今日も狩りは続く。 いつからか、俺はROの世界に迷い込んでいた。 その最初をどうにも思い出すことができないのだが、気が付けば 毎日狩りに出てモンスター達を倒している日々だった。 ペコにまたがり、来る日も来る日も剣を手にしていた。 ふと木陰から数匹、ハイオークが現れた。 が、俺の振るう大きな剣で奴らは無残にも倒れてしまう。 正直俺の敵ではない。 …しかし俺は毎日この狩場にやってきては延々とモンスター達を ひたすら倒し続けていた。 何の為に? …それは俺にも分からなかった。 何を隠そう、身体が勝手に動いているのだ。俺じゃない意思がこの身体を動かし、 そして毎日狩りへと導いてる。 冷静に考えると、俺…というか、こいつってBOTなんだよなぁ…という 結論にしか何回考えても辿り着かなかった。 だが俺はこんなキャラ作ってないし、そもそもBOTなんぞ使ったことがない。 どうせROの世界に来るなら、自分のキャラになって自由に遊びたかったなぁ…。 そんなことをふと思うたび、俺の身体は気合を入れてモンスター達を狩るのに 必死になる。俺の心情を察するかのように反応するが、行動はそれに伴っていなかった。 また、身体は勝手に動いているにも関わらず五感は完全に俺のものだった。 最初はそのギャップに気持ち悪さを覚えたが、いつの間にか慣れてしまった。 モンスター達をなぎ倒す感触も最初は恐怖すら覚えたが、これにすら 慣れてしまっていた。 俺はいつまで狩り続けるのだろうか? 俺は最後まで正気を保っていられるのだろうか? 今日も狩りは続く。 狩りを始めてどれくらいの期間が経っただろう? 相変わらずモンスター達を狩り続ける日々。 こう言ってしまうのも問題があるかもしれないが、なんとなくこの身体とある意味 シンクロしてきた気がする。 モンスター達を倒すたび、以前はなかったような高揚感が生まれてきた。 これはマズいことなんじゃないだろうか。 俺、どうなっちゃうんだろう? 今日も狩りは続く。 近くで冒険者達が休息を取っていたのだが、よりにもよって俺はそいつらに 斬り込んでいった。身体が勝手に動くのだから仕方が無いだろう? ボス狩りが終わったところだったのだろうか、その場所には相応しくないような 高レベルのPTだった。 構成はロードナイトにハイプリ、スナイパー。 最初は応戦されたが、スナイパーに一撃食らわせてやったらあわてて逃げやがった。 ハイプリもヒールを頑張っていたが、傷を治せてもゲームのようにすぐに 動けるようにはならないみたいだ。傷が治る代わりに体力が無くなる感じか。 俺の攻撃力が凄まじかったからとは言え、ナイトの俺から逃げるなんて笑ってしまう。 今日も狩りは続く。 なんとなく、最終目標が見えてきた気がする。 なんだろう?きっと俺はきっと強さを求めている。 最後のピースがもうすぐはまりそうな気がする。 それがはまったとき、俺の強さは完全なものとなるだろう。 今日も狩りは続く。 遠くの方から威圧的な気配が感じられる。 俺は勝手にその方向へ向かっていた。 ペコを急がせてそこに辿り着くと、そこにはハイオークの群れと、 ひときわ大きなオークが陣取っていた。 その装飾品からして、MVPボス、オークヒーローだ。 以前俺が斬り込んだPTと闘った後のせいか、身体には無数の傷が 刻まれていた。傷を癒し、報復にきたというところだろうか。 「ふん…返り討ちにしてやるぜ!」 その言葉は勝手に動く俺の身体から、俺の意思に合わせるように、 自然に発せられた。 取り巻きのハイオーク達は俺の剣でいともたやすくなぎ倒された。 問題はオークヒーローだった…が、不思議とその動きは遅く感じられた。 相手が弱いわけではないだろう。 俺が強すぎただけでもないだろう。 きっとそれは、最後の瞬間だったから。最後のピースがはまる瞬間だったから。 全てが俺に微笑みかけた瞬間だったから。 「バッシュ!!!!」 俺の気合の一撃と共にオークヒーローは崩れ落ちた。 それと同時に、俺は何とも言えない力に満ち溢れた。 「…ははは…、はーははははははははっはははははぁっはははあはーーー!!!!!」 力に任せ俺は絶叫した。 瞬間、俺の身体を眩しい光が包んだ。 オーラだ。頂点に登った者だけがまとうことのできる強さを示す輝き。 俺の目標はこれで達成されたのだ。 …いや、違う。 力なんてものは示してなんぼだ。 だがモンスター達ではその真価を見ることはできないだろう。弱すぎる。 俺はひたすらペコを走らせた。 俺の力を示すことのできる場所はないのか…!? 瞬間、紅いきらめきが俺を襲った。 