『おつかれー!』 店を畳んだ俺たちは、隣のオヤジの店で乾杯していた。いやぁビールがうめぇ。 案外ルーシエも如月もオヤジの海鮮鍋には興味があったらしく 誘ってみたら2つ返事でついてきた。そりゃ、あの様子を隣で見てりゃな。 なにしろ食った瞬間口からレーザービーム吐く奴がいるくらい旨いんだぜ。 「はっはっは!アンタらのお陰でオレんとこも大繁盛だ!ガッツリ食ってってくれ!」 上機嫌のオヤジは鍋を一回りでかい器に大盛りにして持ってきてくれた。 最初のときと違い、それなりに店も忙しいのでオヤジはまたオーダーを取りに走っていく。 湯気とともに立ち上る匂い。走り去るオヤジの背中を見送り、2人を振り返ると 鼻を押さえてちょっと涙目になっている。予想通りのリアクションにニヤつく俺。 「こっ・・・ここまでとは・・・」 「何情けねぇ顔してんだよ。タナトスタワー食い尽くした時の勢いはどうしたおめーら?w」 「てめっ、何ニヤニヤしてんだ!・・・おねえちゃん、食べよう!」 やけくそ気味に具を口に放り込んだ如月は、匂いのせいか一瞬泣きそうな顔をしていたが 恐る恐るといった様子で少しずつ具をかみ締めるごとに、頬が緩んでいくのが分かった。 そして誘われるように一口。またもう一口。 「うまーい!」 「だろ?ほらルーシエも食ってみろって。」 「う、うん。」 戸惑いながら鍋に口をつけたルーシエも、3口で表情が変わった。 自分が旨いと思ったものを食った奴がこういうリアクションをすると、妙に嬉しいもんだ。 「美味しい。美味しいよこれ!」 「だろ?」 「あ、ちょうどいいや。おじさん!このゼラチン状の具ってなんなの?」 「お、そいつかい。そいつぁp」 「オヤジ!ビールもう一杯追加な!」 「あいよっ!」 遮ってビールを頼んだのは俺だ。だから具の中身だけは黙っとけっての! pって何だよpって。多分その先言ったらその後どんなフォローも焼け石に水だぞオメー。 「・・・pって何?」 「い、いいから飲もうぜ!乾杯ー!!」 ------------------------------------------------------------------------------------------------ もうそろそろ日も暮れる。茜と紫と紺が混じる空の下、黄昏時の薄闇に1つ、また1つと 並ぶ露天の店先に明かりが灯った。涼しい風がほろ酔い気分の頬を撫でてゆく。 どこか見知った風情の異国の祭りの夜は、相変わらずの賑わいを見せながらも 少し終わりに近づいたもの寂しさも漂わせていた。 向こうに見えるあの櫓が燃えて夜空に魂を還せば、この祭りもいよいよ終わる。 「美味しかったねぇ。」 「最初はこんなもん食えるのか、って思ったけどねー」 「あァ。そのうち向こうに行く事があったらまた食いてぇな。」 そう言いつつ、ふとヴァレスの露天の方向を見るとまだまだ人だかりができている。 「奴んとこは相変わらず元気だな。」 「一体どんだけ餅持ってきたんだろ?」 「・・・そういえばさっき呼ばれてくる途中、ホルグレンが餅ついてるの見たけど・・・」 「・・・ああ、なるほど。」 でも集客であんだけ張り合えれば十分だ。餅の元締め相手に餅使ってやり合ったんだしな。 後はせいぜい頑張ってくれ。俺はこれからゆっくり祭りを楽しんでくるぜ。 「へへ、ざまぁ見やがれ。」 「え?」 「あー、何でもねぇ。よし、折角だからちょっと色々回ってこようぜ!」 祭りは楽しんだ奴の勝ち。まだまだ働くヴァレスを横目に、俺たちは祭りの雑踏の中へ入っていった。