オーラロードの期間はわずか2週間。我ながらの廃狩りでいい加減ニブルのMOBは見飽き たと言うか、もう見たくない。  身分証の経験値は綺麗に99.9%を指していて、あと100kもしないでレベルは上がる。  上げようと思えばすぐだが、オレには少々考え事があった。それもあって、まだ時間はある が、今日はそのままプロンテラに戻ることにした。 「しかし、理解はしていたがおっそろしいほど青ジェム使ったなあ…」  カプラの倉庫に転送し、そこにぎっちりあったはずの青ジェムの箱は綺麗になくなっている。 そのかわり倉庫に詰め込まれたのは、秘境の村の収集品。  フードだ、マフラーだ、ボロマントだとかさ張る装備品もぎっちり詰め込まれていて、倉庫 の中は混沌と化していた。因みにフードは持ち帰らずに狩場に放置することしばしあり、今入 っているものは、帰り間際に拾ったもので、実はそれほど量は無かったりする。  丁寧に全部持ち帰ったら、多分1日で倉庫はパンクする。つまりそれほどフードは落ちたの だ。 「さて、こいつをルフェウスに売ってもらうとして…。  しかし、よく入ったよなあ…」  カードケースにはニブルで拾ったカードもある。正直使うのにも売るのにも困るようなその カードは、倉庫を圧迫するのに充分でどう処分するか悩む代物ばかりだ。  とりあえず、ルフェウスにはWISで知らせ、収集品を売ってもらうことにする。  話はすぐに通じ、しばらく後カプラ前に到着したとルフェウスからの返信があった。 「予想はしていたけど、オーラロードの収集品処分って凄い量だね」  カートにぎっちりと積まれた、鎖や糸巻きなどなど重量は平気で超えて、何度かNPC商人 との間を往復する事になった。 「で、これで最後っと」  数度の往復でメモ帳に売った分の金額を書き、確認の意味を込めてかその金額を俺に見せる。 1ケタ台の端数までそれは記入されていた。 「うわあ…。Mレアはないとは言え、凄い金額だな」 「これでも、取ってきた装備品は含んでないよ。  それも入れたら一財産じゃないか。  って、ボロマントってどうするの?売るの?開けるの?それとも露店?」 「……あー、穴あけても売れるものじゃないだろ。  うーん、そうだなあ。そのままNPC売りで良いかな」 「了解。じゃあもう一回カプラ往復だね」  再び同じ道を通り、ボロマントを引き出す。マフラー、フードはいつかエルニウムが溜まっ た時に過剰に挑戦してみよう。  やはり、ボロマントのOC売値も結構な金額で、お財布キャラじゃないキャラでこれだけの 金額を手に入れたのは初めてかもしれない。 「あ、そうだ。  オレ装備できないし、今までの手間賃とか色々あるからこれはやるよ。  お前に取っちゃはした金かもしれないけど」  そう言って、ボロマントを取った時に一緒に引き出したマントを出す。運良くスロット付に あたったのが多いので、これ全部露店で売れればそれなりの金額になると思う。 「了解。じゃあ、これは貰っとくよ」  あっさりとマントを受け取り、その足で自分の倉庫へとカプラで跳ぶ。  …一度で良いが、ルフェウスの倉庫の中ってどうなっているのか見て見たいものである。  さて、にわかに大金を手に入れたオレだが、買おうと思っていたものは意外と多いので、こ れで足りるかどうかはなはだ不安ではあるが…。足りなければ倉庫の中の溜めていたものを崩 せば良いかと考える。 「ただいま、と」 「あ、悪いんだけどさ露店巡りするのちょいと付き合ってくれないか?  最近狩りばっかりで、ここのところの相場がわからないんだよ」 「…構わないけど、何買うの?」 「そうだなあ…」  その言葉にオレはいくつかの装備品をルフェウスに伝えた。 「お帰りなさいー」  買い物を済ませ、家にたどり着けばそこには既にフィーナの姿があった。 「あれ?もう戻っていたのか?」 「今日は図書館で調べ物でしたから。狩りには行ってないんですよ」 「…そうだったんだ」 「凄い荷物ですね。買い物行ってたんですか?」  オレの両手とルフェウスに持ってもらった袋をフィーナが指摘する。 「あー。ちょっと面白いのとか色々あったからなあ。つい衝動買いしちゃったわけだ」 「…衝動買いの範疇超えてると思うけどね」  横からちゃちゃを入れるルフェウスにオレは黙ってろよと目で訴え、袋の中から1枚のカー ドを取り出した。 「これお土産な。なんか相場無視かって言うくらいの安値で売ってたから」 「え…?」  フィーナは戸惑いながらもカードを受け取る。オークウォーリア、通称兄貴カードだ。 「三減揃えるのって結構厳しいだろ。対動物ってのは色々役に立つと思うし…  適当なガードにでも挿して……」 「だらほーーーっ!!!」(注:『どあほ』) 「のごっ!?」  いきなりルフェウスからのカートレボリューション…いや、バッグレボリューションが炸裂 する。スタン効果は無いだろうけど目の前に星が飛び散ったように見えた。  