生体研究所─…他の名前や設定も色々あったとは思うが、レッケンベル社が設立した、 あまり表立って言えないような研究をしている施設。 ゲームをしているときはあまり気にしなかったが、いわゆる生体DOPという凶悪な敵を 作っていたりする。 単純に人間を強化しているのか、素材となる人間を元に 別の人間を作っているのか、 そこら辺はよく分からないが…。 入り口はリヒタルゼンの貧民街。 人目を忍びつつ、ときには賄賂を渡しつつ貧民街の外れまでやってきた。 「さっき見張りの人に賄賂を渡してましたよね?あれ、何でですか?」 こっそりと近くにいたマシューに聞いてみる。 「うん、口止めというか…あんまりここの人に探られたくないからね。」 どうにも顔色が悪いが、マシューは小さな声で答えてくれた。 考えてみれば他国の宗教組織が無断で何かの調査に入るわけで、できれば見つからないよう やりたいのは極当たり前のことだ。調査に入るための正当な手続きを取れるわけもないだろう。 「とりあえず俺とケイトとアキで様子を見てくる。」 アランがそう言い、3人で中に入っていった。…どういう人選かちょっと不思議に思ったりする。 「クリス、飴でも食べる?」 ふいにマシューが飴を差し出してきた。 「え?ああ、ありがとうございます。」 飴を受け取り、口に入れる。うん、美味しいです。 しばらく飴をころころと口の中で転がしていたが、何か視線を感じその方向を見る。 マシューがじっと俺を見ていた。 「な、なんですか、じっと見て!?」 思わず言う俺。 「え?あ、いやうん、…えーと、ああそうそう!今日の戦い方の相談なんだけど…っ!」 思いがけず声を掛けられたような感じで、あたふた言うマシュー。 マシューはニーナのこと好きなんだよねー…と、どこか他人事の俺。 "自分に他人への恋が向けられる"というのは色々と複雑だ。そんな状況、普通は無いのだけれど。 「いつも通り、後ろから支援で良いんですよね?」 今までマシューと組んできたが、特別な注意は特に無かった。 「ああうん、そうなんだけど…。今日はさ、特別恐ろしいところだから…いつもより少し後ろに いてくれると嬉しいかなー…なんて……。」 普段より小さい声で言うマシュー。 「うーん、じゃぁほんの少しだけ離れますね。あんまり離れすぎても逆に危険かと思うので…。」 どれくらい離れていいものかは分からなかったが、それは中で確認することにした。 しばらくするとアラン達が戻ってきた。 「今回の目的は3階だから、2階は走り抜ける。運良く最短コースが一番少なかったから…」 アランは内部の地図を広げ、状況を細かく伝えた。 「3階の状況はさすがに分からなかったが まずこの部屋で態勢を整えよう。 調査の前にそこで一旦、例の準備をする。」 そこまで言うと、アランは地図をしまった。 「あのー、例の準備って何ですか?」 右手を上げつつ質問する俺。だって、何も聞いてないし。みんなが俺に注目する。 「ああ、ニーナには着いてから説明するから大丈夫。…さ、じゃぁ行こう!」 そう言うとアランはさっさと入り口に向かってしまった。 レイナとアキがそれに続き、その後ろをケイトとリーヤが付いていく。 俺もそれに続いたが、誰かいないなぁと思い後ろを振り返ると、マシューが元いた場所に 立ちすくんでいた。 「あ、あれ?大丈夫ですか?」 心配になって声を掛ける俺。 「……ねぇクリス。」 俺の声が聞こえたんだか聞こえなかったんだか…そんな感じでマシューが話し掛けてきた。 「…………いや、うん。そんなことをしても結局は同じになるのかな…。」 少しの間を空け、虚ろな目で続けるマシュー。 「え、あのー…本当に大丈夫…?」 さらに心配になる俺。どっちかというと、頭が…。…いやいや失礼だぞ、俺。 「…はっ!あー、ごめん、何でも無い!じゃ行こうか、うん!」 そう言うとマシューは小走りで先にいったメンバーを追った。 俺も?エモーションを出しながら追った。 生体研究所2階。 生気が無いような、不思議なオーラを出す生体DOPたちがぱらぱらと陣取っていた。 人間と幽霊の間…そんなイメージの存在。 「こいつらは連携してこないから、必要なところだけ叩いて進むぞ!」 アランの台詞に 全員が頷いた。 合図をし、廊下に飛び出し、一気に駆け出す。 先陣はアランとリーヤ。最後尾の俺が攻撃を受けない範囲で敵の間合いを見切り、 問題となる敵だけ叩いていく。 …敵、とは生体DOPのことだが、とにかく外見が人間なので やはり攻撃しているのを 見るのはなんとも気分が悪い。 ただ、"殺す"ことが目的ではないので それだけは救いのような気がした。 その後、3階への階段に問題無く到着した。 2階の通ってきた廊下を振り返ると 攻撃を受けてうずくまっているもの、きょろきょろと 侵入者を探しているようなもの、何事もなかったかのようにふらふらしているもの、そんな 統一感の無い姿が雑然とする 不可思議な状態が映った。 「うあー、本当に全然連携取れてませんねー…。」 壁に隠れてこっそり様子を伺う俺。 「ふん、所詮あいつらにあるのは魂のカスだけだからな…。」 毒づいたのはリーヤ。 生体DOPは職ごとで同じ顔をしていた。 …つまり、一人の人間を元に、複数の生体DOPを作っている…そう考えるのが自然だ。 「さて本番だ!3階へは一気に突っ込むぞ!!」 アランが先頭で言う。 3階は転生職の生体DOPが巣食う場所。2階ほど楽に進むはずは無い。 メンバーに緊張した空気が張り詰める。 「行くぞ!!」 アランは大きな声で言い、3階に突っ込んでいった。残りの6人も間髪入れずそれを追う。 3階に躍り出ると、人影が二つあった。 可愛い女の子のスナイパーと、可愛い女の子のハイWIZ。 …つまり、セシルとカトリーヌ。俺…かとりんのこと、好きだったんだ……。 とっさにニューマを展開するケイトと俺。 その時点で攻撃の矛先は一旦 カトリーヌに向かう。 「ユピテルサンダー!!」 開始早々の攻撃はカトリーヌ。アランへの攻撃だったが、とっさにマシューがそれを受ける! 真っ黒焦げになったマシューにヒールを掛ける俺。 そうこうしている間にカトリーヌの第二波。 「ファイヤーボール!!」 これまたマシューが最前列に躍り出てブロック!マシューはもう真っ黒すぎ。 俺またヒール。前衛組に飛び火したので、ケイトがサンクチュアリ展開。 「ストームガス…」 「阿修羅覇凰拳っ!!!!!!!」 カトリーヌの第三波を妨害したのは我らがレイナの一撃必殺の拳。 レックスエーテルナを入れるまでもなく、一撃。 カトリーヌは数メートル離れた壁まで吹き飛ばされて動かなくなった。…かとりん南無ぅ(ノДT) そこから標的がセシルに移る。 セシルはニューマに向かって頑張って矢を射っていたが、全然あたらないのでブチ切れそうだった。 そうこうしている内にSPを補給したレイナの拳が火を噴いて即殺。 …いいところなさすぎてファンに怒られそう。いや、それどころじゃないんですけどね。 「ふぅ、ここを起点に動くぞ。」 近くの小部屋に移り、アランが一息ついた。 「とりあえず ここで少しずつ倒す。俺とマシューが釣ってくるから、ケイトはフォローしてくれ。」 アランがてきぱきと指示を飛ばす。 「あれ、私 マシューさんと離れるんですか?」 基本いつも側にいたため、この配置は珍しかった。少しどころか かなり離れることになる。 「クリスは最後尾に固定で。ああ、これを渡しておくから…。」 そういってアランは一本のナイフを俺に手渡した。形からして、コンバットナイフ…? 「え、なんですかこれ?」 思わず聞く俺。アコ系の職業に就く者は、戒律によって刃物の武器を使用できない。 ただ、「刃物の武器を手にして、切る」ということ自体はやろうと思えばできる。 「至近距離に近づかれたら それを使ってくれ。で、レイナとアキはそこの壁の近くで…」 さらっとナイフの説明を終えるとアランは指示を飛ばす作業に戻った。 戦闘が再び始まった。 生体DOPを一人ずつ釣って、確実に仕留める。2階とは違い 今回は戦闘不能まで追い込んでいく。 殺す、か、それに近い状態、まで。 これまでの特務の仕事は全て不殺。瀕死まで追い込むことはあったが、生かすことが大前提だった。 つまり、"人を殺す"という状況は、ユキさんたちと一緒に戦ったあのローグ戦以来だ。 「いや…でも、今日のは生体DOPだから…作り物の人間だから…」 俺は独り言をいって自分を納得させる。 人間ってなんだろう。そんな問いも頭をよぎる。アルケミストのスキルで生命倫理というものがあるが それを習得したい気持ちでいっぱいだった。 かなりの時間が経ち、俺の足元には埃の上に書かれた正の字が4つ溜まった。 一人仕留めるごとに線を足していく…つまり、20人仕留めた、ということだ。 戦闘の状況は安定していた。 相手は多彩な、力強い攻撃を放ち続ける。それを相手に特務のメンバーも実に鮮やかに対応していた。 スナイパー、ハイWIZ、ホワイトスミス、アサシンクロス、ロードナイト……あれ? 「そういえばハイプリ…マーガレッタはまだ無いな…。」 俺がこぼすと同時、実に良いタイミングでアランがハイプリを釣ってきた。 支援職のくせに特務の前衛4人と渡り合っている。 しかし…どことなく…、いや明らかにこちらの動きが鈍いように見えた。 おかしな展開に思わず数歩、前に出る俺。 その瞬間、マーガレッタに気取られた。 そしてその標的が、突然俺に向く─…。 既にマーガレッタと俺の間には、同じく後衛のアキとケイトしかいない。 たやすく二人をかわしたマーガレッタは俺に体当たりをした。衝撃と共に、吹き飛ばされる俺。 背中に衝撃が走り、激痛が走る。 なんとか呼吸をし、目を開いてみる。天井が見える。身体が重い。 …マーガレッタに吹き飛ばされた俺は仰向けになり、その姿勢で 彼女に抱きつかれていた。 へ????????? 状況が飲めないまま、マーガレッタの身体を通して重い衝撃が伝わる。 そして、視界に血が跳ねた。 …特務の誰かが斬ったのか? それに反応するかのように、マーガレッタの腕に力が入った。腕で上半身を起こし上げているようだ。 そして、俺の視界にマーガレッタの笑顔が映る。 「……え?」 ニーナの部屋の写真たてにいた、あの女の子の顔がそこにあった。 -------------------- 2008/07/23 H.N