怒声が聞こえた。  テロでもないのに、フェイヨンの洞窟からモンスターがあふれ出たと言うのだ。 「何のイベントを開催しているのだ?」  ギルドで借りていた家の窓から身を乗り出し外をうかがう。普段つける事の無い望遠鏡を目 にあてがい状況を確認すると弓手村から赤い色が見えた。火の手が上がっているのか。 「……マスター、どう動く?」  同室に居たギルドメンバーが状況を確認している私の背後から問いかけてきた。 「うむ。放置するわけにも行かないだろう、我々も一応冒険者だからな。  自己防衛のできる者は私に続け。それ以外の者は民間の避難を手伝え。  フェイヨンのモンスターはそれほど高いレベルではないとは言え、相手は不死者が多い。恐 ろしいと感じるのならばここに残るよう伝えろ。  残る事は恥ではない」 「判りました」  後ろで控えているギルドメンバーに指示を与え、私は銀の矢筒と罠を背負い外に出る。  思ったとおり人は戦う力の持たない人は逃げ惑っている。  何人かは私の後を付いてくる。 「いいか、己の身は己で守れ。数が多い白兵戦はフォロー仕切れぬ場合が多い。  深追いはするな、自分を驕るな」  数人のギルドメンバーに声を掛ければ、彼らは神妙な顔つきで頷いた。誰しもがこの世界の 辛さを知っている者たちばかりだ。 「無事に戻れ。それだけだ」  ピーと口笛を鳴らせばファルコンが私の元に飛んでくる。 「プリーストは怪我人の介護を。状況はギルドチャットにて報告を。無理はするな」  それだけ伝えると私は喧騒の中心に向かって走り出した。  援軍要請が出ているのだろう。所々から冒険者が姿を現す。 「…これならば鎮圧には時間は掛からないな」  見ればオーラを噴いている冒険者もおり、始まったイベントを楽しみたいのか多種多様な職 が目に入る。  弓手村へ続く門は閉まっており、冒険者がその場に集まってから状況を見て解放するようだ った。  やや高い位置からその状況を確認している私の目に、ソルジャースケルトンやムナック達が 門から外に出ようと門を押す様子が見て取れた。  これでは、開けようがないな。  通常では弓手村に向かうのはあの門一つだけだが、森に囲まれたフェイヨンの地形状、裏手 を回ればそのルート以外の道も見つけることが出来る。とは言ってもバグ使用という事になる が。 「仕方あるまい」  私は北の森に向かって茂みを掻き分けていった。  このルートにもちらほらとモンスターが現われる。数が多くないので1匹ずつ射倒して先に 進み、ぐるっと回れば先ほどの門の前にたどり着く。 「クレイモアトラップ!」  捲き込み倍加。凄まじい轟音と共にモンスターは一掃する。HPの低く弱点の多いモンスタ ーたちだ。クレイモアの一撃で倒すのも容易。  門の見張りをしている兵士に合図を送ると、門は開放されそこから溢れるように冒険者が殺 到した。 「血気盛んなのはうらやましい限りだ」  その光景を眺め私はポツリと呟いた。  りーんりーんりーん…  鈴の音が聞こえる。それに交えて絶叫のような、ときの声のようなそんな声も聞こえた。た だしその声は一つ。 「馬鹿者か、このような乱戦時に目立つような声を上げてからに」  自分の攻撃スタイルは基本的に各個撃破。罠もそれなりに持っては来ているが、罠狩りをメ インとすると肝心な時に罠が無いという事態にも引き起こすので、攻撃の要は弓矢となる。  弓手村の状況は惨々たるものだった。辺りに転がっているのは死体ばかり。それもモンスタ ーのものなのか、この世界の人間達の物なのか判断はつかない。  酷い状況に眉をひそめあふれ出たというフェイヨンダンジョンに目を向ける。  その方向にキャットナインテイルの姿とそれに対峙するブラックスミスの姿を目に留める。  ラウドボイス…なのか?あの声は。  しかし、キャットナインテイルやその取り巻きのジェネラルスケルトン相手にするには厳し い戦況だ。  一撃は重くとも回復剤を多量に使っているようにも見える。  他の冒険者達も手出しはしているがファーストアタックという状況ではあのBSが矢面に立 っているのと同様だ。  私はその場に駆け寄り、BSと対峙しているモンスターめがけてフラッシャーを打ち出した。 少しでもターゲットが外れれば、矢面にたっているBSの負担も減るだろう。  青痣、血みどろ。よくもそれで立っていられるものだ。 「大丈夫か?」  と声を掛ければ、BSはこちらを振り向く。バーサークポーションの効果の所為か、冷静さ の欠いた鬼気迫る顔だ。 「…おう」 「ん?お前、こちらに紛れ込んだ者か?」 「……なんでお前さん、それ知って」 「目の色が違う。  気をつけろ。バーサークポーションで恐怖を克服しても狂気は克服できん。  自制を保たねば、滅ぶのは己の身だぞ?」  BSは怪訝な表情をこちらに見せる。そんな折、ギルドチャットが耳に飛び込んだ。 『マスター!フェイヨンの方はどうにかなってますけど、弓手村やばいって聞いてさー。  プリ、そっちに向かった方が良いよね?EMCあるー?』 「馬鹿者!!Gvギルドでない我々がEMCなど取っているか!!」  ………。 「…失礼。誤爆した」  胡散臭げな顔をこちらに見せるBSに私は小さく咳払いをし、同じ言葉をギルドチャットに 投げかける。 『門は開いているが、レベルの高いプリーストのみだ。状況は酷い。覚悟しろ』  それを伝え、私はBSに向かって、では、と手を挙げ洞窟の方へと足を進ませた。 「あ、マスター。罠ヨロ」 「貴様はっ!!アインティペインメントの無駄使いをするなと言っただろうがっ!!!」  目の前で大量のモンスターを抱えているクルセイダーに向かって、私は怒りのクレイモアト ラップをギルドメンバーであるクルセイダーに向け放った。 ------------------------------------------------------------------------------------ 117:先にグレンさん勝手に出してしまって申し訳ありません。   ついつい楽しそうだったので、うっかりケルビム姐さん視点のフェイヨン攻防戦をSSと   して書いて見ました。続きも余裕があったら書いてみようかと思ってます。   そして先に謝っておきます。もし、他の方が出る事になったら、生暖かい目で見てやって  くださると幸いです。   因みに本編(?)も遅れないよう書いてますので、続きはもう少々お待ちくださいませ。