なんでなんでなんでなんで?  自分の感情がわからなかった。  どうしてイライラしているのか、どうしてこんなに暗い気持ちになるのか理解できなかった。  まるで、それは嫉妬、やきもち。  なんで?  自分の知らない話を楽しそうに話すリディックを見るのが嫌だった。  あんなに綺麗な人を前にして、仲睦ましげに話している姿を見るのが嫌だった。  でも、どうして?  自分には現実の世界にれっきとした恋人がいるのに、嫉妬するなんてそんなのは変だ。  アルデバラン北口を抜け、大きな橋を渡りきり、そこは枯れた大地が広がっている。  月明かりしかない暗い闇が辺りを覆ったその場所で、息を弾ませフィーナはそこに座り込んだ。 「……やな子だ、私…」  今は枯れてしまった木に手を添える。ぽろぽろ涙が出て止まらなかった。自分はこんなに醜い人 間だったなんてと実感し、酷い嫌悪感を覚える。  リディックが誰と話そうと……、誰と付き合おうと自分には関係ないではないか。  それを独占欲の強い嫉妬で苛立つのはお門違いも良いところだ。  …どうしてだろう、どうして私は……。 「どーーーん」 「!?」  いきなり背後で声が聞こえ、慌てて振り返ればそこには一人のアコライト――カイの姿があった。 「おおっ!  ピンポイント!」  目の前にいるフィーナの姿に僅かな驚きの声を上げ、カイはへへ、と小さく笑った。 「……」  慌てて立ち去ろうとするフィーナにカイは咄嗟に腕を掴む。 「待ってよ!」  モンク志望と言っていたカイのStrはフィーナよりも上だったのかもしれない。腕はしっかり と捕まって振り払えない。 「ごめん!ボクが悪かったよ!  何も考えないで軽口叩いてさ!」 「違う、違うの!」  カイの言葉に大きく首を振って否定するフィーナ。 「キュアっ!」  ぴろりん、と可愛らしい音を奏でカイが使ったスキルにフィーナは一瞬戸惑う。 「ね、ごめんね。フィーナがリディックの事好きだったなんて気が付かなくってさ。  変な事言ってほんとにごめん!」 「…違うの…、そうじゃない。  私が悪いの。私、恋人いるのにこんな思いになるなんてそんなの変よ…。  カイが悪いんじゃないの。私が悪いの…」  涙は止まらなかった。崩れ落ちるように木に背中を預け座り込む。  カイはそんなフィーナの様子に小さく唸る。 「…ねえフィーナ。恋人って、こっちにいる人?」  カイの言葉に首を横に振り、 「最初に助けてくれた人ってリディックって人?」  頷く。 「……私、私ね。  こっちに来て、凄く怖かった。何も知らなくて、何も出来なくて……。  その時、リディックさんが来て色々教えてくれて、沢山優しくしてくれて…。  でも彼氏がいるのに、心が動くって、それって裏切ってるのと一緒じゃない…。  私ってこんなに醜い女なんだって…」 「あのね、フィーナが出て行ったときのリディックの顔、凄く心配してた。  なんて言うか、自分が追い詰めちゃった的な、そんな顔だった。  フィーナだけが悪いんじゃないよ。どうしようもない世界であんなふうな優しさみせられちゃっ たら普通ころっていっちゃうんじゃない?  …あれだよ。心細くしている女の子にやさしーく手を伸ばしてくれて、しかもそれなりにかっこ いくてさ。  気持ちが揺れない方がおかしいと思うな。  どうしても誰かの所為にしなくちゃ行けないんなら、優しくする男が悪いということで」 「…そんなのむちゃくちゃよ…」 「いんや、男が悪い。  そう思いなよ」 「………でも」 「大丈夫だよ、フィーナ。  もしもリディックがフィーナのこと責めるんだったら、ボクが怒鳴ってやるから。  会ってほんのちょっとしか経ってないけど、ボクはフィーナがそんな酷い子じゃないってわかっ てる」 「……なんで、なんでそんなに私の事を…?」 「決まってるじゃないか。ボクとフィーナは友達だよ?これぞ友愛ってね」 「…カイ…」 「さ、王子様の到着だ」  カイの視線の先にはこちらに向かってくるリディックとリリアの姿があった。遠目でも判る、本 当に心配しているその顔色に胸が痛む。 「カイ!あなた、もう?」 「友情パワーは凄いんだよ?」  