再誕 - Ragnarok Online - --- (2) --- 「ふう、なんとか片付いたね」 背後で声がする。 振り返るとそこには多少・・・胸元が開いているが聖職者然とした男がいた。 明るい茶髪に知性を灯した瞳。 手にはおそらく聖書だろう、分厚い本が握られている。 露出した胸元からは聖職者の証である十字架が下げられている。 「とりあえず減ったHPを回復しないとね、【ヒール】」 男が僕に向けて手を翳(かざ)し魔法を唱える。 僕の体が一瞬だけ光の帯に包まれた。 「ありがとうナギさん」 男---ナギは「これが僕の仕事だからね」とちょっとはにかんで笑う。 だが彼の仕事は回復だけではない、彼はこのPTの司令塔の様な存在だ。 戦闘中は常に全体が見える場所に居て的確な指示を出している。 仲間も余程彼を信頼しているのか、無条件に支持に従う。 結果、これまで何度も危ない場面を切り抜ける事が出来ている。 ナギに礼を言うと僕は首から提げているドックタグ型モニターを確認する。 モニターには僕のキャラクター名の下にHPとSPを意味する2つのバーが表示されている。 HPを意味する赤いバーは今のヒールでMAX値まで戻っている、しかしSPを意味する青いバーは既に3/4は黒くなっている。 「すいませんちょっと休憩しませんか?ちょっとSPがキツ目で」 「ん?そうだねじゃあちょっと休憩しよっか。ピロさん後衛の二人を呼んできて」 ピロさんと呼ばれたローグ---ピロシキは「あいよー」と頷いたが 「おーい!しそー!Jさーん!休憩だってよー!」 と、後方から近づいてきている二人組に言うとそのまま腰を下す。 まぁ後続組もすぐそこまで近づいて来ていたので、わざわざ迎えに行かなくてもそれで事足りるのだろうと彼なりに判断したんだろう。 サバサバした性格の彼らしいと言えば彼らしい、しかしそれが不快には感じないから不思議だ。 戦闘中でも「やばい!」と思う時にはどんなに離れた場所で戦っていても必ずと言って良いほど彼の助けの手が入る。 実はサバサバしている様で一番仲間思いなんじゃないかと密かに僕は思っていた。 「でもやっぱ画面越しと違って実際にここに来るとコエーな。」 「そうだねー、溜り場の地下にこんなダンジョンがあったなんて今思うと凄いね。」 二人は以前ゲフェンを中心にROをプレイしていたらしい。 僕は二人の話を聞きながら周囲を見回した。 手に持っている松明型の光源(実際に炎が出ている訳では無くトーチ型のLEDライトの周囲に炎の立体映像が投影されている)の範囲外は何処までも続いているかの様な暗闇に覆われている。 時々水滴が落ちる音が聞こえ、それに混じって何処からか馬の嘶(いなな)きが聞こえる。 肌にひんやりとする感触はここが幻覚では無く実際の洞窟である事を意味していた。 そう、今僕たち5人はゲフェンダンジョンに来ている。