某月某日オーラを吹いた。 「マスターおめでとー!」 「おおーー、ほんとに光ってるーー」 「おめー」  ギルドメンバーの口々から祝福の言葉が溢れる。ようやく迎えた節目。今日私はレベル99となっ た。 「お疲れさん」  ぽんと私の頭を叩いたのはチェイサーの男。 「ああ。リアルとプレイとでは状況は雲泥の差だったな」  はは、と私はチェイサーの顔を見る。 「これで、ケルビムも転生仲間入りかー」 「…そんなに残念そうに言うな、レン。私がお前と同じ転生職だと不満でもあるのか?」 「うんにゃ、そんなこたねって。チャントシュクフクシテマスヨー?」  肩を竦めながらレンはまるで口笛を吹くような仕草で視線を私からそらす。 「片言で話すな馬鹿者」 「で、しばらくオーラ堪能するんか?」 「いや、すぐにでも転生しようと思う。私達にとってはオーラなどあまり意味の無いものだからな」 「…もったいね」 「それともなにか?この私をボスに轢かせたいのか?」 「めめめめ滅相もござりません」 「判ればよい」  レンは調子の良い男だ。 「レンはケルビムさんに頭上がらないよね」  にこにこと笑顔を浮かべながら来たのは緑髪のプリースト。レンの相方で…これは私とこの二人 しか知らないことだが、実の兄妹だ。傍から見れば恋人同士にも見えなくも無い。 「あーあ、でもケルビムさんが転生しちゃったら、もう3人でパーティ組むことも出来ないのかー」  残念そうにプリーストは言う。 「つまり、リアのへったくそな支援をもらう事はなくなったと言うことか」 「な、なななっ!!  レン!!言って良い事と悪い事があるって知らないの!?」 「良い事の方じゃないか?」 「うぎーーーっ!!」  相変わらずこの兄妹の掛け合いは面白い。大抵はプリースト――リア――が話を切り替えてそれ で終了する。 「…で、いつ転生するんだ?」 「うむ、明日にでもジュノーへ行こうと思う。  早い方が良いだろう」 「そうだな、いい加減この訳の判らない状態ともおさらばしたいしな」  レンの言葉に私は頷いた。  ラグナロクオンラインに入り込んでしまった私達は、半年たった今でも現実世界に戻る事は出来 ていなかった。 「聞きたいヴァルキリー。  私達は元の世界に戻れないのか?」  目の前にいるオッドアイの翼を持った美しい女性がいる。オーラに達したものを転生させ、新た な力を授ける役割を持った戦乙女。 「…あなた方はこの世界にとって異端な存在です。  私の力はこの世界にのみ許される。  申し訳ないのですが、あなた方を戻す術は私にはありません」 「…転生を司る神であっても、か…?」 「肉体の転生は果たせます。しかし、精神の転生は不可能です。  今まで、以前の記憶を持たない転生者がおりましたか?  つまりは、そう言う事なのです」  ヴァルキリーの言葉は私を奈落に落とすのに充分なものだった。  最後の手段だったのだ。戻るためにわざとモンスターに殺された事もあった。むやみやたらにテ レポートを使った事もある。何度も、目が覚めれば元の世界に戻れるとそう願いながら床について、 変わらないその風景に何度も絶望した。  だが、転生したら。  今までと全く違う肉体の回帰。可能性は充分すぎるほど期待していたのに。 「…我々は…一体どのくらいこの世界にいなければならないのだ…」  ノービスハイとして自ギルドの宿舎に戻った私は、神妙な顔をするレンの前で項垂れていた。 「……ダメだったのか」  戻ってきた私を嬉しそうに迎えてくれたレン達に朗報をもたらす事が出来ず、皆の期待を裏切っ てしまった。 「ケルビムの所為じゃねって。  …他にも方法が残されてるよ、きっと」  レンは優しく私の肩を抱く。 「私は…怖い…。  現実ではありえない力を持って、そして魔物を駆逐する日々が。  心が悪鬼のように変わってしまいそうで……、それが…怖い…」 「大丈夫だって、ケルビムはそうならねえ。俺が保障する」 「……レン…」 「戻ろう、戻れるさ。