「─────覇凰拳!!!」 空気が唸る轟音と共に、チャンピオンであるレイナの可愛い声が響いた。 まともにその技を食らったターゲットの騎士は20メートルの距離を舞い、 そして地面に叩きつけられた。 「…おいおい、もうちょっと手加減しろよ…死んだらどうするんだ。」 仕方なさそうにその光景を眺める特務リーダーのアラン。 それを尻目に、パラディンのマシューとプロフェッサーのアキは 倒れた騎士のもとに駆け寄り、生死を確認していた。 「まだ息はありますわー!」 しばらくするとアキは手をぶんぶんと振り、アランにそう告げた。 「よし、持ってきた鎖で縛ってやれ!そのまま連れて戻るからしっかりとな!」 アランはアキとマシューにそんな指示を出していた。 「クリスもお疲れ様〜♪」 ぴょんぴょんとレイナが飛び跳ねながら俺の元にやってきた。 「お疲れ様です、いやぁすごい技でしたね!」 先の阿修羅覇凰拳、遠くにいた自分さえも巻き込まれそうな迫力。 そして想像以上の威力。まさに一撃必殺に相応しい技だった。 「ん〜、まだまだ…かな?日々精進あるのみよ!」 ふんっと力を入れながら微笑むレイナ。純粋に上を目指すその姿勢は 何か眩しいものすら感じてしまう。 「クリスも支援の腕、かなり取り戻してきたんじゃないかな?」 レイナは上目遣いで俺を見上げた。 「そうですか?ありがとうございます〜♪」 日々ケイトにうるさく指導されている身としては、お世辞であっても 褒められればとても嬉しかった。 「…これくらい出来て当然なんだからね?」 「わっ!?」 後ろから突然声を掛けられ思わずびっくりする俺。 「す、すいません…でもケイトさんのおかげで何とか初任務こなせました!」 俺は営業スマイルでハイプリのケイトにお礼を言う。 途端、彼女の顔は見る見る赤くなった。 「ふ、ふん!これからも足ひっぱらないように気を付けなさい!」 そう言いながらロードナイトのリーヤと距離を置かれてしまった。 あの二人とはどうにもかみ合うことができないようだ。 「よーし、片付けてプロンテラに戻るぞー!!」 アランの声が響く。ケイトがワープポータルを開き、プロンテラに帰還する───。 特務のメンバーと合流して約一ヶ月が経つ。 このチームの任務とは、簡単に言えば大聖堂指定の人物の確保。 ただ、どうもその"指定"というのが表沙汰にできないような内容らしく、 特務とは影の部隊というか、いわゆる汚れ役的な部署のようだった。 今回ターゲットにされた騎士だって、ゲームではどう考えてもBOTの 位置付けにあるだろう。 BOTと言えばユキさん達と戦ったローグを思い出させるが、今回の騎士も あれに似た気迫が感じられた。 ローグとの戦いの後、セツナは「国王も教会も騎士団も、どこも動かない」という ようなことを言っていたが、"BOTを狩る"というのが"特務"の仕事の一つであるならば、 この問題に関して教会では秘密裏に動いていることになる。 俺の力が少なからずユキさん達の役に立っているだろうことを考えると 汚れ役的な仕事とは言え、少しは嬉しくもあるものだ。 騎士の身柄を大聖堂の牢獄に確保した後、いつか通された大聖堂の一室に メンバー全員が集められた。 しばらくするとビスカス神父が部屋に入ってきた。 「お疲れ様。少々深い怪我を負わせてしまったようだが、よくやったな。」 ビスカス神父は嬉しそうだ。 「ありがとうございます。」 礼儀正しすぎで返すのはリーダーのアラン。 「しかし…最近我らと目的を同じにしている輩がいるようだが…少し気になるな。」 ビスカス神父のその言葉に、アランは息を呑んだ。 「はっ…!どうにも情報が得られず、申し訳ありません…。」 他のメンバーを尻目に妙にかしこまるアラン。 「まぁ良い。今日はもうゆっくり休んでくれ。次のターゲットは追って連絡する。」 ビスカス神父はそう言い残し、部屋を出て行った。 「…アランさんって妙にかしこまりますよね?」 俺は笑いを堪えて言った。 「ふふふ、アランは権力に弱いもんね〜♪」 いたずらっぽくレイナ。 「いやいや、ビスカス神父は凄い人なんだぞ…色々と。」 頭を掻きながら誤魔化すように言うアランはどこかばつが悪そうだった。 「おい、今日はもう解散だろう?俺達帰るぜ?」 リーヤがケイトを引き連れてアランに言った。 「おう、お疲れ。ゆっくり休めよ!」 アランがそう言うとリーヤとケイトは部屋を出て行った。 「…う〜ん、あの二人と未だに打ち解けられないんですが…。」 俺はため息まじりに、誰にともなく言う。 「あの二人はちょっとね〜、真面目すぎるんだよね〜。」 レイナもまた誰にともなく言う。 「真面目…ですか?」 どこをどう取って真面目になるのか分からず、俺はおうむ返しのように口に出す。 真面目だから打ち解けられない? 「…っと…、まぁほら、この仕事あんまり好きじゃない…っていうのかな?」 レイナはアランに同意を求める。 「まぁ…そうとも取れる…かな。…っておいおい、俺に何言わせるんだよ…。」 立場的なものもあるだろう、アランはなんともはっきりしない。 「あのー、私も帰って良いです?」 アキが聞いてきた。 「お疲れ様〜、ゆっくり休んでね〜♪」 レイナの返事に、アキは頭を下げながら部屋を出て行った。 「あ、僕も帰っていいかな…?」 マシューも聞いてきた。 「お疲れ様〜、まだいたんだw」 レイナの返事。 「う、それはひどい!あ、クリス、この後 夕飯でも行かない?」 マシューはめげない! 「行かないからさっさとお帰りww」 俺の返事…ではなく、またもやレイナの返事。それを聞いてマシューは肩を落として 部屋から出て行ってしまった。 「あ、あの…レイナさんってマシューさんにきついですよね…^^;」 どうにもそうとしか受け取れない。 「そうかな?」 純粋無垢な笑みを浮かべて俺を見返るレイナ。 「あー、もしかしたらレイナさんてマシューさんのこと好きなんで」 「それはないから。」 恋愛トークに持っていこうとしたがそれは叶わず。 三週間ぶりにアルデバランの自分の部屋に戻った頃には、陽は完全に落ちていた。 ドアの隙間に封筒が3通ほど挟まっており、それはスーさんからの手紙だった。 色々調べてもらっているが、毎週その進み具合を手紙にしてくれているのだ。 なんとマメな娘だろう。 手紙に目を通すが、特に何も分かっていないようだ。 申し訳ない気持ちを胸に、俺は返事の手紙をしたためる。 手紙を書き終わり部屋をざっと見回すと、ステラが写る写真立てが目に入った。 この一ヶ月、折を見てステラのことをアキに聞いてはみたものの、 何か誤魔化され続けてきた気がする。 そうする必要が彼女にあるのか、それとも…? 何はともあれ、初任務はこなすことはできた。 しかしニーナを助けるという観点から見ればこの一ヶ月、何も進んでいなかった。 "タイムリミット"という言葉が脳裏をよぎる。 そこで思考が一旦止まってしまう。 「ん…んんん、とりあえず手紙、フィリアに預けてこようかな…。」 頭をぶんぶんと振り、俺は部屋を出て行った。 -------------------- 2007/11/13 H.N