※参考話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0291.txt(リアル33話) *************************************************************************************** 「………バーサークポーション…?」  その言葉を聞いて僕は、つけていた帳簿のペンを大きく乱していた。…あー、後で書き直しして か無いといけなくなっちゃったな…。 「85になったら使えるんですよね?  だからハイスピードポーションからそれに変えようと思って」 「………………えっと…」  話すフィーナの声は嬉しそうで、僕はその声に「とうとう来てしまったか」と心の中で頭を抱え ていた。 「別に今から買いに行ってくれって言うわけじゃなくて、もし在庫があったら少し分けてくれれば って思うけど…、倉庫には無いのか?」  補足するリディックは僕が口篭った理由を捕らえることは無いだろう。在庫の在る無しに関して は、今はアルケミストでもメインはロードナイトだし、他にもレベルが低いとは言え、ホワイトス ミスやローグもいたから、正直今のところは売るほどあったりするわけで。 「…いや、あることにはあるんだ……。持ちキャラ大抵狂気使っていたからね。それなりに在庫も あるんだけど……」 「ただでくれって訳じゃないし、沢山欲しいというわけでもないんだが」 「いやいや、値段や量の事はどうでも良いんだ。  どうでも、良いんだけど……」  リディックはプリーストだから、多分知ることは無いのだろう。バーサークポーションが何ゆえ 『狂気ポーション』と呼ばれるかを。…まんま、とか言わないでよね? 「……なにか、あるんですか?」  こっちを見るフィーナの表情は不安そうなものだった。  その姿に僕は考える。  素直に伝えるのが不安を払拭する手段だとしても、今リディックがいるこの場で言うべきではな いのは僕は充分理解している。  正確な理由も述べず「ダメだよ」と言えないし、何かの拍子で狂気ポ使った後の事を考えると、 まだまだ落ち着いたとは言え無いけど、比較的安定している二人の関係にヒビが入りかねない。  多分口で言っても判り辛い事もあるだろう。何が起こるのか、その身をもって知るのが一番早い。 ……だけど出来るならフィーナにはやらせたくないんだよなあ。  フィーナはいまどき珍しいくらいの真面目で控えめな女の子だし、ちょっと融通の利かないとこ ろもあるけど、優しい良い子だ。だからこそ狂気ポの副次作用の事を考えると心が重い。  僕自身も前に使った事があるからどういう効果を及ぼすか十二分に理解している。  ……でも、フィーナには無理だろうと結論するには、少々自惚れかも知れないな。  もしかしたら、何とかなるかもしれない。  そう思って(その間の思考時間約0.5秒)僕はRSのセージ、コンバーター作成機(正式名称)に WISを送ることにした。 「ちょっと、まっててね」  表情を悟らせるわけには行かない。後ろを向いてWISを送る。以前会話の中からあのセージはデ ィスペルを持っていると聞いた記憶があった。 『もしもーし、コンいる?』 『…ん?ルフェウスじゃん。  あ、コンバタ売れたん?』 『うん、それもあるけどちょっと手伝って欲しいことがあってね。明日暇?』 『んー?どうせやる事ったらコンバタ材料取りに行くだけっし、暇っちゃー暇やんね』 『明日こっち来てくれる?』 『いいともさ〜』  コンバーター作成機…コンは、二つ返事で返す。もともと軽い人だから深く考えずに来るだろう し、こっちも色々貸しがある。詳細を伝えなかったのは、吹聴を避ける為だ。うっかりケルビムさ んの耳に入ったらきっと大事になりそうな気がする。ケルビムさん、リンカーが狂気使える事知ら ないしなあ。  コンには多少酷い目に遭うだろうけどそこは我慢してもらおう。ディスペル在る無しでは、状況 が変わりまくるんだから…、逃がしゃしないぞっと。  明日の事を考えると顔も引き攣ってくるのは仕方ないことで。無理に笑ってもみてもやはり二人 は何が起きたのか判らないように顔を見合わせていた。 「フィーナ、明日狩りはお休みにしてもらって良いかな?  ちょっと確認したい事があるんだ」 「え?」 「…どういうことだ?」 「………うん、色々あるんだよ。世の中にはね。  フィーナの事はとりあえず僕に任せてもらって良いかな?  リディックはその間狩りにでも行って来なよ。少しでもレベル差縮めたいんだろ?」  本当に色々あるんだよ、世の中はね。出る笑いも乾いたものしか無いのは当然じゃないか。  はい、そこで不思議そうな顔しない。  翌日、僕はフィーナとコンを連れてPvマップにやってきた。  平日の午前中、流石にここは誰もいない。 「……あ、あの、ここ何処ですか?」 「フィーナはPvには来る事無いもんね」 「……Pv…?なんで、こんなところに…?」 