勘定を済ませた俺達は、点灯式の会場へ向かうことにした。 余談だけどエリーさんは露店があるため、点灯式には参加しないらしい。 俺達が点灯式の会場に付いた頃には、既に多くの参加者が集まっていた。 今回の祭の締めだけあって、多くの参加者が集まってくる。 「う〜ん、混雑してて前の方まで行けないかな?クラウスさん、見えます?」 「前の方は駄目だな、人が多すぎる。」 流石に開始30分前を知らせる放送が流れたぐらいに移動し始めたんじゃあ、前の方は無理か。 「前に行くのが無理なら、何処か露店で休みながら見る、という手もありますよ?」 そう発案したのはノウンさん。 先程に比べて少しは顔色良くなっている様には見えるかな? まあこれ以上は本人の問題だ、俺は助けを求められた時に手を差し伸べてやれば良いだろう。 それまでは何も気付いていないかの様に振舞うだけだ。 「そうしようか」 俺はその案に同意する。 無理して前で見る必要も無いしね。 「近くで見たかったですけど、仕方ないですね。」 「ひとがいっぱいいますね〜」 残念そうに言うフリージア。だけど無理だと判っている為か諦めたみたいだ。 逆にミーティアさんは何を考えているか、俺にはよく判らん。 彼女はクラウスさんやルーシエさん達の知り合いらしいが…どう考えてもフリージアよりも年下だよな? 商人の服を着ているから商人だとは思うけど…どう見てもお子様にしか見えん。 この世界の就職年齢について疑問を感じてしまう。 それとも冒険者は例外なのだろうか? 「この近くの露店で開いてる店は〜、と。お、あそこが開いてるぞ」 クラウスさんが辺りを見回し、指で指す。 俺が余計な事を考えている間に店を探してくれていたようだ。 けど… 「なあクラウスさん、あれはどう見てもビアガーデンじゃないか?」 「1〜2人分の席ならともかく、この人数が座れるほど席が開いている店は他に無いぜ?」 「扱っている品がお酒ばかりとは限りませんよ?」 いやそれは判っているんだ。 ただ面子には明らかに未成年が含まれているんだぞ? 「私はお酒でも良いですよ?」 「おなじく〜」 「却下」 「「え〜」」 「え〜じゃない!」 2人とも、息を合わせてお酒を飲むとか言わないでくれ。 大体未成年の飲酒は法律で…って、この世界じゃあどうなんだろ? たとえ法律で禁止されていなくても、俺は止めるけどね。 「席確保してきたぞ〜」 「ちょっ、何時の間に!?」 「ルクスさんがフリージアさん達の相手をしている間にノウンと2人で交渉してきたぜ。  ノウンを待たせているから、さっさと行こうぜ。」 見ると先程の席にノウンさんが座っているのが見える。 俺等が話している間にクラウスさんとノウンさんとで行ってきたのか。 というか未成年の飲酒についてあれこれ考えているのは俺だけですか? 「折角の祭なんだし、最後まで楽しくやろうぜ、な?」 クラウスさんもクラウスさんなりに感じていたんだろうな。 「…そうだな、そうするか。」 「んじゃ行こうぜ。」 「だけど2人の飲酒は許しません!」 「「え〜」」 「ノウンさん、席の確保さんきゅ」 「そんな大変な事でもないですし、気にしないで下さい。」 ビアガーデンに到着し、席を確保していてくれたノウンさんに感謝を述べつつ、席に座る。 「ええと、メニューは…」 「マスター、ビール三つにオレンジジュース二つ、あと適当につまみを頼む。」 俺等がメニュー見る暇も無く、クラウスさんが即効注文する。 「最初の一杯はさっさと頼んどかないとな。ほら、そろそろ時間だ。」 櫓の方を見ると、もう数分で火が入る時間だった。 確かにゆっくり注文している暇はなさそうだ。 そうこうしていると、頼んだ品々が到着する。 どうやら火が入る時間には間に合ったみたいだ。 ゴーン 遠くから鐘を突く音が聞こえ、それを待っていたかのように櫓に火が投下される。 夜空には元の世界ではお目にかかれない程に、たくさんの星が輝いている。 その星以上に輝く月の下、四方から放たれた火が櫓を巡り、赤く染まる。 火の粉がまるで天に昇るかのように空へと上がり、消えてゆく。 それはまるで、月夜花事件で巻き込まれて亡くなった人達や、討伐された月夜花達の魂が天へ昇っていく様にも見えた。 ―魂の昇天 そんな言葉を連想するのに、時間はかからなかった。 月夜花事件で失われた少なくない命が、迷わず成仏できる事を祈らずにはいられなかった。 それと同時にふと疑問が浮かぶ。  ―死んだ人の魂があの世に行くのと、俺の様な異邦人が元の世界に帰るのって、違いがあるのかな。   魂だけの存在には違いないのに、肉体があるかどうかの違いなのかな?   けれど死んで必ず戻れるという訳でもなさそうだ。   …情報がまだ足りないな。少なくともこの鎮魂祭では俺は帰れないらしい― 俺は考察をそこで止めた。 それと同時に、まだ誰も乾杯していない事に気付く。 「ほらクラウスさん、乾杯の音頭を」 「…えっ、俺がっ?。じゃあみんなグラスを手にとって…、乾杯!」 「「「「「乾杯〜!!!」」」」」