ここ数日の出来事。 ●宿屋にて   食事一つ満足に摂取することもできず、数歩壁伝いに歩く程度で全身が悲鳴を上げ、   自身への不甲斐無さを苛み、悔し涙を流す―――   そんな日々は、ありませんでした。   一晩ぐっすり寝ただけでスッキリリフレッシュ。   食べすぎなくらい食事も喉を通り、歩行はおろか全力疾走や連続バック転もできるほど良好。   仕事の手伝いだって会計・簿記・掃除・洗濯・接客や料理、何でもやっちゃうよ!   お陰で心配してくれた宿屋の主人も苦笑い。従業員立場無し。   色々とごめんなさい。   自分の単純さ加減に僕自身が呆れています。   というより、あんな状態からたった一日寝ただけでここまで回復するとは思ってなかった。   どう考えても、普通ではまずありえない状況だ。   これは今の僕が低レベルながらも剣士であり、冒険者であることが起因しているんだろうか。 ●宿屋前にて   旅立ちは特にしんみりすることなく、割りとあっさり風味で。   別れ際に主人が一着のレザージャケットをくれました。   ボロボロの(元)ロングコート着てたら色んな意味で危険だそうで。   うん、そうだね。このままの格好じゃ、正に浮浪者そのものだしね。   最後の最後まで迷惑かけて申し訳が立たないよ、ホント。   こうして、主人を始めとする宿屋のみんなへの感謝を胸に、   僕はプロンテラの雑踏へと足を踏み入れた。 ●プロンテラ南門、カプラ前   やっぱり人の多さが目に付くね。   ゲームと違うのはプレイヤーキャラたる冒険者の絶対数が少なく、   冒険者ではない一般の人々が、老若男女関係なく多いことかな。   そして露店も多いこと多いこと。   やっぱりゲームと違うのは冒険者による露店の数が少なく、   一般の人々からなる家具や衣類を始めとする日用品等のバザーが目立っていた。   ただ、今の僕は無一文だから露店は眺めるだけで終わるんだけど。   カプラさんへの位置記録の依頼も忘れずに行います。   もしここでの位置記録を忘れ、セーブポイントに戻されることがあったら、   僕はまた、あの脱走劇をしなくてはならないからです。 ●プロンテラ南門前   僕は位置記録の依頼を終えると、大きく口を開けて眼前にそびえるプロンテラの南門を見据える。   ここをくぐれば再び魔物が闊歩する地が待っている。   街の人々の話は、最近各地での魔物の動きが活発になってきており、   その発端としてフェイヨンの事件があった、という話で持ちきりだった。   比較的魔物の勢力が穏やかなここ、プロンテラも時間の問題ではないか。   そんな人々の不安は隠せずに広がりつつある。   もし魔物との戦いになったら、自分は迷わずに、恐れずに戦えるだろうか。   命を落とすかもしれない、そう考えると身震いした。   でも、行かなくてはならない。   そして知らなければいけない。   自分がノウンとしてこの世界に来た理由を、意味を。   相変わらず未鑑定のままの槍を強く握り締め、僕は新たな旅立ちの一歩としてプロンテラを後にした。