既にいたカイの存在にリリアは驚いたが、カイは何事も無いように言ってのける。 「フィーナ…」 「リディック…、さん」 「えっとな、すまない。オレなんか悪い事言ったかもしれない。  なにか、気に障るようなこととか…ほら、オレさんざんルフェウスとかに鈍いとか何とか言われ ててさ、もしかしたら気が付かない間になんか変な事言ったんじゃないかって……」  ―――なんで、あなたが謝るのですか?    しどろもどろと言葉を綴るリディックをフィーナは見ていた。  明らかに自分に非があるのだと言う彼の姿に、フィーナは胸を締め付けられる。  ―――私は最低です。恋人がいる身でありながら、貴方に想いを寄せてしまいました。 「……フィーナ?」 「ごめんなさい…、ごめんなさい、私…」  ―――貴方の事が、好きです。  その言葉は口には出来なかった。言うことが出来なかった。言って軽蔑されるのが、怖かった。 「フィーナ、今日は帰ろうか。  二人にはまた時間を貰って会えば良いし、家に呼ぶことだって出来るから」 「うんうん、今日はお疲れって事で……」 「話が違う」  突然知らない声が聞こえた。  低い声。 「誰だ!?」  突然の来訪者に警戒心を露にし、リディックはそちらの方を見る。暗いその場所にぼんやり映る 人影。はっきりとは判らないが一人ではなさそうだ。 「ハイプリーストが二人いるとは聞いてない。どっちだ」 「女の方だ。だが、別にどちらでも構わん。結果は一緒だ」  続くその声も低く冷たい声。距離は離れている為、性別すら判断が付かない。 「ルアフ!」  闇夜に目が慣れてきたとは言え、この状況では不利なことも多く、リディックはルアフの光を照 らし出す。月明かりに近い青白い光が宙を舞い、現われた来訪者を照らす。  その者たちはルアフの光に怯む事も無く、ただ冷たいまなざしを彼らに向けていた。  女のアサシンと男のローグ。  ゆっくりと近づくその二人の足音は殆ど聞こえない。シーフ系としてのスキルが備わっているた めだろうか。その手にはルアフの光に反射した銀色に輝く短剣が握られている。 「あんたら、ここはウルドじゃない。Pv以外でプレイヤーに攻撃を仕掛けるのはバグ利用として 通報されるぞ」  ゆっくりと動くその動作に相手はリアルの人間だと判断し、リディックは警告の言葉を発する。 実際に措置対象になるかどうかはわからないが、何も知らない人間であればその動きは鈍くなるの ではないかと踏んでの発言だ。  ゲーム上でスキルをキャラに使う事は出来るのだが、それでダメージを受ける事は無い。しかし、 自分達がリアルである以上刺されれば当然ダメージも食らうし、場合によっては死ぬこともある。 狙って外すならともかくとして、この二人から発せられるのは素人でもわかるほどの殺気だ。 「安心しろ。ここには俺達しかいない」  ローグは鼻で笑う。明らかに戦う意思をその目に宿していた。 「な…なんなのですか……?」  怯えた声はリリア。何が起こっているのか全くわからず、そのまるで突き刺さるような殺気に声 が震える。相手の言葉から狙いは自分だと理解できたが、リリアは近づいてくる闇の職に身を投じ たこの二人を全く知らなかった。フィーナもカイも状況が判断できずにただただ言葉を失っていた。 「よろしければ、我々と来て頂ければお怪我もせずに済みますが…如何でしょう?」  おどけた台詞を吐きながらも纏わり付く気配は剣呑なものだ。殺意を隠すことすらしない。 「穏便に事を済ませたいのなら、まずその手に持っている武器を捨ててから言ったらどうだ?」 「いつ魔物に襲われるとも知れないこのマップで武器を手放すのは愚策ではないですか?」 「アクティブのいないマップにそんな心配も必要ないとは思うけどな。それとも何か?枝でも折ろ うとしているのか?」  話しながらもリディックは自分の武器であるチェインを握り締める。嫌な汗が出てきた。相手の 実力ははっきりしないが、多分…いや間違いなく自分より上だ。  勝てないのであれば逃げるのみ。目は相手を捉えたまま、隙をうかがう。