その夜のことだった。  日も暮れて晴れてワイリーちゃんの呪縛から解き放たれた暴走特急各駅停車なクラウス(まぁ、各駅停車なのは私か如月が ”問答無用”で止めるからな訳だが)と如月、レナに私の4人で食事を取るために食堂へ向かったときのことだ。  一応は宿を元にした施設なので食堂もあれば各自部屋で調理することもできるわけだが、なんだかんだと予期せぬ事態の 連続にかったるくなった私は料理をすることを拒否して食堂で食事をすることにしたのである。  だが、人の目が気になってしょうがない。おへそ丸出しとかはずかしいことこの上ないわけで・・・。  食堂ではルクスとフリージアがすでに着席して食事を摂っていた。私達は食事を受け取ると二人に対面になるように腰掛ける。  クラウスは"/?"といった顔で『なぜその席なのか』と言わんばかりだが、美女二人(?)を前に少し緊張しているようにも見える。 「やぁ、元気そうだなひかるちゃん。」 「ん、あんただれd・・・いてぇ!!!」  ルクスに向かってフリージアが肘鉄を入れている。ありゃ痛そうだ・・・。 「ひかるちゃん、言葉遣いには気をつけましょうね?」 「も・・・申し訳ございませんお嬢様。しかし私にはブラックスミスの知り合いはいないのですが?」  あぁ、そうだっけ。今私はBSの服を着せられているんだった。たとえ戦闘を行ってもソドメ振るって戦う姿はBSそのものかもしれな いな。ARとかは使えないがステータス的にはAGI戦闘BSとあまり大差はない。 「イヤだわひかるちゃん。あの日の事を忘れるなんて・・・。初めてだったのに・・・。」  びくりとするルクスがなんだか可愛いぞ?  あぁ、ちなみに初めてって言うのは狼から帽子が出たことだ。持ってるのは露店で買ったやつだからな。 「ママー、初めてってどういう意味?」 「おねえちゃん・・・いったい何があったの?!」  隣でそんな言葉を聴いた如月が激昂し、意味の分からないレナはぽけーっとしている。 「ん?如月さん今おねえちゃんって言った?」 「そんなことより初めてって何だよ!答えろごるぁあああ!!!」  このままだと掴み掛かりそうだったのでココでネタばらし。 「なんですか。誰かと思ったらルーシエさんだったのですね。紛らわしい。っていうかなんでそんな格好してるんですか。」  上品にスープを口に運びながらひかるちゃんことルクスが尋ねてくる。 「あぁ、マリーさんからのばつg・・・指示でね。」 「ルーシエさんもペナルティ?何をしたんですか?」  不思議そうにするフリージアに私は昨日あの場所に行った事を話してやる。これも連帯責任ってやつらしいからね。 「だったら止めてくれればよかったのに。」 「あんな状態のルクスになんて近づきたくない。ゼロ距離射撃されたらニュマだって無効化されるんだぞ?」  実際銃奇兵の火属性攻撃は近接してるとニュマ貫通されるしな。ゲームではだけどこっちならもっと明確に実証できそうだ。  クラウスは相変わらず気付いていないらしい。これはコレで面白そうなので放っておこう。 「ルーシエの同僚の方ですか?」 「この人はシアお嬢様とその従者のひかるちゃんといってマリーさんの知り合いだ。昼間に偶然会って話をしてたんだ。」 「あぁ、あの時の・・・」  私に意識を刈り取られる直前の記憶を辿っているのかひとり納得するクラウス。  ひかるちゃんと紹介されてまた顔をしかめるルクスだが、バレるのは嫌なのだろう。すぐに挨拶を返した。  声で気付いたのか如月は笑いを堪えているようで、商人姿のレナが可愛いのかすでに顔見知りのフリージアはレナに向けて 微笑んでいる。 「しかし何でこんな格好させるかね。嫌がらせ?」  ついつい本音がこぼれてしまう。しかし、ソレを聞いたルクスの返した言葉に愕然とした。 「私達の格好を見た患者さんの反応を見ているようですね。普段出入りしない人間・・・つまり今の私達のような人を見たとき 患者さんはどういう反応をするのか。それをメンタルケアがどこまで進んでいるのかのバロメータにしているのでしょう。」  てっきりただの趣味や嫌がらせとしか思ってなかった私は改めてマリーさんのプロフェッサーとしての顔を思い出さざるをえな かった。確かに深い傷を抱えたままならばまわりを見る余裕などない。それが出来るという事は少しでも余裕が生まれている証 拠になる。カウンセリングで踏み込めない領域なのかもしれない。  マリーさん、恐れ入ったよ。だからってこれはちょっとこちらの精神がきついぞ。  そんな話をしつつ食事をしていると威勢の良い声が食堂に響く。 「おばちゃん!おかわり!!!」 「おやおや、よく食べるねアンタ。喰いっぷりがいい子は好きだよ!」  そちらを見ればクラウスと同じ髪型の剣士が3杯目のご飯をおかわりするところだった。 「あいつは!!!」  何かに気付いたのかクラウスの顔が聖騎士の顔に変わると勢いよく席から立ち上がった。 「ストーカーめ!ここであったが百年目!今日こそお縄だ!!」 「げっ!お前はあの時の!」  大げさに驚く剣士を尻目に、私はクラウスを鷲掴みにすると力ずくで席に着席させて笑顔を作って 「食事中は静かにしようねわいりーちゃん。レナもいるんだから。」  と、脅しておく。確かにあの剣士は見覚えがなくもないがこのままだとクラウスが食事中に乱闘を始めかねないのでそこは放っておこう。 「このバカの事は気にせずに食事を続けてね。皆さん、ご迷惑をおかけしましたー。」  こういうとき美人は有利だよなー。我ながら惚れ惚れするぜ。やってることはエレガントとは言えないが。  ト○ーズ=シュク○ナーダ閣下が見たらきっと怒られる。 『レナの教育上悪いからちゃんと座って食事しろ!』  私はクラウスにwisを送りつつ座って食事に戻ることにする。剣士のほうはホッと胸をなでおろすとまた食事を豪快に食べ始めた。 相方と思われるシーフ君の顔色が悪い気がするがクラウスの突然の怒鳴り声に驚いただけだろう。まだ体調が万全に戻っていない 患者なのかもしれない。  気付くとスプーンを持ったままレナが船を漕いでいた。まだ寝たりないらしい。  残った分の食事を食べ終えると私は目を擦るレナを背負う。家があるのに寝る場所までここに世話になるわけにもいかないだろう。 そういえばフェイヨンを発つとエルミドからwisが届いたのを忘れていた。そうなるとあの部屋には如月1人になるのか・・・。いや、エル ミドと2人きりになるよりは1人のほうがいいだろうけど。 「如月も一緒にうちにくる?」  私が問うと如月は少し悩んだあと 「家族水入らずのところにお邪魔できないから、ここに泊めてもらう。」  と告げた。そんな捨てられた子犬のような目で見つめないで・・・。罪悪感がこみ上げてくる。中身男でも今ここでは私の妹になってい るんだから。  レナが背中で寝息を立てていることを確認すると私は小声で如月にwisを飛ばす。 『この子を寝かせたら1度戻ってくるね。この子の事、ちゃんと説明しておきたいから。』  私はそう呟くとその足で帰路についた。羽根のように軽いレナのぬくもりと寝息に癒されつつ、なぜこの世界に来ているのかを考える ことを先送りにして、この空の下でアイツは今頃何をやっているのだろうと考えているうちにいつの間にやらたどり着いた部屋のドアを ゆっくりと開けた。