ルーシエ_ゲフェン編01  相変わらずの朝の弱さに寝坊した私たちがカプラサービスを通じてゲフェンについたのは日も昇りきろうかという昼前だった。  ゲフェンにつくなり行き成りミーティアと再開した私とレナだったが、何気ない事から怒らせてしまう。  次に会ったら謝らないとと思いながらもまずは寝床を確保するために宿を取りに向かった。  幸運なことに空き部屋があったので直ぐに部屋は決まった。 「ルーシエさまですね。承りました。こちらの宿では食事の時間は……。」  などと宿についての説明を受けていると、やはり先ほどのミーティアのことが気になるのかレナは「謝ってくる!」と宿を飛び出した。  いい機会なのかもしれない。同年代・・・ではないけど、歳の近い同性の友達が出来てくれればいいなと楽観視しつつ、私は宿の 説明を一通り聞き終わり、PTチャットでレナに暗くなる頃には戻ってきなさいよ、と念を押した。  小さくても一端の冒険者。一人歩きは心配だけど、そこまで過保護になることもないだろう。  宿の説明を一通り聞いた後、私は手始めにマジシャンギルドを訪れる。  ウィザードギルドに行こうかとも思ったのだが…ほら、なんだ。  町の中央にでかでかとそびえたつゲフェンタワーを見上げたら、そのあまりの高さに上る気力が正直失せました。  マジシャンギルドの門をくぐる。  ゲームではWPを抜けるだけだったが、こちらでは一人一人名前を記帳して入ることになっているらしく入り口でローブを羽織った 眼鏡の似合う受付のお姉さんに止められることになった。 「こちらに名前の記帳をお願いします。」 「あ…すみません、わかりました。」  不思議な物でこちらの文字の読み書きはすらすらと出来てしまう。  スキルなども身体の方が覚えているのでコレくらい当然といえば当然なのかもしれないが。  言葉も普通に通じるしなぁ。ちょっと理不尽だ。あっちの外国語もコレくらいすらすらできりゃいいんだけど。  私が渡された羽ペンで帳簿に名前を書いているとそのページの隅にひとつの名前を見つける。  ――クリム。  こちらの世界の文字の隣にはカタカナで小さく「クリム」と書き加えてあった。  これはつまり…現実世界の人間が書いたということになる。  そしてその名前は・・・。 「すみません!」  名前を書く手を止め、受付嬢に身を乗り出して迫る。 「は、はひっ?!」  突然の事に素っ頓狂な声を上げ、メガネをずらしながら後ろに下がる受付嬢。うん。かわいい。  この人もゲーム上であえればいいのに(できれば立ちグラ実装で)と思いつつ今はそれどころではないと自分に突っ込みを入れる。 「あの! この人! このクリムって人! どんな人でした?! いつ来たんですか?!」 ********************************************************  私は小雨の振るゲフェンの街中を、トボトボと宿に向かって歩いていた。  経緯はこうだ。  聞いてみたところ、そのクリムという人物はアサシンでここに立ち寄ったのは数週間ほど前らしい。  写真という名のSSを見せたところ、やはり本人で間違いはなかったようだ。  彼は一般公開されている分の資料を一通り読み終わると何かブツブツと呟きながらギルドから去ったという。  私も目を通してみたがコレといって元の世界に戻る情報は得られなかった。  その後のクリムの行方は…聞いてみたが当然分からない。  手が届きそうで届かないもどかしさ。すれ違う軌跡。  後一歩のところで会う事が出来ない。  宿の一室に辿りつき、私はさっとお風呂で冷えた身体を温めるとベッドに身を預ける。  ボーっとしているといつの間にやら小振りだった雨の音がどんどん大きくなっていった。  どれくらい経った頃だったろう。レナがまだ帰っていない。  外は雨だし少し心配になっていると廊下から騒ぐ声が聞こえる。  ガチャリと扉を開けると、そこには呆然と立ち尽くすレナの姿があった。 「あれ、どーしたのレナ。」  私は半分開いた扉から上半身だけを廊下に出してレナに声をかける。 「あ、ママ。」  こちらに振り返るレナは何だか元気がない。機嫌が悪そうにすら見える。 「早く寝ないと育たないぞー。」 「えっと、ミーティアちゃんが…。」 「ん? ミーティアがどうかしたの?」  聞き返すが、返事はない。