ペコを操りそれを避けると、地面に炎の矢が幾本も撃ち付けられる。 辺りは丘に囲まれた少しくぼんだ地形になっていたが、 斜め前の丘の上でプロフェッサーが魔法の構えを取って立っていた。 ふん…俺と戦うってのか?…いいだろう!! ペコを走らせる。回り込み、岡の上に着くと数人の転生職のPTが陣取っていた。 俺はひるまない。ペコをトップスピードで走らせ、剣を構える。 奴らの初動は遅い! 俺の剣は最前衛にいたパラディンを襲った。 ガキィイイィイイイィン!!! 鈍い金属音と共にパラディンは弾き飛んだ。 直撃。しかし俺の腕にも然るべく反動が来る。 俺は舌打ちしながらもペコを操り第二撃に備える。 パラディンはもう戦闘不能として、残るはロードナイト二人とプロフェッサー、 あとはハイプリか。 またもトップスピードに乗る俺。次の狙いはロードナイト!! ガキイイィィイイインンっ!!! 切り付けると予想に反して鈍い金属音がした。 急ぎ剣の軌跡をみると、先ほどのパラディンが盾を構えてロードナイトを 守っていた。 !? おかしい!さっきの一撃を受けて、もう復活したのか!? 俺の思考が混乱しかけたとき、ガクンというふいの衝撃と共に 俺は地面に放り投げられた。 慌てて身を起こす。ペコの足に蜘蛛の糸のようなものが絡まっていた。 プロフェッサーの足止めスキルか! だが剣使いとしてはペコに乗っていなくてもその強さは発揮できる。 俺はまだ負ける気がしなかった。 ふん、生意気な…。 俺は剣を構え、斬り込む。 身体が軽い。こいつらの動きが手に取るように分かる。 ロードナイトの剣を受けながら確実に俺の剣をやつらに斬りつける。 しかし一旦は引くものの、すぐさま復帰してきてしまう。 回復魔法か! 視線を後ろに移すと、ハイプリが二人もいるではないか! 目標を変える。まずは茶髪のハイプリを狙う。 しかしここでパラディンがその道を遮る。 剣を構えるも、こいつには既に2回、まともに斬り付けている。 その反動が腕にまだ残っていることを考えると、 このパラディンばかりを相手にするのは得策ではない。 そうなると逆サイドのハイプリだ! 視線を移すとそのハイプリの近くにはプロフェッサーが構えていた。 「スパイダーウェブ!!」 詠唱と共に地面にはりめぐる蜘蛛の糸。 だがそんなもの、踏まなきゃいいだけの話!! ハイプリに斬りかかるが、続いた次の魔法が俺から視界を奪った。 「ファイアーウォール!!」 蜘蛛の糸を巻き込んで大きな炎の壁をそびえ立った。 「ボルケーノ!!」 火場を展開する魔法がその壁をより大きなものにする。 とんだ目くらましだ! どこからも攻められない、八方ふさがりだ! そう思い一歩下がるや、ロードナイトが二人、距離を詰めていた。 剣を上段に振りかぶっている! だがこの距離、間合いを外せば何のことはない、かすり傷程度だ。 俺は思い切り地面を切り後方へ飛ぶ。 「レックスエーテルナ!!」 「 レックスエーテルナ!!」 剣が俺をかする瞬間、微妙なズレで詠唱が響いた。 距離を置いた俺の右腕、左肩からかすっただけとは到底思えない血が 噴出す。 おいおい、なんて連携だっ!! こいつはまずい、一旦退くべきだ!!俺はそう身体に命令する。 しかしここにきて俺の身体はその意思に従わなかった。 最後の力を振り絞り、向かった先は最初に襲いかかったハイプリ。 運が良い事にパラディンが少し距離を開けている。 最低一人、道連れだ!!…俺の身体はきっとそう言っているのだろう。 俺は剣を上段に振りかぶった。 完全に捕らえた!問題のパラディンは間に合わない!! 俺は剣を叩きつける──────!! 「主役は最後に登場なんじゃないかな?かな?」 ふいに、そんなふざけた台詞が聞こえた。 同時に剣を持つ俺の腕に重い衝撃が走る。 「!?」 身を引く。俺の視界に、俺の剣を素手で受け止めるチャンピオンがいた。 彼女はにっこり微笑みながらこう言った。 「阿修羅─────」 あとは聞こえなかったよ、ママン。 気付くとPCの前に座っていた。どうやら眠っていたらしい。 PCの画面はROではない、他のゲームの画面を映している。 「あれ…今更ROの夢…?」 俺はボーっとしながら少し考える。 「ああ、これはきっと、アレを最後まで書けってメッセージなのかな…?」 俺は頭を掻きながらテキストエディタを開いた。 「最近書いてなかったから忘れちゃったなぁ…。」 なおも俺の独り言は続く。 「えーっと…、ニーナが特務の仕事行くんだっけ……うぅん?」 皆々様、よろしければもう少しだけ、お付き合い下さいませ。 -------------------- 2007/11/12 H.N