あれからすぐ、検品の済んだ貨物に紛れ込んで飛行船に乗ったんだ。 うまく国際便に紛れ込めたから、後は伊豆での荷受までにどう切り抜けるか策を練ってたんだが・・・ どうやら俺が紛れ込んだのはリョジエンの荷物の近くの荷物らしくてな。 やっぱりと言うか何と言うか、例によって争う音がしたんで梱包の隙間から覗いてた。 そしたら羊の子を連れた製薬ぽいケミ子がヤクザ2人に追い詰められてんのよ。 俺はどうするか考えた。このまま見過ごして上陸の対策を考えるか、それとも・・・ 考えた末に、俺は颯爽と参上した。 まず梱包の中からファイアボルトを発射してヤクザの横面に叩き込み、そのまま+7卒論の角で猛然と殴りかかる俺。 最近武装した連中に追われまくりだったから、なんか感覚マヒしちまって妙な自信があったんだ。 それにほら、女の子が見てるし。もう怖いものナシだぜヒャッホゥ。 今までの逃走劇でだいぶ戦い方は体に馴染んでたし、彼女のポーションピッチャーもあって難なくそいつらは撃退できた。 捨て台詞を吐いて逃げていくヤクザどもを見送り、努めてサワヤカな笑顔で俺は彼女を振り返った。 「危なかったな。ケガはn・・・」 「お・・・お尻から魔法・・・!あなたまさか空港の張り紙の指名手配犯!?」 ちょwwwwwwおまwwwwwwwww そこ手配書に書かれてたのかよwwww指名手配の衝撃でそこまで見てねーよwwwww くそ、この娘のカートに隠れて入国しようなんて打算アリアリで助けに入った罰って奴か!? ケミ子の声に騒然とする飛行船内。素早く警備員が駆けつけてくる。向けられる剣、包囲される俺。 ち・・・ちくしょう・・・ちくしょおおおおーーーー!!!(AA略 「てめぇら、動くんじゃねぇ!!一歩でも動いたらこの女の命はねぇぞ畜生おおおおおお!!!」 あああああやばいやばいやばい!それはやばいだろ俺!咄嗟に何やっちまってんの!? 警備隊とドンパチ、密航、果ては人質取ってハイジャックか!?犯罪者街道まっしぐらじゃねぇか! くそ、だがもう後には引けねぇ。恐怖に縮み上がるケミ子の喉にマインの刃を当てて道を空けろと怒鳴り散らす。 死んでキャラチェンならまだいいさ。だが生体送りだけは。この世界で生体兵器になるのも怨霊になるのも真っ平だ。 「こ殺さないで・・・殺さないで・・・っ」 ケミ子は身を硬くして震えていた。刃を突きつけてる俺の手も震えていた。 後から後から噴き出してくる脂汗が目に入りそうで不安だった。俺の顔はきっと真っ赤か真っ青だったろう。 震える手が、汗にぬめる手が、刃をぴくりと動かすたびに腕の中のケミ子は引き攣った声をあげる。 隙あらば曲者に剣を突き込んでやろうと、道を空けながら目を光らせる警備員。 その隙を見せまいと、目を血走らせて警戒しながらケミ子を引きずって少しずつ進む俺。 いっその事、叫び散らして走り出してしまいたい程の緊張を、かろうじて恐怖が支えていた。 そんな息が止まるような均衡を破ったのは―― 「俺様の船をハイジャックしようとはいい度胸だ!地獄に堕ちて思い知れ!!」 止まる時間。制止する乗組員をばさりと払って吹っ飛ばし、黒く長くバカでかい銃口がこちらを向く。 真っ白に映える外套に立派な角。あいつだ。間違いない。ちょ、待て、まさかここであの銃をを撃―― 「食らえぇぇぇええい!!!」 爆音は、聞こえなかった。ただ視界が真っ白になった。 あの野郎、人質抱えた相手に、しかも客室内で、エクソダスジョーカーぶっ放しやがった。 ありえねぇ―― 最後に目に映った、雲の浮かぶ青い空にぽつりと言葉を漏らした。 視界の中にケミ子の姿はなかった。あの娘、無事だろうな。無事でいてくれ、畜生。畜生。 その後は覚えていない。目が覚めたら、俺はここに流れ着いていた。 今にも沈みそうな不気味な難破船でな。火を起こして暖を取ろうにも材木が湿気っててまるでダメだ。 寒くて死にそうだったが、幸い南の海域らしく昼間はクソ暑かった。何とか服も乾いたよ。 だが夜は不気味過ぎて生きた心地がしねぇ。夜の海は本当の闇だ。何もかも呑み込むような闇だ。 とにかく、俺は万一船が沈むようなことがある前にここを脱出したい。 幸いここの甲板にはククレがいたんで、化けエサ獲ってなんとか食いつなぐことはできた。 あと少し遠くに島が見える。船も行き来してるようだが奴らこっちには気づいてくれない。 泳いで行くのにも少し遠い。ちょっとした小船でもあれば何とかなるんだろうが・・・ ちなみに船の奥にはまだ入ってない。何が居るか分からんからな。だが、降りられそうではある。 ここから、どうすりゃいい。希望はまだあるが、体力も精神力もそろそろ限界にきてる。 考えても考えがまとまらねぇ。どうすりゃいい。どうすりゃいいんだ。