出来ればWISでリリ アにワープポータルを要求したかったが、リディックはリリアの正式な名前を知らない。音でしか 聞いていないため、それでちゃんとWISが発動するかわからない。気が付いてくれれば良いのだ が。 「話し合う必要などない。我らとしては生きていようと死んでいようと構わない。  抵抗したいのならばお好きにどうぞ」  ダッ!  走りこむアサシンにリディックは3人を庇うように前へ出た。 「ブレッシング、速度増加!」  アサシンの攻撃速度に今のままでは対処の使用も無く自身にブレスと速度をかける。  かけ終わった直後の僅かな隙を突いて銀光がリディックめがけて閃く。 「このっ!」  バックラーを立て、その刃の射線を弾き、続けざまに来る左手の刃も無理やり身をそらせかわし た。はためく白い法衣の先が切り落とされる。 「…避けた?Agi…か?」  この攻撃を避けられるとは思わなかったのか、アサシンはその無表情だった顔に疑問のそれを浮 かべる。 「悩んでるとは、随分余裕じゃないか!」  じゃらんっ!  鎖の擦れる音が響き、チェインの先はアサシンを捕らえるべく振り下ろされるが、アサシンは事 も無げにそれを避ける。 「そっちのハイプリースト、殴りじゃないのか?」  ローグはその場から動かず、アサシンとリディックの動きを見ながら肩を竦めた。 「殴りに需要はあるのか?」 「スキルさえあれば問題は無いが。  …女の方は間違いなく支援だ。そちらの方を狙う」 「了解」  そう言って、ローグはふとその姿を消した。  ――トンネルドライブ…!  炙り出さなければ、何が起こるかわからない。 「ルアフ!」  リディックは再び光を呼び出し、ローグの接近を回避しようと試みる。しかし、ルアフの範囲内 にそのローグが姿を現す事は無かった。 「リリア!!」  あのローグの狙いは間違いなくリリアだ。リディックの目の前にはアサシンがおり、ローグを炙 り出すために移動することもままならない。 「え、あ!  る、ルアフ!!」  慌ててルアフを使えばすぐ傍まで来ていたローグの姿に、「ひっ」と小さく悲鳴をあげ後ずさっ た。リリアは襲われるはずの無いその人間を相手に完全に思考を停止させている。セイフティウォ ールなり、キリエエレイソンなり使えばまだ対処のしようがあるというのだが、ただただ怯え立ち 竦むばかりで本来の役割である支援すら満足に使えないようだ。  明らかにリリアは実戦に慣れていない。それはこちらに来てまだ僅かの時間しか経っていないと いう表れか。 「トンドル使わなくても、支援ハイプリーストなど取るに足らないが、な」  ローグはそんなリリアを見て、鼻で笑い無造作に短剣を抜き放つ。防御も回避も今のリリアには 出来るようには見えない。ただ、この刃を前に突き出せばリリアは無力となるだろう。 「リリアっ!?」  突き出された刃を避けることも出来ない、怯えた眼差しの彼女に向かって飛び出した姿があった。 咄嗟にリリアを庇うように前に飛び出るカイの姿が。  どす、と鈍い音が聞こえ、刃はカイの腹部に深々と突き刺さる。じわり、とアコライトの服に赤 の染みが浮かび上がった。  痛いのはイヤだった。怪我をしても戦わなくちゃいけないのはイヤだった。  だけど、大事な人を危険な目に合わせるくらいなら、我慢できる……! 「離せ」  カイの手は自身を刺したローグの手をしっかりと握っていた。離せばその凶刃はリリアに向かう のを知っていて放せる訳は無い。 「イヤだ!!リリアっ!逃げて!!」 「か、カイっ!!」  果たしてこの状況でリリアは逃げれるのだろうか。リリアたちは今まで戦場に身を投じていたわ けではない。何もない平和な時を過ごしていたそんな折に、こちらに来てしまった人間だ。  状況を整理し、冷静に対処するだけの時間はあまりにも少なすぎた。  アサシンと対峙しながらリディックは苦渋を浮かべる。わかっているのだ。こんな状況に冷静に 対処できるような人間はあまりにも少ない事を。  リリアが出来ないならば自分がやるしかない。目線はアサシンを捕らえたまま、素早くクリップ を取り出した。 「往生際が、悪いな」  表情を変えないままアサシンはリディックに向かう。