空き瓶を小さな袋に細かく分けたり、雑多に詰められていた荷物を整理したりと頑張っては見たけれど、またまだ倉庫整理には時間がかかりそうだ。 時間的にそろそろお昼になる頃だし、区切りが良い所で作業を中断し、昼食の為に食堂に向かう事にする。 「ん?あれは・・・」 その途中、窓の外を見つめているボブカットの女剣士が目に入る。 女剣士に知り合いはいないけど、何処かで見たような? 確か先日、廊下ですれ違った事があった気がする…。 けれど、こんな所で一体何を見ているのだろうか? 少々興味が沸き、少し考えてみるが、ここらの窓から見えるのは裏庭しかない。 埒が明かない為、聞いてみる事にする。 「あの…、何を見ているのですか?」 「えっ!?」 女剣士はびくっとしながら半歩ほど飛びのいた。 反応を見る限り、俺が近づいていた事にも気付いていなかったようだ。 「ああ、申し送れました。私は『ひかる』と申します。以後『ひかるちゃん』と気軽におよび下さいませ。」 「えっ、あっ、わっ私はノ…ノーラと言います。」 驚いて焦っているいる為か、しどろもどろになりながら答えてくれる。 それとも人見知りするタイプなのだろうか? 「あの、それで私に何か御用でしょうか?」 おっと、本題を忘れる所だった。 「はい、たまたま此処を通りがかった所、何かを熱心に見ていたのが気になって声をかけました。」 「そういう事でしたか。外を見れば判りますよ。」 そう言い、ノーラさんは窓の外を向く。 俺も窓の外を見てみると、そこには素振りや的当て、筋トレやらを行う冒険者…この医療所の御世話になっていた患者達の修練風景だった。 少々聞いた事がある。 怪我をしたアスリートが怪我から回復後、元と同じ身体能力を取り戻す為には、途方もない時間と努力が必要だ、と。 この世界では回復魔法がある為、大怪我を負っても即座に治療が出来、かつ治癒速度も何倍にも高める事が出来る。 しかしそれは、怪我する前と同じ状態に戻る訳ではないのだろう。 長期入院による筋力低下があまり無いとは言え、完全に元と同じ様に動く為には時間と努力がかかってしまうのだろう。 この風景を見ていると、そう思えてくる。 「皆さん頑張っていますよね。私も冒険者として頑張らなければ…そう思いながら見ていました。」 「そうですね、私もそう思います。」 俺も同じ様に思い、素直に相槌を打つ。 誰かが頑張っている様子を見ていると、自分も頑張らないといけないなと感じてしまう。 努力を重ねる事で人は実力を付け、それと共に自信を付ける結果になる。  ―そういう意味では、俺がこの世界に着て使っていた力、   「ルクス」が身に付けた力を使っていることは理に反するな― フェイヨン迷いの森でさすらい狼相手に力を使っていた時は気にもしなかったが、今思うとかなり危険な橋を渡っていたんだな。 一歩間違えればフェイヨン地下寺院の時見たく、我を忘れて暴走してしまったかもしれない…。 「俺も一度、基礎を見つめなおあないといけないな(ボソッ」 「え?」 「ああいえ、何でもないです。気にしないでください。」 あぶないあぶない、うっかりノーラさんが居る事を失念していたぜ。 「さて、私はそろそろ行きますね。ノーラさんはどうします?」 「私はもう少し、この光景を見ています。」 「そうですか、それでは失礼します。」 この後、食堂で食事をとり、午後はまた倉庫整理に戻るのであった。