〜暗殺者の洗脳術(無自覚)〜 <<登場人物>> ・リエッタ・・・悪女。 ・ローウィン・・・♀AX。いんry <<備考>> 宿の朝からローウィンが風邪引いてダウンするあたりまで。 ***************************************** ■リエッタSIDE・・・  小鳥のさえずりが耳に届く。朝の日差しが柔らかく顔を打ち、俺は目を開く。  朝か。昨日はやっちまったぜまったく。酒を知らんとはこの世の楽しみの半分も……?  寝息が二つあることに気がつき、視線をずらすと、毛布から緑のハネ毛が飛び出ていた。  恐る恐るめくってみると、清らかな乙女の顔が現れた。 「おかしいな。飯盛り女なんぞたのんだか?いやそれ以前に宿に入った覚えが……」 「う、うーん、枕、枕が逃げる……」  なにか聞こえたと思った。毛布の下から彼女の腕が伸びてきて俺はがっちり捕らえられた。 「おふぉ!ふ、ふくよか……じゃない!何しやがんでえ、起きろ!」  ほお擦りする彼女の頭を一発ゴツンとやる。痛みに悶える彼女を尻目に起き上がる俺。 「いたた……な、なにおしゅるきさまー」  寝ぼけたまま起き上がった彼女は、緩慢なそれでいて流れるような動きで俺の懐に滑り込み首 元へ鈍い音を響かせ両手を突きつけた。何処から取り出したのか、その手には手甲剣(カタール)。  姿を見て驚愕する俺。アサシンクロスじゃねえか!殺される!! 「ふ、ふふふふりーず!刃物は、刃物はやめてっ!!」  両方の脈の上を行く刃に、痛い記憶が呼び覚まされ半泣きになって懇願する。 「あ。おはよう231ことリエッタ」  刃を収めたアサXは俺の名を呼んだ。数字の羅列に、酒場に呼び出した人のことを思い出した。 「あ、酒場から俺を?いやぁ、ごめんごめんありがとう!233ことインリン様」 「……」  複雑な表情をする233。禁句だったのだろうかと思い、手甲剣が再びひるがえるのではないかとド キドキした。 ***************************************** ■ローウィンSIDE・・・  さすがにインリン呼ばわりは勘弁してもらいたいので、自己紹介をすることにした。  リエッタに座るように促すと、椅子に座りこんだ。  私はベッドに腰を下ろしている。 「私はローウィン。攻城戦を主眼としたタイプのアサシンクロスだ。 覚えにくかったらラビと呼んでくれ て構わない」  攻城戦の言葉に反応し、リエッタの体が少し震えたように見えた。  なので、ちょっとだけ補足しておく。 「ああ、攻城戦タイプとはいってもゲーム内の時はそうだった、というだけだからな。 ここでは人をあ やめたりなどということはしない」 「あ、ああ・・・」  まだ少し落ち着かないようなので、とっておきの方法を試してみる。  私はカタールを部屋の隅に投げ、ベッドの上で胡坐をかきながら手招きをした。 「ほら、ちょっと来てみ?」 「な、なんだよ」  リエッタはまだ警戒心混じりなのか、慎重に近づいてきた。  リエッタが、自分の手が届く位置に来た瞬間に軽く手を引っ張り 体を半回転させるようにして、膝の 上に座らせ──抱っこ&なでなで。抱きついてるけど。 「ほーら抱っこだよーかわいいねーなでなでだよー」  ・・・あ、顔が一気に真っ赤になった。 「・・・ば、ば、馬鹿なにしやがる!?」  腕の中で暴れるリエッタ。  ああ、この反応マジで可愛い。でも今はこれが目的じゃない。 「落ち着いたか?」 「!……」  どうやらとりあえず落ち着いてくれたらしい。 「・・・で、この後どうするんだ?」 ***************************************** ■リエッタSIDE・・・  と、いうわけでお姫様抱っこで愛でられている俺。  当然、落ち着くどころか大混乱だ!  これは、なんと言うか凄まじい。貧相なリエッタとは破壊力が違いすぎる。  さすがはイnじゃなくて転生職。  ぎゅうぎゅうと俺を捕らえる腕は力強くあるもののしなやかだ。はさみこむように砲弾の如く圧力をか けてくる二の腕付近の物体ABと香油が香るその肢体に、口を塞がれているわけでもないのに窒息寸 前になる。  お、おそるべしローウィン。三点のプロポーションもパーフェクトだが、女体であるはずの俺の頭をもク ラクラさせるほどの色香を放つとは。 「……どうしたリエッタ?」  自分の身体の破壊力を自覚していないのか、ローウィンはキョトンとしている。  モロク数千年の媚技と天然キャラが混在するそのミスマッチはまさに凶器。 「な、なんでもありません……お姉さま」  母乳に洗脳されたレスラー達のように何事か口走る。  そのまま鼻血を吹きながらローウィンの腕の中で失神した。 「お、おい!リエッターーー!!」  遠く、ローウィンの声が聞こえたような気がした。 ***************************************** ■ローウィンSIDE・・・  リエッタを落ち着かせようとしたら逆に興奮させてしまったようで、のぼせて倒れてしまった。  