「世の中にはね、色々と複雑な事情があるんだよ」  僕はそれだけ言うとレベル無制限の前に来た。  フィーナは85、コンは83。で、僕が90台だからレベル制限のところに入ることは出来ない。  Pvを意味も無く選んだわけじゃない。  理由は当然ある。 「よし、アルベ行こうや〜」 「…それは何処でも構わないけど…なんでアルベルタ?」  腕を振りながら鼻歌交じりに歩くコンを見て、僕は首を傾げる。 「海が〜、おいらを、よんどるぜ〜〜〜」 「…海育ちなの?」 「いんや、山育ち」  ………訳がわからない。  ランダムに降り立ったその場所で、合流すべく歩き出す。判りやすい目印となるのはやはり高速 船前だろう。  そこに向かっている途中、船着場のロープを掛ける石台に足を乗せ、妙にかっこつけているコン の姿があった。  ……ああ、そうか。  君はそれやりたかっただけなんだね?  合流し、僕はカートの中を漁り出す。  準備は万端だ。何があっても大丈夫。………………多分。 「…ルフェウスさん…、本当に何があるんですか…?」  不安げな眼差しのフィーナ。わからないでもない。何の説明もしていないんだから。  順を追って説明するべき何だろうけど、まずは最初は身をもって知るべきだと……思う。 「これがバーサークポーション…狂気ポね」  カートから狂気ポを取り出してフィーナに渡す。それを受け取ったフィーナは首を傾げつつ、栓 を開けようとして……。 「って、ちょっとまったっ!!!」 「え!?」 「こっちの準備が終わってないっ!」  慌てて制止をかける。今狂気飲まれたら非常に危険すぎる。 「とりあえず、僕が良いと言うまで待ってね。  で、コンにはこれを」  コンに渡すものはハイディングクリップ。 「なんで消えるん?」 「後で説明するからまって」  そう言って僕は自分の準備を開始する。  念のために持っていた対人装備、出来ることなら使いたくはなかったんだけど、そうも言ってら れない。いつかこういう時があると思っていたのだから。 「あ、そうだ。  フィーナ、武器はこれにしといて」 「え?ナイフ?」  フィーナに渡したのは何の変哲も無いナイフ。カードも刺さっていなければ、精錬すらしていな い。  恐らく…フィーナとは戦う事になるだろう。その際、素手で、なんてやらせる訳には行かない。 かといってカウンターダガーそのまんまは僕の方が勘弁して欲しい。戦闘ステ、何一つ無いんだか ら、装備に頼るにしても色々と苦しい場面が出てきてしまう。 「あ、あの、さっきからどう言う意味なんでしょう…?」  フィーナからカウンターダガーを受け取りながら、僕は苦笑する。 「いずれ判るから」  …これで、良いはずだ。僕の鞄の中には白ポーションも充分入っている。  大丈夫。温かい風の属性さえ見誤らなければ…! 「コンは僕が合図するまでハイドしててね。  で、合図したらハイドを解いてディスペル」 「…お、おぅ」 「………よし」  僕は小さく呟いて息を吸う。右手にフォーチュンソード、左手に人盾、羽ベレーも準備OK。 「…っ、バーゲンセール始めましたっ!!!!」 「へ!?」 「えぇっ!?今なんて!?」 「……ラウドボイスだよ」 「………………そう、……ですか」  目を点にしている二人を見て、僕は視線をそらす。  叫ぶのが必須のこのスキル、やはり人の目は痛いんだよね。雄たけびって流石に抵抗あるし、と なったら意味のある言葉を叫ぶべきかなと。 「じゃあコンはハイドを。コンが消えたらフィーナはそれ飲んで」  僕の指示に二人は頷いて行動を起こす。    ……さぁ、戦闘開始だ。  Pvを選んだ理由。  プレイヤーの目のつくところで一般マップでの戦闘を避ける為。  未実装室内では調度品を壊さないようにする為の二点。  ここならば問題はない。  こくんと喉を鳴らすその様子を見て、僕は地面を踏みしめる。盾と幸運剣をきつく握り次に来る であろう事態に備える。 「……、………」  カラン、と空になった瓶が落ちた。  フィーナはしばらく無言だった。…………あれ?  狂気ポはいわゆる興奮剤、飲んですぐに症状は現われる。破壊衝動と言うか、とにかく暴れたい って感情が押し寄せるはずだけど、随分と静かだ。  ……リンカーやWIZは魔法職だから、効果が現われないのかな? 「………なんで、」 「ん?」  ややあって、ポツリと呟くようなフィーナの声が聞こえた。 「…なんで、かな?なんで何も言わないかな?」 「えっと、フィーナ?」  俯いたその姿にどんな表情を浮かべているのか良くわからない。……なんだろう、これは。  そうだな、言うなれば『嵐の前の静けさ』に見えるのは、気のせいじゃないと思う。  たぶん、そろそろ来る。 「なんで説明しないかな!?なんで隠すのかなっ!!?」 「っ!?」  キッと、顔を上げたフィーナはものすごく睨みを効かせていた。……これは怖い。  コゥッと空気が舞う。『温かい風』、色合い気配、恐らく闇。……そうですか、闇デスカ。  地面を蹴り、そのまま僕に向かってくるフィーナ。姿を消しているコンはそのターゲットとはな りえないから、当然の選択だ。  