死んでいるくせにやけに活き活きしたムナックの魂の後ろを付いて歩いていたところ、 前方から見慣れた人物が歩いてくるのに気付いた。あれは、ルーシエさんと如月さんだな。 相変わらず両方腕を組み合ったまま、もう片方の手でこちらに手を振ってきた。 先ほどムナックに向けてやったように、笑って手を振り返してみた。 「・・・どうしたエル。幽霊でも見たような顔して」 「え」 あっさり見抜かれた。どうやら顔で嘘が付けないらしい。 が、彼女らも実際に幽霊がいるとは思っていないだろう。何とかはぐらかそう。 「あ、いや、何でも・・・」 「・・・。とりあえず、医療所に帰ろうか。何ならマリーさんに診てもらえば?」 「顔色悪いぞお前?」 「いや、大丈夫。ちょっと憑かれてるだけだから・・・」 おっと、つい。 「本当か?」と疑問の色を消さない二人だが、「大丈夫大丈夫」と軽く答えると それ以上は問い詰めないでくれた。正直顔色まで悪くなっていたのは自覚していなかったが、 毒のせいではなく呪われているわけでもなく只魔物の魂が背後について回ってるだけなので 今のところ身体的な損害はないだろう。・・・ありませんよね、狐さん? 『やぁ、慣れれば楽なモンですよ』 「慣れるか」 背後からの気楽な笑い声に小さくツッコミを入れるが、聞こえてしまったようで ルーシエさんがふと振り返ってこちらを見た。 「エル、何だ?」 「あー独り言ですよ独り言。気にしないで」 「・・・お前やっぱ変だぞ?」 「だから憑か・・・疲れてるんですって。本当に」 さっきから如月さんの視線が痛いので、それから医療所へ向かう間は 空耳が聞こえても一切気にしないことにした。うん。・・・だからって好き放題言うな。 医療所に戻ってから再度マリーさんの診察を受けることを勧められたが当然断った。 原因は分かっているし、なんだかあの人に診てもらうと色々見抜かれそうな気もするからだ。 食堂も閉まっていたので真っ直ぐに昨日と同じ部屋へ行った。 同伴の二人は今日の祭でエネルギーを使い果たしたせいか、部屋に入るなりベッドに倒れこんだ。 「ふあぁ〜・・・つっかれたなぁ、今日は」 「同感だな。  そういうわけでエル、私達はもう寝るよ。お前も早く休め」 「はーい」 俺はタラちゃんのような返事をして灯りを消した、と同時に寝息スタート。 いつもながらこの寝つきの良さは感心するな・・・。そう思いながら隣のベッドの布団に手をかけて、 ふと窓を見ると人魂が漂っていた。 月が通して見える位置に浮かんだその半透明なキョンシーは、悪戯っぽい笑顔でチョイチョイと手招きしている。 無言で溜め息。 『ニーさんひどいじゃない?途中でおらんようなるなんて』 「こっちの都合も尊重してくれ」 宿の外壁にもたれて腕を組む。目の前にはムナック、背後にはゾンビ。 後者には頼むから隣に回るなりしてくれと言いたい。壁から顔だけ突き出て、すごく怖いから。 しかしそんな心情を察してか否か、ゾンビは構わずに喋り出した。 『ムナックさんどうしやした。交代の時間にゃまだ早いですぜ』 『分かってるって。でもニーさんにこれからどうするのか聞いておかんとね』 ムナックはこちらと顔を見合わせてニヤリと笑う。 これからどうすると言われても、見当も何も思い当たらないんだが。 『ニーさんが来てから、ウチらん所みたいな事は起こらんかった?』 「いや、俺が知る限りじゃあ・・・。こっち来てそんなに経ってないしなぁ」 『んー、じゃあそういう事を意図的に引き起こせる存在とかは?』 「意図的に・・・」 可能なんだろうか?冒険者のテロ枝でも無しに魔物の暴動を起こすのは。 告知のないイベント、規定外の魔物の数、リアルとの関連性・・・ ”伝言板”。 「そうか!」 『心当たりがあるんですね?』 「明確な目的地は分からないけど、探すアテなら一応ある。明日は首都に戻って情報を集めたいと思う」 『イェッサー、大佐!』 ムナックはそう言うとビシッと敬礼をした。そんなの何処で覚えたんだ。 『だからムナックさぁん。今の担当はあっしなんですって』 『ゴメンゴメン、でも君明日には持ち場に戻らんとならなくなってるんやないの?』 『あー・・・、それもそうですかねぇ。残念ですねぇ』 俺としては早く代わって頂ければ安心することこの上ないのだが、今晩中はどうにも無理な願いらしい。 「とりあえず、今日は休むよ。祭の疲れもあるし。  また明日よろしく頼む」 『はいはい、じゃあおやすみニーさん!』 最初に取り憑いたゾンビの存在意義を根こそぎ奪っていったムナックは別れの挨拶を告げて暗闇に消えていった。 それを見送った俺は、未だ壁から生えた生首状態のゾンビに向きなおす。 「頼むからベッドの下に潜むなんてしないでくれな」 『はっは、大丈夫ですよ。ちゃんと枕元に立ってあげるでさぁ』 「・・・益々止めてくれ」 その晩ベッドの布団に潜れど一睡も出来なかったのは言うまでもない。