「こっちとしても人間よりはやりやすいんだけどねっ!」 ユキさんが両手を掲げ、呪文の詠唱に入った。 俺は支援魔法を全員に一通り掛ける。 トウガとセツナはバフォメットの前に立ち塞がった。 「愚かな人間よ…我に立ち向かったこと、後悔するが良いわ…」 バフォメットの重く威圧感のある声が頭に響いてくる。 「ふん、たかが4人で 倒せるつもりかっ!!」 ビスカス神父の言葉が続けて森に響く。 「んー…、そんなに余裕かましてていいの?」 セツナがバフォメットとビスカス神父に向かう。 「……なんだと…?」 バフォメットの眼光がより鋭くなる。 死神を思わせるような大鎌を振り上げ、そのままセツナに振り下ろす。 ガキィイィィィイインっ!!ズザンっ!! 金属のぶつかる音と共に大鎌の軌道がずれ、地面を深々とえぐった。 「うおおお、重えww」 セツナとバフォメットの間にトウガが割り込んでいた。剣で大鎌を振り払ったのだ。 「今日のところはお前に用は無い。軽く倒させてもらうぞっ!!」 セツナがびしっと決める。悪魔のTOP相手に言い切るとはすごいことだ。 「…愚かな!」 バフォメットが大きく息を吸い込むと、空から雷の音が聞こえた。 LoVか─…? 「……凍てつけ…」 ふいにユキさんの声が響いて聞こえた。途端に巻き起こる吹雪。辺りの温度が一気に奪われる。 吹雪の中で氷の剣が幾十にも舞い踊り、あらゆるものを切り刻む。 大聖堂で使ったストームガストとは明らかに威力が違った。 「バジリカっ!!」 俺はまた攻撃を無効にする緑色の結界を張る。 寒さは防げないが、みんなそこに避難してきた。 「よーし、吹雪が止んだら一斉攻撃するぞっ!」 セツナが吹雪の中に立つバフォメットを見据えて言う。 「……あのさぁ、あれ、バフォのLoVだよねぇ?」 ユキさんが空をじーっと見ながら言う。確かに空に暗雲が立ち込めていた。 そういえば少し前、LoVが出そうな空気があったが─…。 ユキさんはにまーっと笑い、結界の外に出た。 「便乗大魔法!ロードオブヴァーミリオンっ!!」 ユキさんの声が響くと 待機していた雷雲から、未だ続く吹雪の中に激しい雷が落ちた。 彼女は何事もなかったかのように再び結界の中に戻ってくる。 「便乗すぐるww」 トウガが笑う。 「だって後、雷落とすだけってとこまでいってたんだもん。」 えへへと笑うユキさん。バフォメットがちょっとかわいそうになった。 次第に吹雪が晴れてきた。 バフォメットは傷だらけで立っている。 「さぁ行くぞ!」 セツナが言う。皆顔を見合わせ頷いた。 …ドスゥン……。 しかしそこで、バフォメットは大きな振動を立てて倒れてしまった。 「……あれ?」 ユキさんがあんぐり口を開けた。 「…ちょww一人で倒しやがったww」 トウガがからかう。 「なるほど、SGとLoVの合成魔法もありだね、次の研究材料にしよう…。」 ユキさんは一人ふむふむと頷いた。 「…不憫だなぁ。」 セツナが頭を掻きながら結界の外に出て行った。 「さてと、どうしようか?」 へたりこんだビスカス神父を前に、セツナが言った。 「そうだねぇ、この人仕留めちゃえば私たちはOKだからねー。」 ユキさんがそう言いながらトウガを見た。 「殺すかww」 トウガがさらっと言った。それを聞いてびくっとするビスカス神父。 「ままま待てっ!!話せばわかるっ!!」 あわてるビスカス神父。 「でもねー、この人のせいでニーナが殺されかけたんでしょう?」 ユキさんが俺をちらっと見る。それに釣られ、皆の視線が俺に集まった。 「そうですね、散々酷い目にあわされました。」 きっぱり言う俺。俺も酷い目にあったし、ニーナもまた酷い目にあっている。 「わかった!研究ももうやめる!気持ちも入れ替えるっ!どうか助けてくれっ!!」 ビスカス神父は怯えながら言った。 