タイリギ、Agiカンスト。その速度は余りに速く、当然僕には対処しきれるものじゃない。  属性が付与された段階で、装備はそれに対応するものに変更している。ダメージ自体は大きなも のじゃない。それに、イミュンや三減盾、羽ベレーによってその威力は大きく削られる。  ………けど、怪我は当然するんだけどね。  反撃はしない。避けて耐えるのが僕の務め。  動きは、単純…だと思う。だって僕にもその動きが読めるのだから。読めても避けれないのが辛 いところだけど。 「コンっ!!ディスペル!!」  フィーナの動きは、単純、とは言いつつもその速度は相当なものだ。高Agi、タイリギ、そして 狂気ポの効果。  立て続けに迫るその剣閃には押され続ける。長い時間これを耐えたいとは思わない。……が。  ところがコンは姿を現しているのに、肝心のディスペルが来ない。 「何してるの!?」 「狙いさだまんねっ!」 「えっ!!?」  魔法って自動追尾みたいなものじゃなかったっけ!?  って事は取り押さえないといけないって事!?それは流石に想定外!  Agiカンスト、レベル85、木琴付きのフィーナを取り押さえるって地味に大変なんだけどっ!  捕まえてもStr差で押さえ込むことも難しいし、あー、もうっ!メギン借りるべきだったか!?  普段温和なフィーナは、今や時折非難の言葉を発しながらナイフを振るっている。それが本心か 反転した性格の反動か実に聞きたいところだね☆  僕がようやくフィーナを取り押さえるのは、何度か手痛いダメージを食らった後となる。  防具があっても結構ボロボロになるのはやっぱりステの関係上仕方ない事。  本当に、こういう時ばっかりはケミで来てしまったことを後悔してしまうよ。 「……あ…、わ、わた…し…?」  ディスペルは無事狂気ポの効果を打ち消してくれた。  我を取り戻したフィーナは呆然と僕を見る。白ポで傷を治している僕の姿にフィーナは徐々にそ の表情を青褪めさせていった。 「う……嘘……でしょう…?」 「ところが嘘じゃないんだよね」  僕の横にはジオグラファーが咲いている。呆然としているコンの姿も見える。 「そ、そんな…」  へたり込んだフィーナはわなわなと自分の手を見ていた。  その様子に、フィーナは自分が何をしていたか憶えているようだ。  意識が完全に消えるわけじゃないから…、もしかしたら何とかなるかな、と言うのが僕の見解。  後はそれを繰り返し、狂気ポに慣らしていく必要があるようだ。  ……問題は、フィーナがそれを望むかどうか。 「これで判ったと思うけど、バーサークポーションってこういうものなんだよ。  いわゆる興奮剤だから、今まで使ってきたスピポやハイスピポとは根本的に物が違うんだ」 「こ、こんな…事になるなんて…」 「でも良かったよ、何も知らないで使う前に確かめることが出来て。  さて、フィーナに伝えることがあるんだけど」  僕の言葉にフィーナは身体を竦ませる。 「それ飲んだ時の記憶があるからこそ、今震えているんだよね?  だから、大丈夫。  フィーナならそれ使いこなすことが出来るよ。  だけど、慣らすのに時間は掛かる。  続けるか、やめるか。  どうする?」 「………」  フィーナは俯く。恐らく考えているのは僕やコンの事だろう。 「……めいわ」 「迷惑なんて気にしないこと。初めからそう思ってるんなら僕は説明だけして今ここにいないよ?  コンも、当 然 手 伝 っ て く れ る よ ね ?」  にっこりとコンに笑いかければ、びくっと身体を竦ませて。 「はっはっはっは〜、当然さーねー」  と、冷や汗にじませて言ってくる。コンバータ委託販売以外にも色々と貸しがあるからね。使え るものは使わなくちゃ、僕は優しい人間じゃないんだから。  フィーナの方を見ると、唇を固く結び俯いている。葛藤しているのがよくわかる。 「……あの!」  顔を上げたのはややあって。その表情に僕は微笑んだ。決意の表情。 「私がこれを克服できるまで、手伝ってください!」 「……了解。そうと決まったら徹底的にやるからね?」 「はい、お願いします!」  僕はそのフィーナに重要な事を伝える。これは伝えなければいけない。 「それじゃあまず最初に、…………………………………その木琴外してね?」  そして、狂気ポ特訓は1週間に及ぶ激戦を繰り広げるのであった。 --------------------------------------------------------------------------------------- ケミの人が腹黒いのは仕様です。 リンカ子にはバルーンハットとポイズンナイフを持たせて見たくなります。 恐らく、その1週間に使用した狂気ポの数はとんでもないことになってそうですね。 でもそれよりも、ケミの人が使った白ポの方が多そうだなあ…。 と言うことで>>694さんへ。117より。ネタが降りれば書くのが己のジャスティス! とは言いつつもエピローグ書いた後だとギャップ激しすぎ。