「ちょwwおまww」 プロンテラを見下ろし、俺の可愛い声が風に乗って消えていく。 拝啓おまいら、お元気ですか。 以前ROの世界でニーナ・クリスティアっていう廃プリになってた俺です。 どういう理由か分かりませんが、気がついたらまた例の丘に突っ立っておりました。 とりあえず現実の世界のことを思い出そうとするも、何故かここ数日の記憶が無い。 『お饅頭です』という、聞き覚えの無いおっさんの不思議な台詞は頭に残っているのだけれど…。 「はぁ、また壮大な物語の幕開けですか…?」 俺は複雑な心境で自分の服装を見る。ノービス。例によって女の子。 「今回はノビからかー、とほほ。」 俺は太陽に向かって"んーっ"と伸びをし、とりあえず前向きに進むことにした。 とは言っても久々のROの世界。 現実の世界に戻ってから半年は経っていたし、やはり懐かしくてウキウキしてくる。 プロンテラの臨時広場まで歩いていくとやはり冒険者たちで賑わっていた。 「さて、どうしよう…。」 困る俺。しかしこの状況も二度目、落ち着いて解決していこう。 「まずは名前の確認だ!」 前回は突然セツナに声を掛けられた挙句、ファミリーネームもしばらく知らないままだった。 持っていた荷物を漁ると小さな手帳が出てきた。 最後のページに名前だろう文字が小さく書いてある。 『フィズ』 「…フィズね、OKOK……ってこれ、何日か前に新しく作ったノビだぁああああああっ!!」 思わず叫ぶ俺。何人かの冒険者が不思議そうにこちらを見たが、俺は照れ笑いをしてそのまま近くの ベンチに座った。 持ちキャラの廃プリがようやく転生オーラを迎えたので気分転換に新垢を取って作ったキャラ。 作った後、何だかんだでJob10にしてそのまま放置していたのだ。 しばらく他の持ち物も確認したが、ファミリーネームはどこにも書いてなかったので それは後で適当に付けることにしよう。 「…とりあえず、スーさんに会いに行こうかな!」 気分を取り直して立ち上がる俺。 まずは前回の事情を全てを知っている彼女に会うのが最善の選択だろう。 臨時広場を軽く探してみたが流石に都合よくいなかったので、俺はモロクへ行くことにした。 そこで会えなくても"先生"はきっといるだろう。 ポリンを倒して空き瓶を拾い、臨時広場のプリさんに渡してモロクポタをお願いする。 「シーフになるの?頑張ってね〜♪」 ポタに乗る直前のプリさんの言葉。 ああそうか、いずれは転職しなきゃなぁ…。そう思いつつ俺は光の柱をくぐり抜けた。 砂漠の街、モロク。 「暑い><;お肌が焼けちゃうゎ!」 とりあえず女子高生っぽく言ってみる俺。…あくまで俺のイメージだから文句は受け付けないぞ。 くだらないことを考えながら、どうにか"先生"がいた建物に辿りつく。 「お邪魔しま〜す…。」 恐る恐る中を覗くと、そこには見知らぬソウルリンカーの男が立っていた。 「ん、何だ?…え、えぇっと、ソウルリンカーになりたいのか!?」 男は慣れない口調でそう言った。 「…私、ノビですけど…?」 ソウルリンカーはテコンキッドからの転職する職業。ノービスは流石にフラグ立ちません。 「はっ!そ、そうだな!…いや俺も急にここ任させられたからさぁ…。」 ため息をつきながら頭を掻く男。 「あれ、"先生"に会いにきたんですけど…いないんですか?」 俺は簡単に目的を伝えた。 「ああうん、ようやく代替わりするとかで、どこかに修行にいっちまったよ…。」 男は近くのイスに腰を下ろして言った。 「そうですかー。あ、スーさんってご存知ですか?」 改めて聞く俺。 「うん?スーとも知り合いなのか?"先生"と一緒に修行にいっちまったよ、はぁ。」 「…さてどうしよう。」 モロクの日差しを浴びながら出だしからのつまづきに絶望する俺。 スーさんに会えなかったことを受け、前回お世話になった人たちのことが無性に気になり始めた。 ユキさん、トウガ、セツナは世界中を旅して周っているわけだから会うことは難しいだろう。 特務は会っても仕方ないし…ここはやはりフィリアに会いにいくところだ。 俺はドロップスを倒し空き瓶を集め、先ほどと同じようにアルデバランまで移動した。 懐かしい時計塔がすぐ近くに見える。 街を流れる川も昔を思い出させてくれた。 久しぶりの景色をきょろきょろ眺めながら、フィリアの部屋のある建物に辿りつく。 ぱっと見 何も変わっていなかった。 階段を上る。フィリアの部屋のドアが見えた。 「───…あ」 俺は、はっと気付いた。フィリアの部屋の手前は…ニーナの部屋。 今俺はニーナではない…つまり、ニーナと会うことができるのだ。 途端に胸が苦しくなった。緊張…なのだと思う。 会ったことが無い身近な存在。実際、会いにいこうという人のリストにも入っていなかったし…。 恐る恐るニーナの部屋のドアを見ると、表札が剥がされていた。 「あ、い、いないのか…。」 