「クラウスさん、貴方はこの町を復興させに来たのでしょう?壊しに来たんじゃなくて。」  はぁ、その通りであります。俺は頭を掻きながら首を垂れ、一言も返すことはできなかった。 ついに酒で失敗してしまったか。この前、俺が飲みすぎないように気を遣ってくれたローウィンの姐さんを思い出す。 本当に、合わす顔がねぇ。帰った先で、お元気にしているだろうか? 「普通なら軍法会議くらいは免れないところだわ。でも、良かったわねぇ。宿の主が、話の分かる方で。」 え?それはどういう事ですか? 重い処分があるとばかり思い込んでいた俺は、首をかしげる。 「貴方はここにいる間、色々と騒ぎを起こしてくれたけど…終始、この町を助けようとしてくれたのも、また事実よ。宿の主も そこを買ってくれて、お店の手伝いをしてくれれば今度の一件は水に流して下さるって。さあ、早く宿へお行きなさい。」  ローズマリーさんに追い立てられるようにして、俺は診療所を後にビアガーデンへ向かう。 「店長、昨晩は申し訳ありませんでした。皿洗いでもトイレ掃除でも、何なりとお申し付け下さい。」 「よく来たな!でも店の中で手伝ってもらうことはないよ。昨日、誰かさんが盛大に壊してくれたおかげで、あんまりお客を 入れられねぇんだ。」 うう、耳が痛ぇ。いよいよ神妙になっている俺の顔を見ながら、店長は言葉を継ぐ。 「けどな、だからといって売り上げを落としてる場合じゃねぇんだ。お前さんには、屋台を引いて外を回ってもらう。でも、 ただ屋台を引いただけじゃ、まだ残って祭りの最後の客を狙ってる商人の連中には、敵わねぇ。せめて、人の目を引くためにも あれを着てもらうぜ。」  店主と一緒に視線を移した俺は、思わず我が目を疑った。ワイルドローズを彷彿とさせるような、衣装がハンガーにかかっている。 体の部分こそ着ぐるみだが、頭は黒いネコ耳のヘアバンドになっている。尻尾はもちろん、首の鈴どころか背中で結ぶリボンまで 再現されているじゃないか。うわぁ、いっその事、ニャン○げみたいに顔もすっかり覆われていれば、恥ずかしさも薄れたろうに…。 衣装を着込み、顔を赤らめている俺を見て、店長はご満悦だ。 「はっはっは!似合うじゃねぇか!これなら小さな子供さえ、喜んで屋台に来てくれるだろうよ。」  そうですかねぇ…。普段の俺は甲冑に身を固めていて、営業スマイルよりは仏頂面の方が似合ってそうな感じだ。鏡に映る俺の姿は、 可愛らしさよりも無駄な威圧感を放っているように見えなくもない。 「なぁに!そのうち、衣装も板につくさ。さぁ、も行ってくれ。」  一抹の不安を抱えながら、俺は軽食を満載した屋台を引いて、慣れない商売に向かう。まぁ、この本業不詳な格好ならば、一目であの 人騒がせなクルセだと分からなくて良いかも知れない。クルセ隊にあまり恥をかかせないように、あの店長なりに気を配ってくれたんだ ろうな。そういえば、ノウンやルクスさん達は、どんなペナを課せられているのかな? ルーシエやグレン、エルミドにでも会って 笑ってもらえれば、返って気持ちが軽くなるかも知れん。そんな風に、仲間たちのことを思い浮かべながら、俺は人混みの方へと歩いて いった。