フェイヨンからの撤退も無事に終え、俺は元スタッフに同行して王都プロンテラまで着ていた。 結局殆どのスタッフがプロンテラまで戻る事を選択しており、フェイヨンで判れたのは数人程度だ。 また、俺やルーシエさんといったコスプレ縛り?をされていた面々も今日からは普段の服装に戻っている。 あとこれは余談ではあるが、あの2人…シィドとベイルは治療後に駐屯所での尋問を受ける事となったそうな。 ただ事が未遂だったという事もあり、そこまできつい処罰はされないだろうとクラウスさんから聞いている。 …もっともクラウスさんは昨日まで2人が既にお縄についていた事すら知らなかったらしく、釈然としない表情ではあるが。 プロンテラまでの移動に使ったのは無論ワープポータル。 空間を越え、場所と場所を繋ぐこの魔法の凄さには流石に驚かされた。 最も、その様子を見ていた皆には笑われたが、本当に驚いたのだから致し方あるまい。 RO中では馴染み深いポタも、目の前で魔方陣が形成されていく様を見て、実際に目的地まで飛ぶという体験をしてみればわかるだろう。 知識と経験は、必ずしもイコールとは限らないのである。 既に手配していた宿屋にチェックインした俺たちは、夜まで自由行動となった。 というのも、マリーさんを初め幹部クラスは、これから王宮に上がり今回の件の報告を行わなければならないからだ。 また、ルーシエさんは大聖堂に、クラウスさんはクルセイダーの詰め所にそれぞれ報告に向かうそうだ。 ちなみに自由行動が夜までなのは、打ち上げ(宴会)があるから必ず時間までには帰ってこいとのマリーさんの命令が出ているからだ。 これで一分一秒でも遅れようものなら…ガクガクブルブル 俺はする事が無いので、街に出て少しでも情報を集める事にした。 何の情報かって?それは勿論この世界のだ。 俺はまだこの世界に来てから日が浅い。 いくらフェイヨンで本やら雑誌やらに目を通していても、大都会であるプロンテラにはかなうまい。 元の世界に帰る方法を見つけるよりも、まずはこの世界で生き延びる術を身に付けなければなるまい。 俺が身支度を整え、外に出ようとするとフリージアに声をかけられた。 「お買い物ですか?それなら私も行きます。  こう見えてもプロンテラの街には詳しいんですよ。」 (無い)胸を張ってフリージアが答える。 大本を辿ればアコライトは大聖堂にたどり着く、ならばプロンテラの街も知っていておかしくはない。 「じゃあ、お願いできるかな?」 「はい!」 願わくば、今日だけは道に迷いませんように…。 プロンテラ正門から噴水がある中央広間までの通称『プロンテラ中央通り』を俺達は並んで歩いている。 判っているとは思うが、俺はガンスリンガーの服装だしフリージアもアコライトの服装である。そこを間違えないように。 「すごいな…ここまで露店が並んでいるのか。」 「中央通りはプロンテラの玄関口ですからね。  商人たちもそれが判っているから自然と集まってきます。」 フリージアが言ったとおり、中央の道路を挟んで露店が所狭しと並んでいる光景は、ある意味圧巻である。 並んでいる露店を見ていくと、一般向けの野菜や魚をメインに取り扱っている所から、武具を専門に扱っている店もある。 中にはアマツのお寿司やコンロンの小包子、他にもアイスクリームやホットケーキを出している店も窺える。 「凄いな…、古今東西問わずいろいろな物が並んでいるんだな。」 「プロンテラに集まらない物は無い、といっても過言じゃあないですからね。」 自信満々に答えるフリージア。 そんな感じで露店を見回っている時だった。 「あれ〜?シアちゃんにルクスさんではないですか。」 声をかけられた方向、そこの露店に書かれている文字は「チーズケーキ」とくれば…。 「エリーちゃん、お久しぶり!」 手を取り合って喜ぶ二人。 鎮魂祭の時に会ったチーズケーキ職人…ではなくアルケミストのエリシア(通称エリー)さんだった。 俺たちはエリーさんの店で少し休憩する事にした。 「お2人でデートですか?何時プロンテラへ?」 「べっ別にデートという訳じゃあないんだけど、唯の露店巡りだよ。  フェイヨンの臨時医療所を撤退してプロンテラに着たばかりですよ。」 本人達が意識していなくても、傍から見たらそう見えるのだろうか? 「エリーちゃんはプロンテラで資金稼ぎ?」 「うん、もう少し留まってお金稼いだら別な街に行ってみようと思うの。ルクスさんはどうするんですか?」 「俺!?そうだな…。もう少しプロンテラに滞在して、その後は一度ガンスリンガーギルドに戻ってみようと考えている。」 「アインブロックですか、それはまた遠い所ですね。」 「そうなるね。けど飛行船でジュノー経由して行こうかと思ってる。」 ROの知識がそのまま通用するなら、このルートで大丈夫な筈。 しかし、エリーさんの一言でこのルートは使えない事が判明する。 「あ〜、飛行船は無理ですね。」 「え、どうして?」 「飛行船は事故があったため、イズルード−ジュノー間の運行は当面運休らしいですよ。」 「マジ!?」 「はい。その為ジュノーやラヘルに行く筈だった人達が色々苦労しているみたいです。」 「ルクスさん、どうするんですか?」 フリージアが心配そうに見てくる。 「アルテバラン方面からのルートも考えないといけないかな、まあなんとかなるさ。  事前にジュノー行きの飛行船が使えないって情報が手に入った事を幸運だと思わないとな。」 「良い考え方です。それならもう一つ情報を差し上げましょう。  プロンテラに滞在するのでしたら、暇なら図書館に行くのをオススメしますよ。  ジュノー程ではありませんが、ここの図書館も結構な書物が納められていますから。」 「貴重な情報ありがとう。」 図書館か、時間を見つけて行く事にしよう。 その後、エリーさんの露店で時間を潰し、宿に戻るのであった。 そして俺は今日の宴会で鎮魂祭の時みたいに飲みすぎたりしないと、ひそかに心に誓うのであった。