いったい何がいけなかったんだろう。  それに倒れ際になんかつぶやいていたような…  まずは手当てを優先させる事にする。  とりあえず風呂場から2枚ほどタオルを拝借し、水で濡らしたあとに絞る。  片方で鼻血をふき取ってやり、もう片方で目と鼻周りを冷やしてやることにした。  宿屋の人にはあとで謝っておこう。  フロントで、延長申請を行う。5日分もあれば十分だろう。  料金を先払いしておく。  金に余裕がないわけじゃないけど、そろそろ資金調達の方法も考えておかないとな。  リエッタが目を覚ますまで離れるわけにはいかないので、本棚に目を向けてみる。  料理の本、ポーション製造書、世紀末カプラ伝説…  …本当にあったのか。これ。  とりあえず料理に興味があったので料理本をパラパラと眺めていると、リエッタが意識を取り戻したらしい。  声をかけてみる。 「大丈夫?リエッタ・・・のぼせてたみたいだけど・・・」 「はい・・・心配かけました、お姉さま」  ・・・お姉さま?  姉御属性 1 個獲得 ***************************************** ■リエッタSIDE・・・ 「はい、心配をかけました。お姉さま」  いまだに洗脳されている事実に驚愕する俺。  対するローウィンは微妙な顔をしている。  お、おかしいぞ。俺は悪女になるべくDQNっぽい口調ですごしていたはず。  いや、まてまて。こうじゃなくてだな。俺はこんな言い方しねえよ、と口にすると。 「いえ、あのその。ち、ちがうんですこれは。アタシはこんな言い方では!」  頭を抱えて羞恥に悶える俺。うげ、気持ちわりい。 「ま、まあいいんじゃないの?可愛いし」  ばっ、馬鹿野郎てめえ!俺は中身男だっての、が。 「な、なにをおっしゃって!アタシは、中身が……その、殿方で」  デレ率入っちまった。頭痛くなってきた俺はドアの方へくるりと向きを変えた。 「出かけるの?」 「はい。ちょっと頭を冷しに。すぐ戻りますお姉さま」 「いってらっしゃい」  ローウィンに送り出され、階下に下りた俺は、自分の宿泊金額を払い、払い戻しをローウィンに 届けるように言いつけた。  財布を見る。路銀が心もとなくなってきた、と思った。  ついでに飲物を頼んで一息つき、言語機能を正常にするべく発声練習をする。  フロントの姉ちゃんに怪訝な顔をされてしまった。 ----------  怪訝な顔をした旅館ネンカラスの女将。 「お、お客様。どうなさいました?」 「い、いえ。その、風邪……かな」  とりあえず取り繕う俺。 「はぁ。それはそうと、朝食のご用意が」 「すいません。では持って上がります」 「少々おまちを」  トレイには二人分の飯。パンとミルクとベーコンエッグ。少々のサラダだ。  うーん。1泊5000zenyで食事付。プロの一等地に建ってるくせにやすいぞネンカラス。もっと取っ てもいいぜこれは。  とはいえ、財布がとても軽くなった。求人でも探すかと思いながら、部屋の前まで戻ってきた。 「おーい、ローウィン。飯だ飯!開けてくれ」 ---------  朝飯もって帰ってみると、ローウィンがぶっ倒れていた。 「おい!ローウィンしっかりしろ!」  デコに手を当てると非常に熱い。慌てて下へ降り、女将を呼んで医者をと頼んだ。  幸いなことに、牛乳好きの医者が未だに滞在していた。 「この赤と青の薬を交互に飲ませてください。では」  おいおい、ミイラと一緒でいいのかよ。  兎にも角にも薬を飲んで落ち着いたのかローウィンは眠りについた。  くんずほぐれつとは言え、毛布一枚で寝てたのがまずかったのだろう。  俺が風邪をひいていないのはきっと阿呆だからだな。うん。助かったぜ。  今のでなけなしの路銀が尽きた俺。  デコに乗せたタオルを代えながら、狩りへ行く準備を始める。  得物は角弓。一見原始的に見える。だが、北欧神話において動物の角は強力な武器の一つだ。 言葉では説明できない凄みを、年季の入ったツヤから感じ取った。矢筒を確認した。引き出した矢は 錆防止の油にぬめり、矢尻は鋭い。  さて、279を見習って魚介類でもやりに行くか。途中で278にも会うかもしれないしな。 ***************************************** ■ローウィンSIDE・・・  気がついたら布団で寝ていた。  頭を冷やすといって出て行ったリエッタを見送って…その後から記憶がない。  この後どうしようかな…と外を見に行こうとしたような気はする。  倒れたのか…。  いつの間にかピンクの寝巻きを着せられていた。これは誰の趣味なんだろう。  おでこにひんやりとした感触が。これもまたピンク色のタオル。  リエッタがやってくれたのかな。後で礼を言わないと。  着替えさせられていたということは、いつの間にか脱がされたということだけど…(今は)女同士だし、 いいよね。  窓に目をやると、カーテン越しに日が差し込んできている。  まだ日が高いことがわかる。  まだ体は動きそうにない。もう少し眠ることにする。