■ルーシエ、プロンテラ編02 ******************************************************** 「はぁ・・・今日も収穫なし、かぁ・・・。」  臨時広場に出向いては見たものの今日も今日とて収穫はゼロだった。  アイツ、今どこで何をしてるんだろうか。  ある程度お金は持っていたはずだし、戦闘職だから戦いに慣れてしまえばその日の食事と寝床には困らないくらいは稼げるだろう。  とはいえ、中身は女の子なんだからあんまり無理はしてほしくないというのが男から見た本音である。  余計なおせっかいだったり男女差別だと思われても仕方ないが、本当に心配なのだ。  今はお前ら性別逆転してるだろとか突っ込んじゃ負け。 「ん、ルーシエじゃねーか。珍しいな、娘連れで臨時広場に出てくるなんて。」  レナと二人でベンチに腰掛け休憩しているとペコを連れた一人の♂騎士が話しかけてきた。騎乗はしていない。  えっと・・・誰だこいつ。 「えっとー・・・どちらさまでしょうか?」 「何言ってんだ!俺だよ俺!」 「俺俺詐欺はご退場願いたいんですけど。」 「だー!こいつは!!レナ、お前のかあちゃんどうしちまったんだ?!」 「ゼフュおじさんあんまりママをいじめちゃダメだよ?ママ、今病気なんだから。」 「いじめられてるのはこっちな気がするんだけどな?ていうかおじさんはやめろ。お兄さんだと何度言えばわか・・・・って、 なんだってええええええ!!!!」  無駄にノリがいいなこの人。レナとは知り合いみたいだがルーシエとも知り合いなんだろうか。  ゼフュ・・・どこかで聞いたことがあるような・・・。 「病気だって!?まさかクリムと同じ・・・!」 「うん・・・。」  クリムというのはいまさらだがうちの旦那の名前だ。 「てことはまさかあれか。今巷で流行ってるなんかいろいろ忘れちまう病気か。」     流行ってるのか。確かにマリーさんの話とリアル組みが多くいるらしいという現状からそういううわさが流れても不思議じゃない・・・が。 「うちの兄貴に続いてルーシエまで・・・。レナ・・・お前も苦労するな・・・。」 「いいんだよ。パパもママも私のことは忘れてなかったもん!」 「くーーーー。いい子だなぁ。もういっそうちの子になれ!いや、俺まだ未婚だから嫁になれ!」 「お嫁になんかいかないもーん。」  なんかすごい性格してんなこいつ。私の娘に求婚するとはいい度胸だ。 「どこの誰か知らないが子供相手に求婚か、このロリコン野郎があああ!!!」 「ちょwwwストップwww落ち着けルーシエ!冗談だ、冗談!!」  GXを構え、ゆらりと立ち上がる私を両手で制してゼフュは笑みを浮かべた。 「まぁ、忘れてんなら一応自己紹介しとくぜ。お前の旦那、クリムの双子の弟のゼフュロスだ。」  ・・・あ、思い出した。私と時間が合わないときに時々やってるって言ってたサブキャラの名前だ。  いつも基本的にはルーシエとクリムで行動するから名前忘れてた。  この世界では兄弟ってことになっているらしい。双子なのは同じ垢、同じ容姿だからか?  それともアイツの自己キャラ設定なのだろうか。  あいつとはなんか雰囲気が違いすぎてこちらにはこちらの人格があるというのを改めて実感させられる。 「名前だけでも思い出してくれたなら今はそれでいい。二人もクリムを探してるってとこだろ?」 「えぇ、今のところ収穫はないけどね。」  最近のことだけを思い返しても素っ気無い答えが返ってくるばかりで情報は何も得てはいない。  本当に生きているのかすら不安になってくる。 「俺も探しちゃいるんだけどな。俺の行く狩場では会わないんだ。っていっても、一人で出歩くならいけるとこは限られるはずなんだ けどな。あいつも。」  自分を高めようとレベルを上げている可能性もあるが、私たちには元の世界に戻るという前提がある以上無理はしないと信じたい。  ヴァルキリーに会い、転生すればあるいはという可能性はあるがこちらでレベルを上げる事は正直厳しいと言わざるを得ない。  感覚を伴うこの世界での狩りには覚悟が必要ということは分かっている。月夜花と対峙したときの恐怖は今でも思い出すだけで 悪寒が走るくらいだ。身分相応の狩場に向かえばそれは容赦なく壁となって立ちはだかるだろう。  ただ、転生が無理とは言わない。その日を生きるための狩りを続ければ何れは転生も見えるだろう。多大な時間さえかければ。 「まぁ、アイツのことが何か分かったら俺のほうからも連絡をいれるよ。」 「よろしくお願いするわ。」 「レナ、大変だろうけどがんばれよ?」 「うん。ゼフュおじさんもがんばってね!」 「だからおじさんはやめいw」  そういうとゼフュは振り返り、手を振りながら人ごみの中へと消えていった。  偶然とはいえ、意外な協力者を得ることができた私は少し心に余裕ができた気がした。  結構ここに居たが情報は得られない。そろそろ次の町に移る時期なのかもしれないと感じ始めていたところだったので、私は 踏ん切りをつけて町を移動することにし、レナもそれに承諾してくれた。  まもなく日が暮れる。ゲーム上では実装されていないが、ここではそれも当たり前の事だ。  移動は明日と決めて私たちは宿に戻る。  元の世界に戻る手がかりがありそうな場所といえば先ず考え付くのがユミルの書を有する空中都市ジュノー。  そして魔術師ギルドを抱え、ゲフェニアを封印する塔がそびえるゲフェン。  ユミルの心臓のレプリカのある生体研究所、そしてフレイヤ神殿。  同じ事を考えるならばあいつもそれらに寄った可能性はありえなくはない。  ただ、プロンテラなら幅広く情報を得られると思い留まっていたにすぎはしないのだ。  カプラでの移動ができるゲフェンを次の目的地とし、私たちは眠りについた。