騎士団入り口へと移動中、ふとリリが口を開いた。 「アゼル、ペコペコには乗らないの?」 「ああ、乗るけどもリリが居るのに俺だけペコの上って言うのも何か変な感じがして。  別に俺は偉くもなんともねーし、普通同じ目線で話したくないか?」 「意外と紳士的なロードナイト様なのね、普通の騎士様は狩場につく前から乗りっぱなし  結構上から話されてるような感じは、やっぱりするからね…」 「どちらかと言えばリリが乗ればいいんだよ、姫と家来、ぴったりだろ?」 「変なこと言うなあ、アゼルは大人しそうだけど意外と冗談も言うんだね」 「まあ、普段喋る機会があんまりないけどな」 リリは笑っていた。 こんな馬鹿やってると楽しいよなあ、いつしか忘れてしまっていたようだ。 グラストヘイム城内に入ると、まず広い廊下に出た。 ここが栄華を極めていた頃には美しかっただろう絨毯や甲冑の置物。 視界が悪くて遠くまでは見渡せない、とても不気味な感じだ。 リリがブレス速度アスムアスペ…と丁寧に支援を掛けてくれる。 身体がふわっとした感じになる。 俺は意を決してペコに乗ってみることにした。 ペコが俺を乗せ立ち上がると、日常生活の視点とは少し違う感じで視界が開けて見えた。 右手に槍、左手にシールドを持ち手綱をしっかりと握る。 少し進むと、真紅の鎧ががちゃがちゃと音と立ててこちらへ向かって来る。 レイドリックの手には大きな剣、物凄い速度で俺へ向って剣を振りかざす。 俺はシールドを前に出してそれを受け止めて、無我夢中で槍を突き刺すと レイドリックはあっさりとがらがらと音を立てて崩れ去った。 執拗にたかってくるライドワードやレイドリックをどんどんなぎ倒して行く。 …俺TUEEEEEかもしれない。 リリはお姫様的支援なのかと思いきや、てきぱきとLAニューマ共闘を入れてくれる。 俺の傍からは離れないし、献身的で受けててとても気分の良い支援だった。 彼女に切りかかろうとする敵は真っ先に潰してみせた。 まさにプリたんは俺が守る!!状態だが俺は文字通り必死。 たまに徘徊している深遠の騎士もなんなく撃破、30分ほど歩き俺とリリは目的の場所についた。 銅像が3つ並ぶ祭壇のような場所、リリはそっと赤い花束を置いてロザリオを握りしめる。 瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。 「あの時、もっとわたしがしっかりしていれば…」 嗚咽のように呟くリリに、俺は声を掛けることができなかった。 できるのは、ただ時間が流れるのを待つことだけ。 静寂が辺りを包み込んだのも束の間…血の匂いがした。 勿論そんなのはリアルでも感じたこともない、感のようなものだ。 周囲を見渡すと、こちらに向かって来る大きな影があった。 人でもない、レイドリックでもジョーカーでも深遠でもない。 そいつの銀の鎧は錆付き、どす黒い血のような色が斑点のように付着している。 「リリ、ブラッディナイトだ…」 俺はもう一度槍を握りなおしてそう言うと、リリは珍しく取り乱しながらも ちゃんと支援を掛けなおしてくれた。 剣と言うよりナタのような獲物を容赦なく俺に振りかざしてくる血騎士。 何とか盾で受け止めたが物凄い衝撃が身体に伝わってきた。 幾度も槍で突いてもなかなか倒れない。 血騎士がふと攻撃の手を休めたのを見て、俺は渾身の一撃を突き刺す。 その瞬間、真下に魔方陣が光のように輝き、暗闇の中から赤い隕石が俺達の頭上に降り注いだ。 俺は咄嗟にペコから飛び降り、リリを守るように身体を覆い被せた。 身体中に強い雨が当たるような、ガンガンと振動が走る。 痛え。 振動が止み、顔を上げると血騎士が目の前でナタを振りかざしていた。 盾は間に合わない、避ければリリが… 「いやああああああああああああああああああああ!!」 リリが悲鳴を上げる。 俺は覚悟を決めて槍をありったけの力を込めてやつに突き刺した。 