バックラーで防ぎ、避けながら詠唱を開始 する。 「ワープポータル!」  フェンのカードが刺さったクリップを身に着けていないと、アサシンの攻撃で詠唱は中断されて しまうため、たとえ詠唱に若干のロスが生じようともこのペナルティを外す事は出来なかった。  ワープポータルの柱はリリアのすぐ手前、それは今すぐ乗れ、と言う合図。 「でも!カイが!!」 「判ってる!!」  アサシン相手に後ろを見せるわけには行かない。でもカイをどうにかしない限りリリアは乗らな いだろう。  速度増加があれば純粋な移動速度の勝負、アサシンにも勝つ事は出来るはず。わき目も振らずに 全力で走る必要があるが。 「ちっ!」  アサシンもそれに気がつき、リディックを追いかけるがAgiも高く、速度のかかったリディッ クに追いつけずにいた。  ローグも発動されたワープポータルの存在に気が付いていたが、カイの自身を掴む手を放すこと が出来ずに、膠着状態を強いられていた。たかが1次職の、しかもアコライトに力負けしている事 実がローグを苛立たせ、こちらに向かってくるリディックの存在に気が付くのに僅かに遅れた。よ うやく気が付いたその気配に振り向けば、自身に向かってチェインを振り上げるハイプリーストの 姿。 「マグナム、ブレイク!!」  ローグを狙ったその爆風はカイにも影響は及ぼしてしまうが、このままで良いはずが無い。メデ ィタの乗る高レベルのヒールがあればさほど後遺症も無く回復できると踏んでの苦肉の策。  マグナムブレイクの爆風をまともに受け、ローグはよろめき、カイはその手を緩ませる。出来る ことならこんな荒っぽいことをしたくは無いが、リディックはカイをリリアに向かって突き飛ばし た。 「リリア!連れて乗れ!」  ようやくその手にカイを受け取ったリリアはそこで初めて頷いて、今だ光放っているポータルに 飛び込む。 「フィーナも早く!」 「でも!」 「オレが先に乗るわけには行かないんだよ!!」  術者がポータルに乗ればポータルは消える。フィーナが乗ったことを確認しなければ自分は乗る 事は出来ない。  レベルの未熟なハイプリーストだ。吹き飛ばしたローグもすぐに体性を立て直すだろう。アサシ ンもすぐ傍まで迫っている。 「大丈夫、すぐに行くから!」 「逃がすと思うか!!」 「!!」  すぐ真後ろまで迫ったアサシンの攻撃にリディックは慌ててバックラーで防ごうとしたが、体制 も整っていない状態で、その重い一撃に構えかけた盾は弾かれる。喉元に伸びる短剣を咄嗟に右腕 で庇う。  致命傷だけは避けることが出来たが、深く短剣によって抉られた右腕はその力をなくしてチェイ ンを取り落とし、そのまま背中から倒れこんだ。 「リディックさん!!」  アサシンは確実に止めを刺すため、逃げれないようリディックの腹を踏みつけ、刃を振り下ろそ うとしたその時、フィーナの声にぴたりとその手を止めた。 「……リディック、だと?」  その双膀は僅かに細められる。 「どうした」  手を止めたアサシンに眉を顰めローグが問いかける。アサシンはリディックをそのまま見つめた まま、ふ、と小さく笑った。 「そうか、転生したから気が付かなかったな。  まさかここで貴様に逢い見えるとは。  …………あいつは元気か?」  目は冷たいまま、口元は笑うように弧に歪む。 「……な、何を言って…」  下から見上げながらアサシンの顔を見た。今まで意識を向けることも出来なかったが、月明かり の下、ようやくアサシンの顔を真っ直ぐ見ることが出来て、その顔に見覚えがある事実にリディッ クは血の気が引く感覚に陥った。  信じられないものを見るように、出来れば嘘であって欲しいと思いながらもリディックはその名 を呟く。 「……エレ…ナ………?」 「そうだ!思い出したな?  久しいな」 「嘘だ!あんたがそんな…!!」  思い出す。初めて会ったそのアサシンはリディックたちがケルビムのギルドに入った時には既に おり、記憶にあるその瞳は優しいものだったはずだ。何故こんなに、そう、まるで本物の暗殺者の ような目をしている? 「くだらない雑談に興じている暇があるのか?」  