方も怪しい。 しかも臨時で下手するとBL入りされちゃったら嫌だしな… と色々考えてみたが、本当にこの世界の俺がゲーム内の俺であるなら狩りはできるはず… 「OK、是非行きたいんだけど暫くペアPTで遊んだことがない…それでもいいか?」 「全然いいよ!騎士団は行ってくれる高LvのLKさんなんてそんなにいないし」 「私リリっていうの、よろしくね!」 「俺はアゼル、よろしくな」 「とりあえず昼食食べに行かない?」 とリリが促すので、俺は彼女の後ろをゆっくりと歩いていった。 数分後、俺とリリはプロンテラ中央の噴水前でサンドイッチをほおばっていた。 ROもリアルも万年ぼっちの俺が、お人形さんみたいな金髪の女の子と二人っきり。 「なあ、どうしてまた騎士団なんだ?ハイプリだったらジュピアビスでもいけるぜ?」 「…知り合いの、一周忌なの」 リリは初めて俺に笑顔以外の表情を見せた。 その後彼女はこの世界の「死」について語ってくれた。 簡単に言うと、寿命と「Return to savepoint」は違うんだそうだ。 モンスターと戦い傷付き倒れた時、この世界の神様がそのどちらかを常に選択しているらしい。 リザレクションで蘇生できない死は俺達の世界で言う死と同義。 「それでね、彼のために花を手向けに行きたくて、それで貴方にお願いしてみたの」 「なるほどね、そういうことならぜひ手伝いたい」 「今日は特別だけど…いつもは自分を必要としてくれる人がいれば狩場なんて何処でもいい。  一人の聖職者としても、私自身としてもね」 リリはまた笑顔に戻っていた。 こんな人間と臨時広場で出会ってれば、俺も今と少しは違ったのかなあ。 そんな戯言を考えながら、残ったサンドイッチをペコの口に放り投げた。 「そ・れ・で!何故さっきからアゼルはそわそわしてると言うか、挙動がおかしいのかな?  私が隣に居ると恥ずかしいとか…?」 リリはそう言いながら俺の腕を強引に持ち上げて腕を絡めてきた。 俺の心臓がやばい… 「な…お前は何やってるんだ?」 「ははあ、この動揺振り、アゼルもしかして相方とか居たこと無いでしょ?」 「うるせえなあ、ほっとけよ」 「それじゃあ私今日一日だけアゼルの相方になってあげるよ!ただし報酬1Mzeny+経費」 「勝手に決めるな、つーか俺が金取られた上経費ってなんだよ!?」 「んー姫らしい頭装備の購入費用かな!」 「自分で姫って言うなよ…自覚あんの?」 「…うん、少しだけ」 なんてくだらないやり取りが、何だか妙に楽しかった。 「経費は青石と聖水だけ払ってやるよ、食ったことだし行こう」 「ちぇー今カプラヘアバンドが欲しいのに」 「ポタある?」 「うん、今出すね」 リリは「ワープポータル!」と唱えると光の波動が地面から噴出している。 俺は急いでペコの手綱を引きその光の中へと入った。 ふわっと一瞬視界が真っ白になったかと思うと 次の瞬間にはグラストヘイムの城壁内に俺達は立っていた。 2007/10/18