戻って、現実で会おう?」 「……ああ、現実の世界で、レンに会いたい」  目を合わせる。レンの瞳はまるで晴天の空のように青く、吸い込まれるようだ。  …知っているか、レン?  私が付けたこのギルド名『RealSky』。それは、レンの瞳を見て、そうつけたのだ。  言ったら笑われるだろうか?それとも、恥ずかしそうにするだろうか?  温かいその腕に抱かれ、私は目を閉じる。  そして―――  今日、おれ達のギルドに新人が入った。  アルケミストとプリーストとウィザード。  同時期に3人いっぺんと言うのは珍しい。  しかし、このアルケミスト。見覚えがあった。  名前は知らない。でも、確か、どこかで。  目が合う。相手は何かに気が付いたような、そんな様子を見せるが、それもすぐに消えうせる。  なんだよ、こいつは一筋縄ではいかないような相手か。 「よー、えっと、ルフェウス、だっけ?」 「何か?」  うちのギルドの唯一の商人系、ルフェウスはギルドメンバーから預かった収集品を売りに出るら しく、そのカートの中にはよくわからないものがごっちゃりと入っている。  レポート用紙の様な物で収集品の名前と個数、誰が何を持ってきたかをチェックしながら外へ出 るところだったらしい。 「わりいなあ。おれ達商人系が居なくてさ。結構負担だろ?」 「いえ、これくらいどうと言う事はないですが」  目上の者に対するような固い口調。どうも居心地が悪い。 「敬語とかやめろよなー。けつがもぞもぞする」 「貴方はサブマスターじゃないですか」 「何言ってんだ。リドは既におれのことを兄貴って呼んでくれるぜ?お前もそんくらいフランクに 行こうや」  リド、とはこのルフェウスと同じ時に入ってきたリディックという名のプリーストだ。向こうが 兄貴と呼んでくるのなら、こちらも親しみを込めてリド、と呼んでいた。  容姿もおれと同じ。ま、おれの方がちっと良い男だけどな。兄妹はリアしか居なかったから、弟 と言うのはこういう奴なんだろうと思う。 「…リディックはリディック、僕は僕。一緒にされても困りますが」  随分ガードの硬いお人のようで。  しかし、やっぱり見覚えがある。  こっちで見覚えのある人物と言うのは非常に限定されるはずなんだが。  ……限定。…ん?もしかしたら……。 「…それで、何か御用でも?  ああ、収集品や露店用のアイテムでも預ける予定ですか?」 「いや、ちょいと話をなあ」  おれの言葉にルフェウスはそうですか、と言いながらカートを引いていく。  その横を一緒に歩きながら、その動向を見ているおれ。  そんな折、日曜の定番、Gvアナウンスが流れ出る。 「おれが居なくても砦は取れる。なあルディ、誰が穴埋めてんだ?」 「知りませんよ」  ルフェウスもその初めて聞こえたGvアナウンスに気を取られたのだろうか。極普通に尋ねてみ れば、その言葉に返す。 「……『知りません』?  おいおい、おれは『ルディ』に聞いたのに、なんでお前さんがそう答える?  普通ここは『誰ですか』じゃないのか?」  おれの言葉にルフェウスはその足を止め、深い息を吐く。騙されたというような自身の迂闊さを 恥じてるよう手を額に当てていた。 「………君の意地の悪さはちっとも変わってない」 「やっぱりお前だったのか、ルー」  こいつはおれが以前所属していたギルド、そこのギルドマスター。因みに『ルー』は愛称。こい つが作るキャラは必ず頭に『ル』が付く。そうだ、ルーとはオフで会ったこともある。その面影が 残っていたから、それで見覚えが会ったのだ。 「しかし、おれ脱退したその1年後にお前も来たのかよ…。つか、なんでケミだよ。しらねえぞ、 そのケミ」 「諸事情があって『ルディ』は休止してたんだ。正直休止までしなくても良かったんだけど、いざ と言う時メンバーに迷惑かけるかもしれないしさ。で、新キャラ作って仕事の合間にレースして、 そうこうしているうちにこっちにきちゃったってわけ」 「…休止時期って、まさかお前、また…」 「………とりあえずだまっとけ、と言っておこうか」 「そっかー、えーと…ご愁傷…さま……?」 