さくさくと草原を歩いていると、やがてその足音に水気が増してくる。 視界も段々と悪くなり、周りで跳ねるポリンの色が毒々しい緑へと変貌していった。 『昨日まで連れ添ってた魔物に対してその言い様はちょっとひどいんやない?』 隣から声をかけてきたのは赤い帽子に、古い札を貼り付けた少女…の亡霊、のそのまた魂? ややこしい。まあゾンビも似たようなものだけど。 『………』 と言われると、ムナックはむすっと黙りこくった。 ちょっと申し訳なくなったが君の反応も十分ひどくないか? 『コホン、ともかくここがノビくんの言ってた場所なんよね?』 そう。現在俺は先日イズで会ったノビくんの話を聞き、プロから西、ゲフェンから南東の湿原に来ていた。 どうもここで謎のトード大量発生があったらしく、フェイでの一件と関係があるかどうか調査をしに訪れたのだ。 『見た感じ、もうおらんようになってるかな』 ムナックは辺りをキョロキョロと見渡す。確かに、大量どころか一匹たりと見当たらない。 もともと時間沸きの魔物なのでそれが当然なのだろうが…。 時間も経っているし誰かが掃討したとすれば、どう調査をしたものか分からないな。 『ニイさん!あっこ誰か立ってるけど』 ムナックが指した方向を見ると霧がかった湿地に人影が一つある。 普通の冒険者じゃないか?と思ったがその服装はあまり見慣れたものではなかった。 白いブラウスとプリーツスカート。腕には腕章をしている。 俯いたままのその女性はこちらに気づくことも無くただ黙って立っていた。 『あれって…』 ゲームでも会ったことはないが見覚えがある。GMだ。 普通の巡回か、はたまた今回の異変の調査か…。 しばらくそのまま様子を見ているとGMは突然顔を挙げてこちらを向いた。 それから間も空けず、途中水溜りがあるのも気にせずつかつかと歩いてくる 彼女の顔は全くの無表情だった。 マズい。 「テレポ<ワープできないマップです>」 …!? そうだっけここって?普通の平原なのに? 慌てて鈍器を取ろうとするが、相手が俺の首に手をかける方が早かった。 間近に見えるGMの目には一点の光も宿っていない。死んだ目、というやつだ。 ピタリと静止した空間。 指先一つ動かせないまま俺はただ、微かに動く彼女の唇に視線をやるしかなかった。 「ガンホー ガンバッテマス」 ------------------------------------------------------------------ 雨の滴る音で目が覚めたら、そこは自室のベッドの上だった。 起き上がって徐に携帯を開けて日付と時刻を見てみると、”昨日”寝てから翌日の正午12時。大寝坊だ。 ふと扉側にあるPCのモニターが白く光っているのに気づいた。 なんだ、点けたまま寝ていたのか。のそのそと布団から這い出して PCを覗いてみると、画面にはROのアカウントページの窓が一つだけ映っていた。 アカウントは男垢、キャラは一名、Lvの中途半端なプリースト。 見ているページには、何一つ表示されていなかった。 再び携帯を開けて日時を確認した。 そうか。 「課金しなくなってから――ヶ月経ったのか」