昨日の準備の段階でもかなりの人数がいたと思ったが、当日はその比ではなかった。 日本でも縁日に神社が人でごった返したりするがそんな感じに近い。 広場の中央も盆踊り(・・・か?)で賑わっている最中俺は何故か例の屋台の前にいた。 「おっ!来たなアンちゃん!」 オヤジが景気のいい笑顔で挨拶するが、俺の顔を覚えていたことといい、 こちらが顔を見せるまでのなんとも渋い表情からしてやはり繁盛してはいなかったみたいだ。 ふと隣を見ると、大きなカートと鍋が並んで置かれている。 「・・・あれ、隣にも露店出来てたんですね」 「おう、昨日夜遅くに入ってきたBSでな。これが味の分かる奴なんだ。  さっき突然飛び出してどっかいっちまったけどな」 「そうなんだ」 「・・・それでアンちゃん、一杯食ってくんだろ?」 「え、あ、あっははは、は。じ、じゃあ一杯・・・頼もうか、な?」 「ヨシきた!」 オヤジは威勢のいい掛け声と共にテントの中へ入っていく。 しまったな。いや、元々食べてみるつもりで立ち寄ったんだけど、しまった。 「へい、お待ち!」 注文して間も無くお椀一杯に注がれた鍋を手渡される。 俺は昨日のように鼻を抑えて片手でそれを受け取った。・・・慣れないなぁ、この匂い。 しかしオヤジが見ている手前食べないわけにはいかないだろう。 渋々スプーンで一すくい、口の中へ運んだ。 最初口から広がる強烈な匂いに思わず目を閉じながら具を噛み締める。 すると次第に噛んだ肉の不思議な食感とスープが混ざり合い、絶妙な味が生み出された。 「・・・旨い!」 「だろう?祭に来てこれを食わないのは損だぜ」 一口目を食べてからは早かった。自分でも信じられないほど箸・・・ではなく スプーンが進み、あっという間に一杯平らげてしまった。 「あ、もう無くなった」 「はっは、お代わりするかい?アンちゃんも結構イケる口だな」 「クセになりますねこれは・・・。もう一杯頂きますっ」 「おうよ、まいどあり!」 結局三杯程お代わりして店を後にした。しばらく食べ物の屋台にはいけないな。 商人達の露店が並んだ通りを見て回った。 『レアカード数種、祭特別価格でご提供!』 『祭出張サービス!買わないとおしおきだっちゃ!』 『クホッ!折 ら な い か 〜いい鉱石各種〜』 様々な宣伝文句が書かれた看板が立ち並び、道行く人々の目に止まるよう、 頭装備まで派手にしている商人もちらほらいる。懐具合の関係で 購入には至らなかったが品物や店を見るだけでも十分楽しむ事ができた。 そうして広場に帰ってくる途中に『超特大パフェ:タナトスタワー』という、 30人前はあるだろう巨大パフェを制限時間付きで食べきれれば無料といった店を見かけたが、 ふと見るとカウンターに張り紙で『細身の娘 おことわり』とあった。 何故だろう、普通逆な気がする。