「…レン、殴るよ?  僕だって今イライラしているんだから」  おれとルーの付き合いは長く課金当初の固定PTまで遡る。それなりに長い付き合いだ。オフで も数度会っているし、お互いの悩みとかも聞いた事もある。  それにしても、オフで会わない限りルーの中の人が女とは思えないのだが。 「……しかし、お前が来てくれたか…。ありがたいな」 「なんかあったの?」  今ギルドにいる皆は受身姿勢の者が多い。マスターに当たるケルビムに頼っているものも少なく ない。だから、ここにいるルーの存在はおれにとって非常にありがたかった。 「頼みがあるんだよ。お前だって大変なのは知ってるさ。  だけど、頼めるのはお前しかいねえんだよ」 「…内容による」  その口調は業務的に響いている。友達としての付き合いとギルドマスターとしての付き合い。公 私を混同しないルーらしいその口調。 「…ケルビムをさ、支えて欲しいんだな」 「……ケルビムさんを?」 「あれ、人前では気丈に振舞ってるけどさ、人一倍弱いんだよ。  おれがずっと支えてやりたいって思ってても、多分もうそれは出来なくなる」 「どう言う事?」 「帰る手段を探しているのは皆知っていることだ。  やりつくした感があるんだが、一つ挑戦して見ようと思っていることがある」  誰にも言えない、そして頼めない方法。でもこれをやったらケルビムは泣くかも知れない。そう 思うと踏ん切りがつかなかった。 「…レン。何を考えている?」 「おれは、ギルドを抜ける」  措置3。アカウント削除。この世界に繋ぎとめる楔を根本的に抜いてしまうその手段。  成功したらすぐに新規でアカウントを作り伝える。失敗したら…どうなるかわからない。 「……まさか…、レン…君は……」  ルーもそれに気が付いたんだろう、驚いたような顔でおれを見る。 「適役だろ?  チェイサーならBOT使用者に成りすますことも出来るし、色々と悪評も立てることが出来る。  まあ、昔入って居たギルドに迷惑かける可能性もあるけど、ギルド脱退から1年だ。おれがその ギルドに入っていた事実を知ってるはそのギルドと同盟の連中くらいじゃねえか?  あいつらには後で理由も添えて謝っておくさ」 「…何を、…」 「判ってくれよ。おれはもうこの状況には耐えられねえんだ。  狂っていく連中だっている。ここにいる皆もいつか誰かはその力に溺れる可能性だってある。  ……もしかしたら、おれだって狂ってしまうかもしれない」 「………レン、戻れ。絶対に戻って来い。悲しむ人がいるんなら、なおさらだ」 「判ってる、ルー。  ケルビムを置いていくなんておれには耐えられねえ。  ………だけど…、だけど、もし…」  その言葉は続けられない。言えばその通りになってしまう気がした。 「すぐに連絡入れてよ?  僕だってケルビムさんと同じ女の人だって忘れないで欲しいし」 「うん、お前の事についてはすぐに忘れられる自信がある。  つうか、今でも疑っている」 「……そう」 「マテ。カート漁って何をする気だ。  オイ。何マインボトル出している?  ってか、ごめんなさい振りかぶらないで。お願いしますマジで」  笑いながら黒いオーラって、おれ初めて見た気がする。  こええよ、こええよルー。  レンがギルドを抜けた。  理由は聞いた。みんなの前でレンはそう言った。  止める者も当然居た。だけどレンはその考えを覆したりしなかった。  時がたって、耳に入った情報の中に、レンのアカウントが削除されたという話を聞いた。  ………レンが………帰って…、こない……。 「…ケルビムさん」 「リア、か?」 「………ごめんなさい」  ノックされた扉を開けばそこには私と同じように憔悴したリアの姿があった。  仲の良い兄妹だった。居なくなった兄を心配し、連絡のない兄を恨んでいるのだろうか。 「…あいつは、時間にルーズな所があったからな…」 「ごめんなさい…」 「リア…?」 