「・・・」 通りから少し離れた休憩所で人の流れを眺めていた。 鎮魂祭が終わり、観光客がそれぞれ土産話を漏らしながら帰路に着く中、 出展側だった村人や商人達が会場に残って片付けやら打ち上げを行っている。 加えて飲み足りない冒険者も二次会を開き、そこへここぞとばかりに酒を持ち寄る商人達も。 まだこの賑わいは終わりそうにない。 テーブルに頬杖をついたまま、視線を移す。 広場の中央では櫓のあった場所から一筋の煙が上がっていた。 結局点火には立ち会えなかったが、さっきの話を聞いた後じゃあ 魔物の安息を素直に祈ってやる気持ちにもなれなかった。 『いやはや、人間も我らのために粋なことをしますなぁ〜』 大体、斜め後ろに当事者がいるんだもの。透けてるけど。 「・・・はぁー」 『あら、どうしやした溜め息なんかついて。せっかくの祭なのに何か食わないんですかい?』 「アンタを目にしてる手前、食欲沸き難いよ・・・」 『んん?あっしはこれでも仲間内でも「顔が整ってる方」と言われてるんですがねぇ』 そう言って、後ろにいるゾンビの魂は首をかしげる。 不可解な表情を浮かべるその顔は右目が飛び出しており、額と頬の皮が剥げていて、 全体的に生前の顔が想像出来ないほどひしゃげている。これはとても「整ってる」とは言えない。 その仲間がいかに酷い顔だったか気になるところだ。 頬杖から腕組みに体制を変えた俺は未だその顔を直視出来ないまま、明後日の方向を向いた。 「ところで」 『なんです?』 「あの九尾狐は魔物一体の魂しか憑かないと言った。そして実際、今はアンタだけが俺の背後にいる」 『ふんふん。何か問題がおありで?』 「・・・なんでまだ他の魂どもがうろついてるんだ?」 俺が指した先には会場をあちこち飛び回るフェイヨンDの魔物達の姿。 それを見てゾンビは口をだらんと開け「あー」と声を漏らす。 『皆久々に人間の祭見るもんだから興味もってるんでさぁ。  復帰時間にはまだ早いんで、我らの慰労会みたいな感じで楽しんでるんでしょうねぇ』 「先日は全力で殺し合っといて・・・妙な光景だなぁ」 『いつもはそれが我らの仕事なんでねぇ』 ゾンビは顎を外したままへらへらと笑う。 うーむ、やられた後は魂の状態で結構のんびりしてるんだな。 『おーい、ニーさんニーさん!』 ムナックが手を振りながらこちらへ飛んでくる。 俺の目の前で急停止し、イメージしていたより快活な口調で喋りかけてきた。 『面白いもんが見れたんよ。顔が赤くなった人間達が叫んでたり、変な踊りしたり』 「確実に酔ってるな」 『泣き出したと思ったら服脱ぎ出したり、笑いすぎて息出来なくなってたり』 オイオイ。 『あとね、二人のねーちゃんがチーズケーキをバクバク食っとった!』 『そりゃあえらい騒ぎ様でなぁ』 『ニーさん達も来てみ?見てるだけで笑える』 話の途中で噴出しながらも酒盛りの状況を説明し終えたムナックは、 一見に如かずとばかりに手招きをして会場へと飛んでいく。 そりゃ君らは幽霊だから見られなくていいだろうけど、俺絡まれたらどうするんだ。 『早く早くー!』 「分かった、分かったって!・・・ふう」 『いやー、お兄さんも流されやすい性分ですなぁ』 「放っといてくれ」 巻き込まれ体質なのは自覚してるから。 俺は天真爛漫な笑顔で手を振るムナックに手を振り返し、その後ろにいた通りすがりの 騎士さんに変な目で見られて何も言わず顔を逸らした。