呆れたようにローグは近寄り、今だカイを刺した時に付着した血を拭いもせずに赤く滴る短剣を 振るう。 「ああ、そうだ。  積もる話もあるだろうが、素直に死んでくれ」 「…ダメェッ!!」  弾かれるようにフィーナは今だリディックを地面に押さえつけているアサシン、エレナに向かっ て飛び出した。  しかし、その行く手をローグが遮る。 「邪魔しないでくれよ、リンカーちゃん?」  鋭く放った剣閃はフィーナを斬り付ける。肩口がざっくりと切れ赤い鮮血が流れ出た。 「フィーナ!!」  フィーナはぼたぼたと滴り落ちるその血に一瞬息を詰まらせるが、それでも悲鳴をあげず立ち竦 みもせず、カウンターダガーを構えながらローグに対峙する。 「放して!その人を放してください!!」 「へえ、健気だねえ。なあ色男、女の子に庇ってもらうってのはどういう気分だい?」  冷笑を浮かべたローグはチラリとリディックの方を見るが、エレナはそのローグに向かって静か に口を開く。 「貴様も人の事は言えまい?さっさと止めを刺せ」 「お互い様って奴かね」 「…っ!  ホーリーライト!!」  このまま寝そべっていたら、フィーナは間違いなくローグに殺される。それだけは避けたかった。 右手は使い物にはなりそうに無く、左手を掲げエレナの顔めがけてリディックはホーリーライトを 放つ。 「くっ、何っ!?」  INTの低いホーリーライトだが、まさかこの状態で反撃されるとは思わなかったのか、エレナ は顔に受けた光の衝撃に一瞬たじろぐ。その一瞬の隙をついて、エレナの足を払いのけリディック はフィーナに向けて走り出す。  消え入りそうなワープポータルの光の柱。あれが消えてしまえば逃げる事はほぼ不可能だ。自分 だけが逃げるならまだ方法はあるが、フィーナだけは逃がさないと。  死んでも生き返るのは知っている。  ―――だけど、オレの目の前でフィーナを殺されてたまるのものか!  わき目も振らず、がむしゃらに、その射線軸にローグがいようと関係ない。斬られたって死なな ければそれで良い。 「貴様っ!?」  技術も速さもエレナやローグに敵うはずも無い。だがそれでもやらなければいけない事は成し遂 げなければいけない。  自身に振り下ろされる刃に怯むことなく、リディックはフィーナの元に駆け寄る。背中に鋭い衝 撃を受けるがそれに気を払う事は無い。 「り、リディックさん」 「フィーナ、大丈夫だから」  決して距離は長くは無い。それでもようやくたどり着いた彼女の元で、リディックは何かを押し 付けるようにフィーナに手渡して。  どん。  そのまま、弱まった光の放つポータルに向かってフィーナを突き飛ばした。 「…り、リディ…!?」  叫ぶフィーナの声は転送によって途切れて消える。 「……オレも…」  自分もポータルに向かうべく、足を踏み出したその瞬間、ど、とその足が何かに射抜かれた。衝 撃に地面に倒れる。  ナイフじゃない、それは細く鋭い物。即ち矢。 「お宅ら二人いて、プリ一匹に捕まえられないなんてなにしてんの?」  新たに聞こえたその声に振り返れば、月明かりをバックに佇む道化師の姿。彼が何かを取り出し て……、その後の記憶はリディックには無かった。 ---------------------------------------------------------------------------------------- 突然ですが117の言い訳コーナー。 ついうっかりWISに対する設定を追加させてしまいました。 この設定だと1話のフィーナの友達にWIS繋がるわけ無いんです。 初めて書いた当初、そこまで考えてなく「おや?」と思った方には大変失礼をば。 戦闘シーンは書くのは好きなのですが、こうも逃げの一手をとりまくられるとどう書いたら良いも のか悩んで悩んでこうなった次第。 因みに拉致られるメンバーをしっかり決めてなかったのは内緒内緒。 女の子3人いて、攫われたのが男ってどうよ?的な展開で申し訳ありません。 そして相変わらずに1話単位が長く長くなるミステリー。 17kbって初期の2話分の容量なんですよね……。