「ごめん…なさい………!」  同じ言葉を繰り返すリアの言葉に私の心が酷くざわめく。 「どうした、どうしたのだ、リア…!?」 「本当に、ごめんなさい!!」  それは泣き叫ぶように。  それは苦しみから逃れるように。  リアは私に背を向けるとそのまま走り出す。 「リア!!」  追う。  しかし、宿舎から出たその時には、リアはテレポートでその姿をなくしていた。 「………リア…」  立ち尽くす。  嫌な予感がした。心が酷く、ざわめく。  リアはギルドを抜けていなかった。  何処に行ったのかは判らない。なぜかログアウトされたまま連絡もつけることが出来なかった。  リアが見つかったのはそれ程時間は経っていない。  もしかしたら、と初めて二人に会ったその場所に向かってみたら…、そこには血濡れのプリース トが…リアが……、死んでいた。  リザレクションも、イグドラシルの葉もリアを生き返らせることはなかった。  遺書とナイフを握り締めたそのリアの顔は、死ぬことに対する恐怖、帰ってこない焦燥、戻れな い絶望を浮かべている。 「…ぁ、」  何故人は本当に哀しい時、声はでないのだろう。  涙が出ない。  崩れ落ちて両手を地面に当てて。  息が苦しい。  胸が、引き裂かれるようだ。 「マスター…」  誰かが私の肩に触れる。その言葉に気が付いた。崩れるな、取り乱すな、平常を持て。私はこの ギルドのマスターだぞ? 「リアを、弔おう。  このような姿のままでは、彼女が可哀想だ」  立ち上がる。真っ赤に濡れたリアをその手に抱いて皆に振り返る。  とある丘、そこにリアを埋めた。リアの死は明らかなバグ。死体は消えずにそこにある。きっと ずっとずっとそこにあるのだろう。この世界には『腐っていく』と言う事がない。だからリアはず っとここにいる。  少しでも綺麗なところに、そう思ってこの見晴らしの良い丘を選んだ。  土を被せながら、私は耐えていた。泣き叫びたい。縋りたい。でも、縋れる人はもう、いない。  土を被せながら、嗚咽を聞いた。皆が泣いている。仲間が居なくなったことに哀しんでいる。  私は彼らの支えにならなければいけないのだ。お願いだから、この手の震えよ、止まってくれ。  自室に戻った途端、耐え切れない感情の波が押し寄せた。  ダメだった。もうだめだ。私は、私は…!  皆はどう思っているのだろう。何もしたくない、何も考えたくない、いっそ死んでしまいたい。  心配し部屋をノックする音も聞いた。でも出れない。こんな姿は誰にも見せたくない。  私の所為なんだ。レンとリアをこんなことにさせてしまったのは、私が悪いんだ。  なんで私はここにいるの?  二人を死に追いやって、なんで私はここにいるの…? 「…ケルビムさん」  ノックと共に声が聞こえる。ギルドメンバーの一人、入って3ヶ月目に入るアルケミスト。 「開けてください」 「……開けれない」 「では、無理やり開けます。あなたに渡したい物があので」  無理やり開けるといったそのアルケミストのルフェウスは僅かの沈黙の後、激しく扉を叩き付け 出した。  ガンガンと激しく鳴るその音は、開けるというより壊すというニュアンスが強い。 「…Strに振っとけばよかった…」  数度扉を叩きつけるものの非力な製薬型故、扉を僅かに傷つけるだけ。 「止めて、私は誰にも会いたくはない」 「いいえ、やめません。  あなたに、と預かったものがあります。  渡すまではやめない」  そして再び激しい打撃音。 「やめて!私は、私はもう嫌なの!!もう、嫌なの…」 「やめませんって。預かったものを渡すまでは…、このレンからの手紙を渡すまでやめる気はない です」  ……レンからの、手紙……? 「預かったんです。ギルドを抜ける前、僕に渡したこの手紙を、戻らなければ渡してくれと頼まれ ました。だから、渡すまではやめません」  その言葉に私は立ち上がる。足が上手く前に出すことは出来ないが、それでも私は扉に縋る。  