直後オレはルフェウスに襟首をつかまれ、部屋の奥に連れ去られてしまった。  取り残されたフィーナはただ呆然とオレ達の行動を見守るばかり……いや、動きたくても足 が竦んでしまったに違いない。 「な、なにすんだよ!いきなり!」  パタンと閉められたキッチンの扉。そこでようやく解放されたオレはルフェウスに食って掛 かる。……Str1のクセに、なんでやすやすと引き摺れるのかそこんところはあえて考えな いでおく。 「それはこっちの台詞だよ!  なに?女の子にお土産がよりにもよってオークウォーリア!?  僕はてっきり自分用に使うものかと思ったよ!」  仁王立ちをして鬼の形相とまでは行かないが、ルフェウスの顔は気迫が込められている。 「自分用は既に持ってるっての!!  フィーナはまだ三減買ってないって言ってたじゃないか!」 「そうじゃなくて!  もっと可愛げのある奴プレゼントしろって言ってんの!  例えば、ツインリボンとか、月桂樹の冠とかあるでしょ、色々!!」 「実用性求めて何か悪いことでもあるのかよ!?」  その言葉にルフェウスは深い深いため息を吐き、じとっとオレを見た。 「実用性があるなら『あれ』でもあげちゃうよって聞こえるよ。  鈍感通り越して無感かと疑うね」  ……流石に『あれ』をプレゼントなど出来ないけれども、事あるごとに鈍いだの何だの言わ れて、流石にオレも口ごもる。 「やば気だなあとか重症じゃないかなあと思ってたけどさ。  ……あれ?…いや。  ………もしかして、家庭環境の所為……?」  ルフェウスの言葉が徐々に小さくなる。かろうじて聞き取れた家庭環境って……何さ? 「……悪いけど、家族構成教えてもらって……いい?」 「……なんで?まあ、別に構わないけど。  えっと、じいさんと母さんと姉さん3人、妹1人だけど?」 「な、なんだってっ!?」  その言葉に驚愕の顔を作るルフェウス。いや、わからん。意味がわからんよ、お前。  そのとたん今まで怒りと呆れの顔を作っていたルフェウスは、なんと言うか同情に満ちたも のとなり、 「………、ごめん、リディック。  僕が悪かった」  謝られた。いや、ほんとに訳判らないのですけどーーー?  夜更けて外から聞こえる声は冒険者だけのものとなる。  暗いのにあのプレイヤー達には昼夜は存在しないというのが不思議で仕方が無い。  ズレと違和感を感じながら約9ヶ月。この生活にも慣れきってしまった自分がいて、もし戻 れても現実の生活にちゃんと対応できるかどうか疑問が残る。  オレが転生しても何も変わらないとは思うが、やはり転生前夜ともなれば若干の不安も押し 寄せた。姐さんが『転生しても変わらなかった』と言っていたが、心の中でもしかしたら、と かそんな希望も持ってしまう。  感傷ふけっててもしょうがないか。明日は忙しいんだし、とっとと寝ることにしようと振り 返るとそこに置かれた装備品が目に入る。まだ使うには早いが、これから世話になる装備品は 新品のように光沢があった。  転生職は実転生時の3倍の経験値を要する。フィーナに追いつくための装備品。立掛けたそ れに手を伸ばし、オレはそのまま窓の外を見た。  翌日、フィーナは今日はソウルリンカー初狩りに行って来ますとジュノーに飛んだ。変わら ずにラフレシアマップに行くつもりらしい。  ルフェウスが用意した装備品は全部返し、身に纏っていたのは新たに買った装備品。強くな ったわけではなく逆に弱い装備でフィーナはテコン時代に通っていた狩場に向かった。  オレはと言えば、まだ若干残っていた青ジェムを鞄に入れてニブルではなくGHのカタコン ベに向かった。幸い現在の転送サービスはジョンダが勝っていてGH直行便があったからすぐ に狩場にたどり着く。 「さて、とっとと上げちまおうかな」  修道院を抜け、カタコンベに足を踏み入れる。ひんやりとした空気が肌をなぜた。  ずるずると何かを引きずる音。秘境の村とは違う異質な空気に、オレは辺りを伺った。 「向こうはお化け、こっちはゾンビ。  似たようなもんかと思ったけど、結構違うもんなんだな」  同じものと言えばじめっとした空気くらいで、感じる臭いも全然違う。閉鎖された空間と開 放された空間の違いは実に大きかった。  自己支援を掛け、適当に索敵して。MOBの数は明らかに少ないので引っ張ってME打つよ りも単体しかいない場合はヒールで倒していく。MOB塊にはMEを放ち、イビルドルイドに は時折TUを使う。ハンターフライは無視で、と行きたかったがもしかしてカード出るかも? とHLで潰しておく。  オールMEと言うわけではないので、青ジェムの減りは少なかったが経験値も大量に入って くるわけではない。 「そろそろ、上がるかなっと!」  ゾンビプリズナーとレイス、グールに向かってMEを使い、レイスがけたたましい笑い声を 上げて崩れ去った時、ふわりと天使が舞い降りた。2週間ぶりのレベルアップ。そして同時に 足元から光の渦が舞い上がった。