今さっき心の中の悪しきものを浄化してきた所を墨汁ぶっ掛けて真っ黒にされた気分だ。 神秘的なミサのお陰で今朝見た光景を忘れかけたときに当人が現れ しかもご丁寧に説明まで付けてくれた。あははは、道理でルーシエさんを見なかったと。 アナタのお隣で寝てらしたんですね。他女性陣(?)もご一緒に。 「そ、そうなんだ・・・あは、アハハハハ・・・」 乾いた笑いしか出てこない。心なしか汗も出ているようだ。 マズいな、一刻もここから立ち去りたい。鞄一つで浪漫非行に旅立ちたい。 そのためには宿から荷物を取ってこなくてはならないな。 「じゃ、じゃあ俺は宿n」 「俺これから炭鉱行くんだけど、一緒に来ねぇか?」 な、なんだって――!? この流れで、このタイミングで誘いますか。 俺の顔色が一層悪くなったであろうが、グレンさんは気にせず話を続けた。 「いやさ、ここに来てから所持金の減りが激しいんだ。  フェイの一件でも大分使っちまったしな。だから炭鉱で一稼ぎしないか?」 「や、でも、俺荷物を宿に置いてきちゃったし、ねぇ」 「ふむ。・・・ま、でも武器は手元にあるし、回復はヒールで十分だろ?  このまま行こうぜ」 若干、宿に戻りたくない気持ちもあるようだ。心中サッスルヨ。 グレンさんはさっさと荷物をまとめると、カプラに転送サービスの申込をした。 「行くのは二人な」 「畏まりました」 二つ返事で承諾されてしまった。あああ。 なんだかよく訳の分からない内に事に巻き込まれる場合が多いような・・・。 そんなことを思いながら、俺はカプラの出したポータルで飛ばされて行くのだった。 ミョルニール炭鉱。 ゲームでは一時主な狩場として通っていたけど最近もろもろの事情でご無沙汰だったな。 ・・・こうして生身で来るのは初めてだけど。 錆びたレールを辿ってある程度奥まで進む。 途中襲ってくるドレインリアーやスケルワーカーを適当に退けながら歩き、 やや白く霧がかった広場に出た所で一旦足を止めた。 「さて、狩るか」 グレンさんはカートから狂Pを一本取り出す。 ああ、そういや俺スピポ忘れてきた。フェイでも使ってなかったしやっぱり用意が悪いのか。 「ほれ」 と、グレンさんが瓶を投げてきた。これはスピポじゃないか。何故? 「フェイDで拾ったからな。売らずに取っといて良かったぜ」 拾い物か。親切なのか失礼なのか分からないが有り難く頂戴しておく。 お互い瓶の蓋を開けてグイッと一気飲みした。 「ぃいよっしゃあああああ!!行くぜェェェエエエエッ!!」 グレンさんは一気にテンションが上がり、その勢いでフルブースト! ・・・するかと思いきや、ゆっくり呼吸を整えていた。 「金稼ぎに来て一文無しになっちゃ洒落にならんからな。」 そう言うと、落ち着いてAR・OT・ラウドボイスを順々に唱えた。 狂Pのテンションはそれ程のものなのか。こっちは、スピポだからそんなに影響が出ないのかな。 しかしARとOTのおかげか、瞬時に体が暖まり動きやすくなった。 お返しに速度・ブレス・アスペをかけるとグレンさんは再びハイテンションになって・・・また落ち着いた。 「それじゃ、行きますか。」 鈍器を手に取り数回素振りをする。速度のみのときとは段違いの軽さだ。 段々気分が高まってきて、前方のミストを発見するや否や走り出した。 「ちょ、おい!」 まずダッシュで勢いを付けて背後からの一撃。 ミストがこちらに気付き、盾を構える前に回りこんで蹴りを入れる。 よろめいた所を一打・二打、三打目で相手が必死に繰り出した大振りの攻撃を 軽く避けるとこちらも大きく振りかぶり止めを刺した。 ミストを倒して間も無く後ろから複数のスケルワーカーが襲い来るが、 すかさずグレンさんが前に出てその巨大な斧で一気に薙ぎ払う。 かなり速い殲滅速度だが、それでも倒す度に魔物が増えていき あっという間に四方囲まれてしまった。 「・・・チッ」 俺は軽く舌打ちをすると、グレンがカートの持ち手を握るのと同時に鈍器を振り上げた。 「マグナムブレイク !!」 「カートレボリューション !!」 二つの範囲攻撃により、わらわらと集まっていた魔物どもが一斉に吹き飛んでいった。 やっと一塊の敵がいなくなると、汗を拭って一息ついた。 ・・・何か足りないな。 隣でグレンが同様に溜め息をついて呟く。 「やれやれ、こんなに忙しいんじゃ一服も出来やしねぇ」 ・・・そうだ、煙草だ。あれが無いと落ち着かないな。 しかしプリーストの懐にそんなものが入ってるはずもない。 グレンに分けてもらうしかないが、いちいち頼むのが面倒だな。 俺は空いた手をグレンの前に突き出すと、一言 「ヤニ」 と言った。