ふー、と一息付いてからユキさんを見る。 「私が決めていいんですか?」 俺が確認すると、こくりと頷いた。 「……じゃ、私の記憶が戻ったら、そのときに今までのことを謝ってくれますか?」 複雑な気持ちでそう告げる俺。俺にではなく、ニーナに謝って欲しかった。 ─…それでいいよね?胸に触れながら、俺は心の中で呟いた。 「おおわかった!それで済むものならっ!!」 ビスカス神父は目を輝かせて言った。 「分かってるとは思うが…一生かけて償うんだぜ?」 セツナがビスカス神父の目を覗き込み、脅すように釘を刺す。 「…あ、ああ、もちろんだっ!もちろんだともっ!!」 目をそらせずにビスカス神父は言う。 セツナは立ち上がり、トウガと目を合わせた。 「さぁて、じゃぁ殺すかww」 トウガの台詞。ちょっと待てww 「神父さん。生命的に死にたい?経済的に死にたい?社会的に死にたい?」 ユキさんがにまーっと笑って言った。可愛い声で…。 その後ビスカス神父立会いの元、彼の研究施設は全て破壊された。 生体研究所の資料は破棄され、ビスカス神父が研究した成果はユキさんたちが頂いていくことになった。 全てを終わらせた俺達は大聖堂を後にした。…とは言っても、だ。 「あのーぅ、その大きな荷物、なんですか…?」 トウガとセツナは巨大なカバンを持ってきていた。 「お金ww」 トウガが答える。 「ビスカス神父は経済的に殺されましたのです、あーめん♪」 ユキさんが笑う。まぁあんな研究施設を勝手に作っていたのだし、余っていたとは思うが…。 「とりあえず大聖堂のお金ごっそり頂いたんで、あとはその補填に忙しいだろw」 セツナがさらっと言う。この人たち、怖いなぁ(笑)。 「ニーナも大分酷い目にあったし、半分くらい持っていく?」 からからと笑うユキさん。…半分って一体いくらあるんですか。 「…それにしても、助かってよかった。」 一息ついて、ユキさんが優しくそう言った。 「本当に、ありがとうございました。あと1秒か2秒でも遅かったらと思うと…。」 そう言いながら思い出し、俺はぞくっとした。 「まったく、感情的になるなら神父はあそこで殺しちゃうけどなぁ。ニーナは偉いなぁ。」 前を向きながら言うセツナ。 「ま、今日は飲むかww」 トウガがカバンをぽんぽんと叩いて言った。 「あ!あのー、私、お世話になってるお友達いるんですが、呼んでいいですか?紹介したいですし…。」 色々と支えてくれたフィリアとスーさん。頭に浮かんだ俺はそう提案した。 「おー、いいよ。今日これから大丈夫かな?何人でもおごっちゃうよ〜♪」 ユキさんはるんるん気分だ。 「お、男じゃないよな!?」 セツナが慌てて聞いてきた。女の子だと告げるとほっとしていた。 「じゃ、前に泊まってた宿屋にいるから、連絡取れたら教えてね♪」 ユキさんの言葉に頷き、俺は臨時広場に向かった。 「あ、クリスさん!大丈夫でしたか、心配しましたよ!!」 普段の雰囲気とは違い、スーさんが興奮した口調で声を掛けてきた。 「ありがとうございます。…無事、終わりました。」 俺がそう言うとスーさんはにっこりと微笑んでくれた。 「色々あったんですけど、今晩時間ありますか?飲みが…いえ一緒にお食事でもどうかなって。 私がお世話になったお友達も紹介したいんでー…。」 俺の誘いをスーさんは快諾してくれた。 「さて、じゃフィリアにも声掛けてくるんでちょっと待ってて下さ…」 言いかけて、そこでめまいがした。 「…わっとっと。」 2、3歩後ろによろけて しりもちをつく俺。 「だ、大丈夫ですか…?」 そう言いながら、スーさんは突然 不安な表情を浮かべて俺の胸に手を当てる。 「……明日には、先生のところに行きましょう。」 不安な表情のまま、まっすぐな言葉でスーさんが言った。 -------------------- 2008/07/28 H.N