何か考え事をしているようだ。ミーティアが見つからなかったんだろうか? 「また会ったらちゃんと謝らないとね。それよりほら、早く寝よ?」 「う、えと、あう…。」  本当に何かあったのだろうか?さっきの騒ぎが原因だろうか。 「ママは先に寝てて! ちょっと行って来る!」 「な…こんな時間に、外も大雨なのにどこ行くの!?」  レナを制止しようと声をかけるも、何かを追うかのようにレナは走り去っていった。  …追うべきか迷うが外は雨だし遠くにはいかないだろう。  もしかしたらミーティアの部屋が分かっているのに上手く声をかけられず、意を決して会いに行ったのかもしれない。  レナを信じて部屋に入り再びベッドに身を預ける。  …はぁ、ダメ人間だな。自分のことで精一杯だなんて。  ごめんなルーシエ。大事な娘だろうに。  ごめんねミーティア。ホントは私も一緒に謝りに行かなきゃいけないのに。 「アイツ、今頃どうしてるかな…。風邪とかひいてなきゃいいけど。」  ポツリと呟きながら、私は夢の中へと堕ちていった。 ********************************************************  なんだか巨大な熊のぬいぐるみをアイツと一緒に抱きしめる夢を見てた気がする。  朝の光で目が覚めると部屋のどこにもレナの姿がなかった。まさかあれから帰ってきてないのだろうか。  私は慌てて飛び起きるとレナにWISを飛ばす。昨晩、レナを引き止められなかった自分が悔しくてすっかり目が覚めた。 『レナ! 今どこに居るの!?』 『あ、ママ。 おはようー。』 『おはようー。 ……じゃなーーーい!!!! 今どこ!? どこに居るの?!』  私は少しパニックになりながら叫んだ。まさかあのまま誘拐されてたりしてないだろうか。  …まぁ、後から冷静に考えればこんな軽い朝の挨拶が出来るんだから心配するような事態ではない筈なのだけど。 『大丈夫だよー。今食堂にいるんだけどね。』 『食堂ね!すぐ行くからまってなさ……いったぁあ!!!!』  慌てていたせいか、足の小指をベッドの角に思いきりぶつけてしまった。 『ちょっとママ! 大丈夫!?』 『うぐ…平…気…。』  なみだ目になりながら自分にヒールをかけつつ答える。やっぱり人間鍛えられないとこはあるよね。  VITも低いし。 『あのね、ミーティアちゃんと仲直りしたよ!さっきラグナっていう背の高い商人の男の人と一緒に食堂から出て行った所なんだけど・・・。』 『え、そうなの?』  話を聞けばミーティアもすっかりご機嫌らしい。  レナはレナで夕べは私が眠った後に部屋に戻って、私が起きる前に部屋を出ていったという。 『よかった・・・。』  レナとミーティアが仲良くなってくれた事、レナが何事もなく無事だった事の二つの意味でそう思う。  最も、自分の問題は何一つ解決してはいないのだけれど。 『ママも食堂においでよ。早く朝ごはんにしよー。』 『あ、うん。分かった。すぐ行くね。』  少しだけ晴れた心で部屋を出る。  窓の外も昨日の雨が嘘のように晴れ上がっていた。  食事を摂ったら今日はウィザードギルドに行ってみよう。  アイツがマジシャンギルドにも足を運んでいるのならばそちらも無駄足にはならないはずだ。  もしかしたら、何か分かるかもしれない。  知っているけど知らない世界。  今は道を違えていてもこの空でつながっているのだからきっと会えるさ。  食堂につくと、レナが元気よく満面の笑みで出迎えてくれた。 ================================================================================================================ そんなわけで187さんの話への介入のお返しを含めて進めてみました。 話が進む度に、他の人の話に出してもらえる度にレナがどんどん元気になっているような気がする。いいぞ、もっとやれ。 あえてレナの視点は省いてみたり。 他の書き手様。出演機会があれば親子共々存分に弄り倒してあげてくださいませ。 =================================================================================================================