ナタは寸でのところで止まり、血騎士の巨体を槍が貫き どすんと大きな音を立ててその身体は地に伏した。 倒れたままのリリに手を差し伸べると、彼女は手を取り、ゆっくりと立ち上がった。 どうでもいいけど、スリットから見える太腿が色っぽ過ぎるぜ。 「危機一発だったな、怪我はないか」 「私は大丈夫だけどあんな無茶しないでよ!」 「姫を守るのが騎士の役目だぜ?」 「こんな時に冗談言わないでよ…」 何やらリリはお怒りのようだった。 ヒールをやたらとかけてくれた後、さっとポタを出して「さあ乗って」と急かすので 俺はそのまま従うしかなかった。 突然なんなんだ… ポタの先は偶然なのか、俺が目覚めたプロ西の花壇だった。 ちょっと気まずい雰囲気だったので、とりあえず謝る事にする。 「まあMSくらい大丈夫だったよな、変にかばってすまん」 「そうだよ、あれくらい大丈夫だよ…  前衛の人でも、今時そんなにプリをかばってくれる人、いないよ…」 リリはそう言って苦笑いしていた。 「一年前、全く同じことがあって…その時は気付いたら私は大聖堂にいて  一緒だった騎士はこの世界からいなくなってしまった。  また同じ過ちを繰り返したのかって、頭に血が上ってしまって…ごめんね」 あまり突っ込んでも楽しそうな話ではないし、詮索するのもどうか… 初対面というのをのぞいても、こういう時本当俺は不器用である。 「あまり気にするなよ、なかなかいい支援だったぜ。騎士ペア慣れてるみたいだな」 「あ、ありがとう…」 突然褒められたのがおかしかったのか、リリは顔があっと言う間に真っ赤になった。 意外と可愛いところあるんだな、ちょっと和んだ。 「まあまた機会があれば狩りに行こうぜ、その時までこの世界にいるのかも分からないが」 「それどういう意味??」 「さあな」 臨時→無言で狩り→事務的に清算→「お疲れ様でした」みたいなパターンだなと 内心苦笑いしながら俺は城門へと歩き始めると、慌ててリリが追いかけてきた。 「ちょっと待ってよ!また狩りに一緒に行くって約束して!」 懇願するようなリリの表情に俺はあっさり折れてしまった。 友達登録なんて頼まれた事もないし、したこともないけど… 「また行こうな」 俺は手を振ってプロンテラの中に入った。 首都で適当な宿を探して、そこで俺は一夜を過ごした。 寝て起きれば戻れるんだろうと思っていたが、目が覚めてもやっぱりROの世界だった。 朝食を取り、俺は早々に宿を出た。 やっぱ俺の行くところは一つしかねえな…BAP様が待ってるぜ。 プロンテラ城と砦を越え、長い橋を渡る。 その向こうに見えるのはいつもお世話になってるカプラさんと…天使HB金髪のハイプリ。 「遅いよアゼル、姫を待たせて失礼だと思わないの?」 「意味が分からないぜ」 「わたしめちゃくちゃ朝弱いのに必死に起きたんだから、少しは感謝してよね」 「…お前、まさかついてくるつもりなのか?」 「当たり前でしょ」 なぜか勝ち誇ったように語るリリ、何を言っても無駄そうだった。 やっぱり姫じゃねえか。 「仕方ねえなあ、転がっても知らないぞ。準備は?」 「ばっちり!」 「姫は普段歩かないんだろうし、ペコ乗るか?」 「そのネタ昨日も言ってたよね…  騎士以外の職がペコペコに乗るの、ミッドガルド騎士団では禁止されてるのに。いいの?」 「俺は無敵のソロ軍団所属だからいいんだよ」 「ちょっと後ろに乗ってみたいかも…ってだめだめ!違反は違反なんだから!」 照れながら顔を横に振るリリを見てたら、俺は何だか楽しくなってきた。 ソロじゃないのもいいかもな。 半分意地になってぼっちを続けてたのかもしれないな、俺… 「途中でへばっても森に着くまで休憩なしだぜ」 俺は笑いながらそう言って歩き始めると「そんな子供じゃない!」と言いながら リリが慌てて俺の後を追いかけてくる。 こっちの世界のが何か楽しそうだな。 リアル戻らなくてもいいかもと心から思った。 2007/10/19