かちり、と鍵の外す音を聞きとめたのか、扉から聞こえる音は止む。  扉を開ければそこには困った顔のルフェウスの姿。 「天岩戸を開くのはやっぱり本人なんですよね」  そう言いながらルフェウスは私に一通の手紙を渡す。飾り気のない真っ白い封筒。 「マスターだからって一人で悩むのはルール違反です。  弱音を吐いても誰も咎めません。文句を言う奴がいるなら僕が論破しますよ。  レンも、それを望んでない」 「あなたは…レンを知っているの…?」 「僕はレンのいたギルドのマスターです。いや、でした。  あいつとは付き合いが長いんです。馬鹿だけど、やさしい人だ。  本当はこんなことしたくないと言ってたんです。  でも、この世界でおかしくなってしまう自分をあなたに見せたくなかったんでしょうね。  …本当に、馬鹿で、不器用な男ですよ」  そう言うとルフェウスは後ろにおいてある盆を持ち上げた。 「ちょっと冷めてしまったけど、ちゃんと食べなきゃダメですよ?  ダイエットって若い女性が簡単にやっちゃいけないんです」  それを受け取って、私はルフェウスの顔を見た。 「ほら、頬なんてこけちゃってるじゃないですか。若いんだからそれじゃあダメですよ?  食べて、元気になって…それから帰る手段を新たに探しましょう。  僕にも待っている人がいるんです。  だからきっとレンも待ってる。あれ、馬鹿だからこっちから声掛けないと約束忘れてるかもしれ ない。がつんと言ってやらないと」  ルフェウスは拳を握って軽く振る。その姿に私は小さく笑った。  それだけ言ってルフェウスはその顔に笑みを浮かべて踵を返す。  立ち去った後姿を見送り私は渡された手紙と盆を持って椅子に腰掛ける。  飾り気のない白い封筒。もともと何かを書くのを苦手としていたレンならばそれ程枚数はないと は思うその手紙。  丁寧に封を解き、しかし予想に反して3枚ほどの手紙が入っている。  何を書いてくれたのだろう。弱い私を叱る文章なのだろうか。少しの期待と沢山の不安を抱え折 りたたまれたその手紙を開いた。 『愛しのケルビムへ。  我ながらこのでだしは恥ずかしいが、おれの本心だ。受け取ってくれ。  多分この手紙を読む頃にはおれは何の連絡もしてないと思う。酷い話だよな。自分の事ながら呆 れちまうぜ。  ケルビムには本当に悪い事をした。許してくれとは言わない。むしろ罵ってくれ。  その罵りついでに出来れば迎えに来て欲しい。  ありえないとは思うが、もしかしたら万が一、いや兆が一?この世界の事を忘れている可能性が ある。  だけど、お前の顔を見たら絶対に思い出すから。それは確実だ。…お前がもしネカマだったら、 それは…いや、それでも思い出す。絶対だ。  ここにおれの住んでた住所を書いておく。  本当に愛してる人に迎えに来てもらおうなんて甚だ迷惑な奴だと思う。  愛想尽かしてたらそのままでも良い。  だけどおれは待ってるから。ケルビムが来てくれるのをずっとまってるから。  好きだよ。本当に大好きだ。現実の世界でお前を抱きしめたい。  だから、出来れば迎えに来て欲しい。お願いします。  レンより。  P.S.リアにも伝えといてくれ。あいつはきっとおれを殴り飛ばしそうだけどな』  あいつらしい、ふざけた手紙。  どうしよう、私は立ち止まれなくなってしまった。  恥ずかしげもなく、こんな文章を書いて、読んでるこっちが恥ずかしくなる。 「……愛想など、尽かすわけないじゃない。  迎えに行くよ、絶対に戻って迎えに行く。  覚悟しなさい、殴り飛ばしてやるんだから……」  私はその手紙を抱いて、そして泣いた。  数ヵ月後、今だ発展しない帰途への道。  そんなある日の早朝、私にWISが届いた。 『あ、姐さん。ちょっと会って欲しい人がいるんだ。  それがさ、ノービスの女の子。  こっちに来た子なんだけど、今日会えないかな?  場所はプロンテラ北のベンチ、時間は午後1時頃。大丈夫?』 →Next To Real Ver.3