安心した気持ちの方が大きかった。 …しかし、引っ越したのか?それともニーナは元に戻らなかったのか?新しい疑問が生まれてきた。 ひとまずフィリアの部屋のドアに目を移すと、張り紙がしてあった。 『──移転しました』 可愛らしい手書きの地図もあったので、その場所に行ってみることにした。 「す、すいません、もうちょっと待って下さいっ!!!><;」 地図に描かれた部屋のドアが開いたとき、懐かしい声が響いた。 「え、…やっ、あの?」 驚いたのは俺だ。開口一番で謝られても困る。 「え、あれ?えーと、ノビさん、何の御用?」 誰かと勘違いしたのか、フィリアは顔を赤くして取り繕った。 「相変わらずですね、お久し振り〜♪」 俺はくすっと笑ってから手をぱたぱた振って挨拶をした。 「…うん?どこかで会った…かなぁ?あ、お客様!?…う〜ん……?」 フィリアはひたすら思い出そうとしている。 そう、今回俺はまた違う人になってるわけだから…フィリアが思い出せないのは当然だ。 「あっ!すいません、…勘違いでした…。」 切ない気持ちが溢れてきたが、ひとまず俺はそう言って謝った。 …本当のことを言ったらどうなるのだろう。ニーナの状態も分からない今、言い出せる事ではなかった。 「あ、そう?よかったー、最近忙しくて、物忘れがね…はぁ。」 しょんぼりするフィリア。その姿は以前のままで、無性に可愛く思えた。 「で、何の御用?」 改めて聞いてくるフィリア。 「あ、あのっ、えーっと、スーさんって…いませんよね?」 ニーナのことも振ることができず、とっさにスーさんのことを尋ねる。 「うん、最近会ってないなぁ。私もしばらく営業してなかったしー。」 あははと笑いながら言うフィリア。 「あれ、折角10位に入れたのに…?」 思いがけない台詞に、思いがけず聞く俺。 「あ、やっぱりお客様?ちょっとこの前まで色々立て込んでて…。またランク外になっちゃいましたよ><」 とほほと肩を落とすフィリア。 「そうなんですか…。あ、そろそろ帰りますねっ。」 当然もっと話したいところだが、状況がうまくまとめられない。一旦帰ることにしよう。 「ちょっと待って!えーと、スーさんからアイテム預かってるんだけど…。」 そう言ってフィリアは俺をちらっと見た。 「あ、ホルグレンさんのナイフ…かな?」 思い当たるのはそれくらい。 「そそ、ビンゴ!なぁんだ、スーさんの言ってた人だったのか〜。」 彼女は嬉しそうに、部屋の奥からナイフを持ってきて俺に手渡してくれた。 「はいどうぞ!スーさんがね、もしこのナイフ取りに来る人いたら、親切にしてあげてって!」 にこにこしながらフィリアが言う。 「あ、もしなんだったら今日泊まっていく?」 突然の嬉しい提案だったが…。 「…あの、納期は大丈夫ですか…?」 俺の一言に彼女は真っ青になった。 「ごごごめん!ま、また今度きて、歓迎するからっ!!><;」 慌てて部屋の奥に戻る彼女。そのままドアを閉め、今日は帰ることにした。 「……あー、どうしよう…。」 アテが無くなった俺。財布の中身を見ても、ノビらしく全然お金が無い。 陽も暮れてきて、懐かしいアルデバランの赤い街並みが目に映った。 「わー、懐かしい〜…。」 恍惚と眺める俺。赤から黒に移り変わる頃、俺はようやく我に帰る。 「…うあ!何も決めずにまた時間がっ!!」 一人また愕然とする。 「とりあえず…ご飯代くらい稼いで野宿するかな…女の子だけど、とほほ。」 独り言を呟き、近くの店のメニューを見る。 「はぁ、美味しそうだなぁ…。でもお金全然無いや…はぁ。」 新装開店らしく随分と安いメニューが並んでいたが、それすらも払えない自分?に絶望した。 そのまま道端にへたり込む。なんかもう初日にしてやる気が無くなってきた。 「おkww今日はタダにしてやるww」 そんな声と同時に、俺の目の前に突然大きな右手が差し伸べられた。 「わっ!?」 俺は驚いた。 突然声を掛けられたこと、突然手が現れたこと、そしてその手のひらに刻まれた大きな傷跡に。 俺が見上げると、そこには見知った顔があった。 「…え、あれ、ト…」 そこまで言って俺は自分の台詞を遮った。 「混む前に食ってけww」 力強く腕を引っ張られて店の中に連れていかれる。 「いらっしゃいませ〜♪」 店に入ると明るい女の子の声が響いた。 「ユキ、こいつサービスなww」 男は女の子にそう言うと、店の奥に消えていった。 「ちょっと〜、始めた早々 サービスしすぎじゃないの〜…?」 女の子はやれやれといった顔で、奥に向かって言った。 「…ま、次もまたきてよね!メニューは何にしますか〜?♪」 女の子が笑顔で水とメニューを出してくれる。 それはいいんですが…あの、 ……えっと、ユキさんトウガさん、何やってんですかこんなところで。 -------------------- 2008/08/10 H.N