それにしても、リザで生き返る人と、生き返れない人にはどんな違いがあるんだろう。 そんな答えも出そうにないことを考えていると、いつのまにか行列の歩調が速くなっている。 誰かが叫んでいる。 「よぉーし、お前ら!気合を入れ直せ!市民にシケたツラぁ見せる奴は、ぶっ飛ばすぞ!」 その声が途切れる頃、列の前方から歌が聞こえてきた。先頭にいるはずのリチャードが、歌い始めたのかな? 歌はどんどん、後ろの方へ伝わってくる。いつの間にか、鼓手もそのテンポに合わせているではないか。 それは、行軍のための歌だった。拍子でそれが分かる。といっても、勇ましい軍歌ではない。俺なら、戦いの前 には絶対に聴きたくないだろう。 「故郷で恋人が待っている。」 短くまとめれば、それが歌の中身だった。 なるほど。みんなの歩調も、速くなるはずだ。いまひとつ、俺の心は晴れなかったが。ほんの一瞬だが、 見てしまっからだ。何人か前を行く一人が、肩を震わせたのを。マテオってあいつかな? しかしリチャードの機転のおかげか、王都が視界に入ってきたのはまだ日も高いうちだった。 早くも、先触れの伝令が門の前で角笛を鳴らしている。門からも反応があった。 もう、俺の居る場所からでも分かる。城壁の向こうは、にわかに騒がしくなってきていた。 そして南門をくぐり抜けるや、首をすくめそうになった!ノウンも目を丸くしている。思わず耳を覆い たくなるほどの歓声。惜しげもなく振りかけられる花びら。それらに包まれて、行列はゆっくりと城へと向かって進む。 優勝したスポーツ選手だって、これほど熱い歓迎を受けるものだろうか。 そしていよいよ城内に入った時、俺を呼びとめる声があった。 「クラウス殿、待たれよ。雪山殿から伝言をお預かりしています。」 「伺いましょう。」 「『解隊式にまで参加する必要はない。これより直接、今回の件をミケル様に報告すべし。貴殿とノウン殿の ご助力に感謝する。』、以上であります。」 「はっ。このクラウス、謹んで承りました。ルドルフ様に、よろしくお伝え下さい。」 その場の戦友達に別れを告げると、俺はノウンを連れて詰め所に続く階段へ向かう。控えの間で待つことしばし、 ようやくマスタークルセイダー様の前に通された。 「クラウス!よくぞ戻った!嬉しいぞ。」 「はっ。お預かりした物資は無事、フェイヨンに届きました!」 「うむ、ご苦労であった。見たところ、良き友まで得たようだな。剣士殿、名乗られよ。」 「ノウンとお呼び下さい、総長。」 「良い眼をしているな、ノウン殿。これからも、クラウスをよろしく頼むぞ。何やら良からぬ報告まで、耳に 入ってきているものでな。まずは、本人の口からじっくり聞くとするか。」 その言葉に心の臓を締め付けられるような思いを味わいつつも、俺は任務を果してからここへ戻るまでの一部始終を、 つぶさに報告した。ミケル総長は時にうなずき、時に目を丸くしながらも、最後までじっくり聞いていた。 しまいに深くうなずくと、重々しく俺達に話しかける。 「やはり、じかに関わってきた者の言葉は重みが違うのぉ。誠にご苦労なことであった。礼を言うぞ。ノウン殿や クラウスのような冒険者の手を借りねば、さらに酷い惨事になっていたはずじゃ。」 「もったいないお言葉です。」 「当然のことをしたまでです。」 思わずほぼ同時に、ノウンと声が重なる。 ミケル様は顔をノウンの方に向け、じっとその目に見入ってから彼に語りかけた。 「ノウン殿、貴殿にお会いできてとても嬉しい。これからも、クラウスをよろしく頼む。」 「ありがたきお言葉。非力な身ですが、できる限り力を尽くします。」 「心強いぞ。こたびは本当に、意外なことばかりでのう。」 「ミケル様にも戦いの成り行きは、計りかねるものなのですか?」 「うむ。勝負とは常に、終わるまで見えぬもの。まぁ、今回も勝つと信じてはいたがな。何と言っても、私に 従う者に弱卒などおらぬ。それよりも意外だったのは、貴殿らのことよ。」 ノウンも俺も、ミケル様の真意が見えなかった。思わず、ノウンが問い返す。 「私とクラウスのこと、と申しますと?」 「ノウン殿。クラウスはな、なかなか人と打ち解けない奴なのだ。周りから見れば、奴が嫌な人間ではない、と分かるまでには時が かかる。それが、どうじゃ。この短期間に、何人もの友を得ておるではないか。」 「なんと…クラウスがそのように気難しい性格だったとは、思いもよりませんでした。」  「さもあろう?だが、それだけではない。思わず耳を疑ったぞ。クラウスが貴殿を誤認逮捕したのみならず、酔いに任せて店を壊した と知らされた時にはな。私の知るクラウスは、そのような失敗など絶対にせぬ男だったのに。」 俺は思わず、首をすくめてしまう。 「少しは人間味を見せるようになってきたか、と思えばこの調子だ。心配の種が尽きぬ奴よ。」 そんな俺を見て、ノウンも返事に困っている。ミケル様は構わずに言葉を継いだ。 「クラウスの心境に、どんな変化があったかは分からぬ。ただ、奴には支えが要る。これは間違いなかろう。これからも、クラウスを 助けてやってくれないか?」 「とんでもないことです。助けられるのは、私の方でしょう。しかし、お約束します。友として、心を尽くすと。」 「ありがとう、ノウン殿。さて、これ以上貴殿らを引きとめるわけにはいくまい。そろそろ解隊式も終わる。休暇を賜った者達で、通路 が埋め尽くされてしまうはずだ。」 その言葉が切れないうちに、城内の広場から大歓声が聞こえてきた。どうやら、その休暇が告知されたようだ。俺は慌てて、退出を願い出る。 「そうなる前に、ノウンと訓練場へ行こうと思います。以前から約束しておりました。」 「熱心だな。まぁ確かに、冒険者たるそなたらに軍人の休暇など適用されないが。では、下がってよろしい。また、顔を見せに来てくれよ。」 「「はっ」」 総長に直立不動の礼すると、俺はノウンと詰め所を後にした。